見出し画像

宇都宮でスタートアップは育つのか?〜意外な強みで変革を起こすエコシステムとは〜

はじめに

「宇都宮は、少し前までスタートアップ不毛の地でした。」そう語るのは宇都宮市産業政策課の鈴木氏。しかし、今や宇都宮ではスタートアップエコシステムが急成長している。宇都宮では多くのスタートアップイベントが開催され、工業団地や大学などの強力な地域資源を背景に有力な起業家が育つ。プロスポーツチームの「栃木サッカークラブ」「宇都宮ブリッツェン」「宇都宮ブレックス」の3チームを有し、多種多様なスポーツの国際大会開催地でもある「スポーツのまち」として、スポーツテックにも注力する稀有な地方都市でもある。数年前まではスタートアップの片鱗もなかったという宇都宮市は、いかにして成長し、いくつものイノベーションを産む場所となったのか。本日は、宇都宮市のスタートアップ支援をリードする御三方をお呼びし、2月3日(木)に開催される「UTSUNOMIYA INNOVATION NIGHT – 地域からの挑戦 – イノベーションで変革する宇都宮。 ともに宇都宮をひらき、日本をひらく。」に先駆け、宇都宮市の躍進と、今後のスタートアップ構想について紐解いていく。

スクリーンショット 2022-01-27 22.21.03

鈴木 健一 -Kenichi Suzuki-
福祉系の専門学校を卒業後、2001年宇都宮市役所に入庁。建設、税金、子育て支援の部署を経験後、2015年から現在の経済部 産業政策課に配属。主にスタートアップ支援に注力し、2018年に「宇都宮アクセラレータープログラム」を立ち上げる。2020年には、東京虎ノ門CICTokyo内に、主にビジネスマッチング支援を目的にした「宇都宮サテライトオフィス」を設置し、「地域」を越えた「共創」に取り組んでいる。

スクリーンショット 2022-01-27 22.21.14

毛塚 幹人 -Mikito Kezuka-
つくば市前副市長。栃木県宇都宮市出身。東京大学法学部卒業後、2013年に財務省入省。国際局、主税局等を経て財務省を退職し、2017年4月つくば市副市長に就任。2021年3月につくば市副市長を退任し、地方自治体の政策立案や職員育成支援の取組を開始。三重県みえDXアドバイザー、栃木県那須塩原市及びさくら市の市政アドバイザーを務める。Forbes JAPAN誌30 UNDER 30(世界を変える30歳未満の30人)選出。1991年2月19日生まれ、30歳。

常川 朋之 -Tomoyuki Tsunekawa- 
2001年に商工会議所へ入所し、企業支援や総務職を経験。2015年に伝統工芸を活用した事業で起業。2016年アクセラレーターへ参画。地方行政が主催するプログラムを企画・運営し、東京都内・仙台市・愛知県・大阪府の起業家支援プロジェクトなどでメンターを担当し、地域のスタートアップ等を支援。2019年4月に改めて法人を設立、2020年度から大手企業の新規事業創出に関わるプロジェクトをハンズオン支援。自らも起業家としてコーヒー事業を展開している。

スタートアップ遍歴

先ほど鈴木さんから「宇都宮は数年前まで不毛の地だった」とのお言葉もありましたが、今では多くの支援と共創が生まれている宇都宮市のスタートアップのこれまでについてお教えください。

鈴木氏:そもそも宇都宮市は、製造業をはじめとする中小企業のしっかりとした土台があるのが特徴です。一方で、なかなか新しい産業がうまれにくいという側面がありました。そんな中、ちょうど20年前に行政と民間がタッグを組んでインキュベーションオフィスを立ち上げたのが宇都宮のスタートアップ支援の始まりです。徐々に活動を進めてきたものの、当初は行政としてはやはり限界を感じていましたね。

そこから私がスタートアップ支援に従事するようになった頃、ちょうど毛塚さんなどがいらっしゃったつくば市を中心に「スタートアップ」という言葉が自治体の中で言われ始め、ただの創業支援だけでなく、企業を成長させる支援が必要だということで、動きが加速して今の形に変わってきました。

常川氏:私は自身の起業経験から、仙台市や愛知県のスタートアッププログラムに関わっており、地域のアクセラレータープログラムをディレクションしている中で各地のスタートアップの盛り上がりを感じていましたね。一方で、自分の街はどうだろうかと気になり、宇都宮を見てみるとタネはあるものの、まだまだイベントも少なく、芽吹いていない印象でした。そこから、宇都宮アクセラレータープログラムに関わり出して、改めて何とかしたいという思いから活動を本格化させたのが3年ほど前です。

画像4

今でこそ毎月のようにスタートアップイベントが行われている宇都宮ですが、数年前まではまだまだ未発展だったのですね。ちなみに、研究機関も多くスタートアップも盛んなつくば市で市政を行っていた毛塚さんから見た宇都宮市はどのような印象でしたか?

毛塚氏:「不毛の地」という言葉もありましたが、実はスタートアップ育成という観点では、土壌がかなりあると感じていました。スタートアップという言葉こそ使っていませんでしたが、強力な経済界があり、経営人材も豊富です。さらには、宇都宮の規模は北関東では唯一無二です。つくばは25万人都市ですが、宇都宮はその2倍の規模です。東京と至近距離にあり連携がしやすく、規模と独立性も持つ地域はなかなかありません。都市のエコシステムはとても厚く、ひとたびスタートアップ政策などエコシステムづくりに取り組めば強いと思います。今でこそスタートアップ推進都市として注目されるつくば市もスタートアップという言葉を使うようになったのはここ5年ほどですし、宇都宮市はかなりポテンシャルが高いと感じています。あとはそこにどんな刺激を与えていくか、どういう方向性に持っていくのかで化けると思っており、本当に楽しみです。

宇都宮の強み

宇都宮市でスタートアップするメリットはどんなところにありますか?また、宇都宮市ならではのスタートアップへの介入についても、ぜひ教えてください。

鈴木氏:行政としてスタートアップ支援について常々考えている中で、他都市の事例などを見ていると、やはり地域の中だけでやっていると井の中の蛙になってしまうと思っています。行政が率先して域外に広く開いて、他地域の企業さんなど、幅広くリソースを取り込んでいくことが重要だと思い、4年前にアクセラレータープログラムを始めました。行政としてできることは場の提供だと感じています。スタートアップ企業が実証・検証できる場として地域を使ってもらえるように企画しています。また、宇都宮市は行政職員が密接に企業に入り込んで、かなり積極的に各セクターと繋いでいく動きもおこなっているので、他都市に比べ手厚い行政サポートがあると思います。

毛塚氏:中小企業のコミュニティは地方都市の中でもかなり整っており、スタートアップが育つ上で重要な連携先になってくると思っています。加えて、スタートアップに特化すると企業数はまだまだ多くないですが、宇都宮市出身の方が都内で起業していたりと、今は宇都宮にいなくとも潜在的に宇都宮のコミュニティに繋がっている方々もいらっしゃるので、物理的な制約にとらわれず地域外への連携強化もポイントと思います。

常川氏:私は、人材の観点で人の層が厚いなと思っています。加えて、多様性が意外とある街だと思っています。当初は保守的な街だと思っていたのですが、最近Open Session Fridayという誰でも参加できるピッチイベントやStartup Weekend宇都宮を開催した際に、地域の企業の方だけでなく、工業団地や研究所に所属する大手企業の方々が参加しており、こういった座組みや場さえあればスタートアップのシーンにも出てきてもらえるという発見がありましたね。もちろん市外から入ってきた人もいれば、市内で育ってきた人も優秀な方が多いなと思っています。土地柄としても東京から近いという特性からか、東京から受託の仕事が多かったと聞いています。ですので、IT人材やデザイナーも多く、僕自身は都内で働いていた経験もあるのですが、東京と同じ感覚で仕事ができる方が多い印象です。今までは一人一人能力の高い人材がいたにもかかわらず、表に出てくることがなく、横で繋がる機会がなかったのではと思っています。今後は、そういった人材が繋がり、連携し合える器のようなものが一つあれば、新しい動きができるんじゃないかと感じています。

画像5

大手企業の新規事業開発支援などもおこなっている常川さんから見て、スタートアップを宇都宮で起こしていきたいという方にとって宇都宮市はどのようなメリットがあるのでしょうか。

常川氏:そうですね。最近では、関わっている食品会社さんが宇都宮で実証実験をしています。工場が関わってくる新規事業なので、とてもやりやすいという言葉をいただいています。特に実証実験などでは、東京でやりづらいこともあると思っています。水田や工場、畑など、東京にない資源が宇都宮にはある上に、東京にある企業にとって宇都宮は物流の面でかなりのメリットがあり環境としてはかなり整っています。スタートアップにとって地の利はすごく大切で、D2Cの会社であれば送料は重要で、宇都宮であれば関東からコストを抑えて全国に配送可能です。東京近郊にあるからこそ得られる地の利を最大限活かせる地域ではないでしょうか。

スタートアップのプレイヤーと宇都宮市の間ではどのような共創が生まれていますか?

毛塚氏:宇都宮市のアクセラレーションプログラムの中でもかなり良い共創が生まれていると思います。今年度も、スタートアップと地元のスポーツチームや事業者さんで連携事業が既に生まれています。

鈴木氏:そうですね。アクセラレータープログラムで採択したスタートアップ企業が行政で道路管理をしている部署で、実際にドローンとAIで検査するといった実証実験が2回ほど実施されています。新聞も取り上げられたりとどんどん良い共創が生まれています。今年もたくさんの案件が走り出しています。2月3日のセッションではそういった直近の成功事例についてもお話ししたいと思っています。

画像6

宇都宮の成功の鍵とは

最後に、宇都宮市からスタートアップやユニコーン企業を産み出すキーファクターは何でしょうか。

毛塚氏:キーファクターは二つだと思っています。一つは東京などの他都市との連携のしやすさです。東京も含めて完全な都市なんてないからこそ、他のエコシステムとの連携により不完全性を補完することが重要です。もう一つは、都市の厚みです。しっかりとした都市機能があるのが宇都宮の強さで、スポーツや農業、工業も含め産業が揃っている稀有な地域が宇都宮です。

常川氏:宇都宮は、触れたことがないものに対しては食わず嫌いをするところもあるともいますが、一度食べてしまって良いとわかれば一気に広がっていくというところがあると思っているので、スタートアップも言葉としてはまだまだ馴染みがないかもしれませんが、新しい価値を世の中に作っていくという点でわかってもらえると、みんなで応援しようという気運を生む、ハブになり得る言葉だと思っています。なので、スタートアップは宇都宮にとても良いインパクトを生み出す触媒になるのではないでしょうか。

宇都宮でスタートアップを考えている方々に一言お願いします!

鈴木氏:とにかく、宇都宮に触れてみてください!何でも良いのでまずは接触していただきたいです。様々な話をして、いろんな話をする中で何ができるのか一緒に考え、共に走りましょう。

お知らせ

地理的な強みに加え、新しい要素も良いものはとことん取り入れ応援していく地域の文化も揃う宇都宮市。そんな宇都宮市でスタートアップを始めてみたい、企業の新規事業開発に向けた実証実験の場として宇都宮を活用したい、まずは宇都宮に接触してみたいという、起業家、学生、投資家、会社員の皆さんは、2月3日(木)に開催される「UTSUNOMIYA INNOVATION NIGHT – 地域からの挑戦 – イノベーションで変革する宇都宮。 ともに宇都宮をひらき、日本をひらく。」に是非ご参加ください!普段は宇都宮で活躍する御三方も会場にいらっしゃいます。

お申し込みはこちらから。

セッションの詳細はこちらから。

Venture Café Tokyoは毎週木曜日16時-21時に「Thursday Gathering(サーズデー・ギャザリング)」をCIC Tokyo(虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー15F )で開催しています。多様なイノベーター達によるセッションやイノベーションを加速させるワークショップ等を通じて、参加者は学びを得ながら、そこで得た共体験を梃子にネットワークを拡げることが出来ます。良きイノベーションの輪を拡げることを通じて、共に世界を変えましょう。







この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?