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【書評】 「限りある時間の使い方」

Amazonより借用

限られた時間をどう過ごすか、という問い

「われわれに与えられたこの時間はあまりの速さで過ぎてゆくため、ようやく生きようかと思った頃には、人生が終わってしまうのが常である」

古代ローマの哲学者セネカ『人生の短さについて』

80歳まで生きるとして、人生はたったの4000週間だそう。
では、その限られた時間をどう過ごすか、という問いへのひらめきをくれるのがこの一冊。


いつになったら「満たされる」の?

必要なだけのお金が手に入っても、人は満足しない。欲しいものや真似したいライフスタイルがどんどん増えていくだけだ。もっとお金を稼ごうと頑張り、忙しさを何かの勲章のように自慢する。

オリバー・バークマン「限りある時間の使い方」

あなたにも覚えがあるかもしれない。自分の人生がこんなものでいいのだろうかという迷い。自分はもっとやりがいのあることをしているべきではないのか、 4000週間をもっと有意義に使うべきではなかったのかという葛藤。
たとえ傍目には大成功している人でも、そんな思いから逃れられるわけではない。自然のなかでリフレッシュしたり、古い友人と楽しい時間を過ごしたりしたあと、日常に戻るときの名残り惜しい気持ちを思いだしてほしい。なぜ毎日こんなふうに楽しく過ごせないのだろう。人生はもっと素敵な経験に満ちているべきじゃないのか?
現代はそんな疑問に対する答えを欠いているように思える。宗教はかつてのように普遍的な生きる意味を教えることができないし、消費主義は人生の意味とはかけ離れた方向に僕たちを誘導していく。ただし、こういう感覚はとくに新しいものではない。

オリバー・バークマン「限りある時間の使い方」

「後で楽しむために、今は我慢しなさい」
子どもの頃からそうしつけられた人も多いのでは。

けれど、いつまで今を犠牲にしつづければいいのだろう。死ぬまで?
この問いについて自分の中で解を持ち合わせているか否かで人生は変わる。
この問いを咀嚼できていないと、今を生きることができなくなり、未来のことしか考えられなくなると著者は説く。

つねに計画がうまくいくかどうかを心配し、何をやっているときも将来のためになるかどうかが頭をよぎる。いつでも効率ばかりを考えて、心が休まる暇はない。

オリバー・バークマン「限りある時間の使い方」

いっぱいになった受信トレイ、長すぎるやることリスト、SNSの際限ない誘惑。

わたし自身も、「ぜんぶ効率的に終わらせなきゃ」という強迫観念をもって色々なデジタルツールを使って時間・目標管理を行ってきた。

どれだけテクノロジーが進歩して効率化されても、そのツールが大衆化したときには自分以外のみんなも効率的にタスクをこなしてペースがそろうから、、結局やることの総量は山積みになる。
いつになったらすべてやり遂げられるの?!と空虚感をおぼえるのがオチだったり。

そんな現代人に対して著者がいわんとするのは、
「どれだけ効率的に動いてもすべてを実行するのは不可能。
だからこそ、すべてできるという思い込みを断ち切って、意識的に何に集中し、何をやらないか選択することが大切」
ということだ。

生まれ育った家を訪れたり、海で泳いだり、恋をしたり、親しい友人と深い話をすることにも、いつか終わりが来る。そして僕たちはたいてい「これが最後」と気づかないまま、その時を過ごしてしまう。… 実際、人生のあらゆる瞬間はある意味で「最後の瞬間」だ。時は訪れては去っていき、僕たちの残り時間はどんどん少なくなる。
この貴重な瞬間を、いつか先の時点のための踏み台としてぞんざいに扱うなんて、あまりにも愚かな行為ではないか。

オリバー・バークマン「限りある時間の使い方」

「未来をコントロールしたい」という執着を手放す

人は世界中のありったけの体験を味わい、人生を「生ききった」と感じたいと願う。ところが世界が提供してくれる体験の数は実質的に無限なので、どんなに頑張っても、人生の可能性を味わいつくしたという感覚を得ることはできない。

オリバー・バークマン「限りある時間の使い方」

自分がやりたいことも、他人に頼まれたことも、すべてをやっている時間はない。だから、それを認めて生きる。
必要なのは効率を上げることではなく、すべてをこなそうという誘惑に打ち勝つことが必要だと著者は説く。

わたしたちは、物事が期待通りに進むかどうか常に不安だ。
ただ、誰も未来のことなど分からない。

それなら、未来をコントロールしたいという執着を手放し、「今」に向き合うことが重要なのかもしれない。それが自ずと、未来につながっていく。

こうした考えはストア哲学や仏教での思想でも垣間みれるが、有限である人生のなかに散らばっている「二度とない体験」との一期一会を噛みしめることが幸せということかもしれない。

世界はどんどん加速し、僕たちは超人的なスピードで動くことを期待されている。その速度に追いつけなければ、幸せもお金もけっして手に入らない気がする。自分が置いていかれないかと怖くなり、安心感が欲しくてもっと速く動こうとする。
ところが不安は消えず、依存のスパイラルが加速していくだけだ。不安を消そうとするほど不安は増し、速く動こうとすればするほど、ものごとが思うように動かないという事実に打ちのめされる(その一方で、急ぎすぎて仕事のクオリティが下がったり、食生活が乱れたり、人間関係が悪化するなど、別の悩みもどんどん出てくる)。

オリバー・バークマン「限りある時間の使い方」

最後に

人はある年齢になると、衝撃的なことに、自分がどんな生き方をしようと誰も気にしていないことに気づく。人の期待に応えることばかり考え、自分を後回しにしてきた人にとって、これは非常に恐ろしい発見だ。自分のことを気にしているのは自分だけなのである

心理療法家 スティーブン・コープ

哲学、心理学などあらゆる観点から時間と時間管理について考えさせてくれたオリバー・バークマン著、「限りある時間の使い方」。

他人の理想でなく、「自分」が残りの人生で、何を人生で感じていたいか、触れていたいのか深く考えるきっかけをくれた本でした。

ビル・パーキンス著の「Die with Zero」で語られる人生観にも共通するところがあるので、併読してもおもしろいかも。


最後まで読んでいただきありがとうございました!
ふだんは旅暮らしや読書、ボードゲーム(とくにポーカーやチェス)をして猫のように気ままに生きてます。
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