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情が、湧くよね?

「最近さぁ、ミンミンゼミがいないんだよねぇ」


   ーーー へぇ。


「やっぱり、ミンミンゼミ減ったよねぇ?」
 ある男は、首を傾げている。


 月初、夏本番、セミが少ないという。

 翌日、別の男は言う。 
「ねぇ、最近、ミンミンゼミいないらしいよ。」


 ーーーほぉ。確かに最近、ミンミンしてないかもしれない。

「ミンミンしてない自覚、あった?」

 ミンミンしてない自覚は、ない。
 ミンミンに思い入れが、ないからだ。


「ミンミンついでに聞きたいんだけど、
セミって食えるらしい。
それについてどう思う?」


 ーーー人類にとって、食べられる物が多いにこしたことは、ないと思う


「有意義な意見だね、食の資源という意味では、種類が多いことは、我々にとってメリットだね」

 男は続ける。

「最近、ミンミンゼミの話題をよく耳にしない?
ある男から」

 何かが、つながった。

ーーー興味深いはなしですね。ミンミンゼミがいないと嘆く男を一人知っています。

「これは、ここだけの話にして欲しいのだけど」

 男は、身を屈めて、更に声色を下げ、こそこそと話を始める。。

「これは、俺の独り言として聞いて欲しい」

 ーーーほぉ。

「男はね、明け方、逗子の奥深くの森で、羽化前のミンミンゼミをそっと捕まえてくるらしい。

 そして、その羽化前のセミを、自宅の、網戸に、1匹ずつ、くっつけて行くんだと。

 あとは、ひたすら、待つ。


 ーーーあとは、ひたすら、待つ…


 そう、男は、待つんだ。羽化を。
 そして、1匹ずつ、羽化したセミを採取する。

 私は生唾を飲んだ。
 話は確信に近付いてきている。


 全部のセミが羽化した後、どうするんだ。
俺は疑問に思った。
聞いちゃいけない。
でも、男の話は続くんだ。


 ツーっと背中に冷たい汗が流れる。


 1匹、ぽちゃん
 2匹、ぽちゃん
  3匹、ぽちゃん…


 そうやって、素揚げにするのだと。


 俺は思った。
 なんで、自ら羽化するのを待つんだろうって。


 情が湧くじゃないか?って。
 殻を剥けばいいじゃないか?って。


 すると、男はこう言った。
「自分から脱いだほうが、興奮するでしょ」
 って。

 もうこれは、性癖の一種と同じだなぁと思って、震えた。


  *      *       *


この会話の数時間後、私は友人とジムに通いたいと言う話題で盛り上がっていた。

 すると、私の背後から、あの、男の声がした。


 「牛肉の15倍タンパク質の高い低脂肪食材があるよ。食べ物に労は惜しまないんだ。」


 と。



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