東京大学出版会

1951年3月、本会は南原繁総長の発意により、日本の国立大学では初めての大学出版部とし…

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1951年3月、本会は南原繁総長の発意により、日本の国立大学では初めての大学出版部として設立されました。以来7800点を超える書籍を世に送り出し、2021年3月には創立70年を迎えました。https://www.utp.or.jp/

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座談会「『知の技法』をめぐって」〈第1回〉

○『知の技法』を作ったわけ (……) 船曳 『知の技法』をどうしてつくろうとしたかという問題ですが、最初言い出したのは小林さんでしたね。 小林 理由はいっぱいあるんですよね。複数のファクターがあるんですが、一つは93年度に行なわれた駒場のカリキュラム改革で「基礎演習」なるものができたこと。英語Iだけが目立っていますけど、ほかにも重要な改革があって、そうしたカリキュラムの大改定に対応するポリシーの一環であるわけです。(……)大学教育のあり方そのものが根本的に変わらざるをえ

    • 緊迫するガザ情勢――示唆される暗い見通し【後編】/鈴木啓之

      他地域への波及 ガザ地区でのイスラエル軍による軍事行動が続くことで、他の地域にも動揺が広がっている。特に情勢が明らかに悪化しているのが、西岸地区とイスラエル北部地域である。西岸地区では、死者数が過去に例のない規模で増えている。今年の8月の段階でパレスチナ人の死者数が「過去15年で最悪」と言われた昨年を超える状態にあった。2022年の西岸地区でのパレスチナ人死者は154人である。ところが、10月7日から11月4日までの時点で、西岸地区では新たに136人が死亡する事態に陥った。

      • 緊迫するガザ情勢――示唆される暗い見通し【前編】/鈴木啓之

        2023年10月7日から、ガザ情勢が過去に例のない緊迫状態になった。ガザ地区からイスラエル南部に侵入したパレスチナの武装戦闘員によって、外国人を含めた1400人が殺害された。南部の農村部で出稼ぎをしていたタイ人や、多くはイスラエルとの二重国籍者と考えられるウクライナ人も20人から30人の規模で犠牲になっている。また、200人から250人とも言われる人々が、ガザ地区に人質として連れ去られた。多くはイスラエル人だが、一方で犠牲者や人質の国籍は、欧米と東南アジア地域を中心に20カ国

        • パレスチナ情勢とイスラエル国内事情――「分離(ハフラダ)」の先に安定はあるのか【後編】/鈴木啓之

          「分離(ハフラダ)」は安定をもたらすのか? イスラエルの対パレスチナ政策を示すときに、それぞれの時代に特徴的な名称がある。1967年の第三次中東戦争から数年間、イスラエルではモシェ・ダヤン国防相による強い提言もあって、占領地パレスチナ人の自由な移動を許可していた。この時代の政策を「橋開放政策」と呼ぶ。一方で、1980年代に入ると、イスラエルは占領地のパレスチナ人による組織活動に対して、取り締まりを強化していった。この頃の政策は、イツハク・ラビン国防相による発言から「鉄拳政策

        座談会「『知の技法』をめぐって」〈第1回〉

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        • 南原賞を受賞して
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        • 21世紀を照らす
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        • TODAI Book TV
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        • 70年を読む
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        • 70周年記念出版
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        記事

          パレスチナ情勢とイスラエル国内事情――「分離(ハフラダ)」の先に安定はあるのか【前編】/鈴木啓之

          パレスチナ/イスラエル情勢が、近年稀に見るほど緊迫した。今年(2021年)4月からエルサレムで断続的に続いていた衝突が、ガザ地区とその周辺での軍事衝突に発展したのは、5月10日のことだった。パレスチナ人組織ハマースがロケット弾を放ち、イスラエル軍は軍用機による空爆を行った。5月21日の停戦までに、死者はイスラエル側で外国人労働者を含めて12名、パレスチナ側でおよそ250名となった。衝突の激しさは、2014年の「ガザ侵攻」以来のものだ。この事態について、この数年のあいだに現地留

          パレスチナ情勢とイスラエル国内事情――「分離(ハフラダ)」の先に安定はあるのか【前編】/鈴木啓之

          森 千香子『ブルックリン化する世界』「あとがき」より

          きっかけは一本の電話だった。 2014年10月、当時勤めていた一橋大学の後藤玲子さんから、日本学術振興会の頭脳循環プロジェクトの一環で1年間米国プリンストン大学に行ってもらえないかと連絡を受けた。 大学院生の頃からフランス郊外の研究をしてきた私にとって、欧州の他国は研究交流や比較調査などで馴染みがあったが、米国は個人旅行で行く以外には縁がなかった。それだけに米国行きの提案はまったくの想定外だった。だが不安より好奇心が優り、即座に「行きます」と答えた。 こうして1年後の2

          森 千香子『ブルックリン化する世界』「あとがき」より

          『メディア論の冒険者たち』刊行記念ブックリスト

          『メディア論の冒険者たち』刊行記念ブックリスト

          【サントリー学芸賞受賞記念!】江戸が東京となり、東京に議会ができる/池田真歩

          「首都の議会」の始動 東京都議会の前身である東京府会が開設されたのは、幕末維新期の混乱から東京が抜け出し、「開化」の先進地としての性格を強めつつある、明治12(1879)年のことであった。この東京府会に、そのさらなる前身ともいえる東京会議所(明治5年開設)と、府会から都市部の主要事業を引き継いだ東京市会(明治22年開設)とを加えて、同時代の東京人にとって新奇な機関にほかならなかった議会をめぐり、政治的な営みが始まる過程を論じたのが、筆者が3月に上梓した『首都の議会――近代移

          【サントリー学芸賞受賞記念!】江戸が東京となり、東京に議会ができる/池田真歩

          OSO18の最期――ヒグマ問題とはなにか(2)/佐藤喜和

          市街地周辺での出没と人慣れ アーバン・ベアという言葉が広く社会に定着しつつある。人の生活圏のなかでも人口密度が高い都市部の市街地に隣接する森林や緑地でヒグマの目撃件数が増している。OSO18の問題とは離れるようだが、この問題も人間社会の変化が意図しない新たなクマ問題をもたらしたという点では共通点があるように思う。 アーバン・ベア問題の背景には、まずクマ側の変化がある。北海道がヒグマとの共存を目指した1990年代以降、森林内でヒグマを積極的に駆除することがなくなり、ヒグマは

          OSO18の最期――ヒグマ問題とはなにか(2)/佐藤喜和

          OSO18の最期――ヒグマ問題とはなにか(1)/佐藤喜和

          OSO18の駆除 OSO(オソ)18が駆除された。北海道釧路総合振興局によれば、2023年7月30日に釧路町仙鳳趾村の放牧地で駆除されていたヒグマが、DNA鑑定の結果、OSO18であったと確認されたという。長年不安ななか過ごされた地元酪農に関わる方々、駆除に向けて尽力されてきた行政や捕獲従事者などの関係者の方々は、まずは安心されたことだろう。 OSO18とは、2019年7月16日に釧路総合振興局管内の標茶町下オソツベツで放牧中の乳牛を襲い、その後2023年までの5年間に標

          OSO18の最期――ヒグマ問題とはなにか(1)/佐藤喜和

          ゲーム研究を極める30冊〈5〉/吉田寛

          (6)ゲーム史(2冊)歴史叙述(歴史を書くこと)においては、データの量とストーリーの明快さは常にトレードオフの関係にある。この点で、200ページ少々の新書である多根清史の『教養としてのゲーム史』と、570ページの大著である中川大地の『現代ゲーム全史』は好対照である。 (6-1)多根清史『教養としてのゲーム史』(ちくま新書、2011年) 新書(ちくま新書)で200ページ少々とハンディな本だが、この1冊で、『ポン』(アタリ、1972年)や『スペースインベーダー』(タイトー、19

          ゲーム研究を極める30冊〈5〉/吉田寛

          ゲーム研究を極める30冊〈4〉/吉田寛

          (5)日本のゲーム研究・確立期(2010~2020年代)(6冊)2010年代に入ると、欧米の「ゲーム研究」の動向が日本にも接続され、アカデミックなゲーム研究がいよいよ本格的に加速する。 (5-1)上村雅之・細井浩一・中村彰憲『ファミコンとその時代:テレビゲームの誕生』(NTT出版、2013年) 日本の、いや世界のゲーム史のうえで最重要のコンソールといってよい「ファミコン」ことファミリーコンピュータ(任天堂、1983年)についてのほぼ唯一といってよい包括的学術研究。出版当時は

          ゲーム研究を極める30冊〈4〉/吉田寛

          ゲーム研究を極める30冊〈3〉/吉田寛

          (3)日本のゲーム研究・黎明期(2000年代)(3冊)2000年代の日本では、学者や批評家が積極的にゲームを論じるようになり、より一般的な読者を対象として想定したゲームについての学術書が、書店の棚に並ぶようになる。しかし同時代の欧米ですでに始まっていた「ゲーム研究」との接続が本格的に試みられるようになるのは、まだ先のことであった。「日本デジタルゲーム学会」は2006年に設立されており、2007年には「デジタルゲーム学会」の国際大会も日本(東京)で開催されているが、そのことを反

          ゲーム研究を極める30冊〈3〉/吉田寛

          「すゞしろ日記」No.222/山口晃

          ジャム・セッション 石橋財団コレクション×山口晃 ここへきて やむに止まれぬ サンサシオン|アーティゾン美術館 (artizon.museum) 山口晃作品集 - 東京大学出版会 (utp.or.jp)

          「すゞしろ日記」No.222/山口晃

          ゲーム研究を極める30冊〈2〉/吉田寛

          (2)日本のゲーム研究・前史(1980~1990年代)(7冊)日本では1980年代から、テーブルトークRPGのムーブメントを担った安田均や多摩豊が優れたゲーム論を書いていた。また、1990年代には学者や評論家によるゲーム論やゲーム産業論、ゲームクリエイターによるゲーム論が登場する。それらは「ゲーム研究」というディシプリンを意識して書かれたものではなく、なかには「研究」とは呼べないようなものもあるが、ゲームについての深い思索や鋭い洞察を含むものとして、今なお読むに値する。 (

          ゲーム研究を極める30冊〈2〉/吉田寛

          ゲーム研究を極める30冊〈1〉/吉田寛

          (1)日本語で読める遊び・ゲーム論の古典(5冊)「ゲーム研究(Game Studies)」は21世紀に誕生した新しい学問分野だが、遊びやゲームについての研究は古くから哲学や心理学、人類学、教育学といった分野でなされてきた。ここに紹介するのは、欧米で刊行されてきた遊び・ゲーム論の古典のうち、現在われわれが日本語で読めるものである。翻訳者に感謝しなくてはならない。 (1-1)ヨハン・ホイジンガ『ホモ・ルーデンス:文化のもつ遊びの要素についてのある定義づけの試み』(1938年、里

          ゲーム研究を極める30冊〈1〉/吉田寛