東京大学出版会

1951年3月、本会は南原繁総長の発意により、日本の国立大学では初めての大学出版部とし…

東京大学出版会

1951年3月、本会は南原繁総長の発意により、日本の国立大学では初めての大学出版部として設立されました。以来7800点を超える書籍を世に送り出し、2021年3月には創立70年を迎えました。https://www.utp.or.jp/

マガジン

最近の記事

【試し読み】序 「インターセクショナリティ」に何ができるのか(土屋和代)

多様性に満ちた現代社会を理解するうえで最重要概念のひとつと呼ばれる「インターセクショナリティ(交差性)」。この概念=分析枠組みを切口としたとき、さまざま地域・時代の現象をかたちづくる力学をどのようにとらえるができるのだろうか。本書では、インターセクショナリティという新しい分析枠組みを用いることで、各地域の歴史、社会、文化のいかなる諸相が浮き彫りとなるのかを、具体的な事例をもとに学際的に検討する。ここではまずインターセクショナリティという概念が生まれた背景について素描し、つぎに

    • 感謝と称賛――はじめに(正木郁太郎)

      組織や職場のマネジメントにおける「関係性」の弱体化 近年、欧米を中心に、従業員やその知識・経験などを「人的資本」と位置づけて重視する動きが広がっている。これは日本でも同様であり、2023年には上場企業に対して、自社の人的資本の実態(例えばダイバーシティ推進)や投資の状況などについて情報開示を迫る動きがある。組織のマネジメントに対して「人」という観点から研究に取り組む筆者の立場からすれば、これは望ましい変化だが、同時に「それだけでよいのだろうか」とも感じている。より具体的に言

      • 「休むこと」についての意識は変わってきたのか?/保坂 亨

        日本社会において現在、「学校を休むこと」、そして「仕事を休むこと」についての意識が変わりつつある状況が生まれていると私は考えています。今まで日本社会は、具合が悪くてもがんばって休まないことを美徳としてきました。ところが、新型コロナウィルス感染症によるパンデミック(以下コロナ禍)によって、具合が悪いとき、例えば37.5度以上の熱があれば、休むことが求められるようになりました。こうした生活が2020年当初から続いてきたことが大きな契機になったように思います。そして、ようやく202

        • 東京大学南原繁記念出版賞 表彰式(2024年3月21日)の 動画公開

          2024年3月21日、当会が主催する「東京大学南原繁記念出版賞」の第14回表彰式が、東京大学附属図書館ご協力のもと、東京大学総合図書館記念室にて開催されました。 式次第は下記のとおりです。式の模様はYouTube「東京大学出版会チャンネル(UTPress)」でご覧になれます。ぜひご参考ください。 1.開会の辞 ご挨拶(吉見俊哉理事長) 2.ご挨拶(坂井修一図書館長) 3.第14回「東京大学南原繁記念出版賞」表彰式 学術奨励金の贈呈(吉見俊哉理事長)

        【試し読み】序 「インターセクショナリティ」に何ができるのか(土屋和代)

        マガジン

        • 南原賞を受賞して
          12本
        • 21世紀を照らす
          5本
        • TODAI Book TV
          6本
        • 70年を読む
          6本
        • 70周年記念出版
          9本

        記事

          『ヴァナキュラー・アートの民俗学』あとがき(菅 豊)

          ミシェル・ド・セルトーは、政治的、経済的、科学的な合理性に立脚する「戦略」に対して「戦術」という重要な概念を示した。それは自分の力だけではどうしようもない弱者が、身の周りに何か使えるものはないかと探し出し、使えるものが現れるとすかさず摑み取って、細々と手を加えながら、どうにか切り抜けるような智恵、あるいは「もののやりかた」である。ここでこのセルトーの文章を引き写すのは他でもない。彼がいう「戦術」が、日本の民俗学を形作った柳田国男がいう「芸術」と一脈相通じているからである。

          『ヴァナキュラー・アートの民俗学』あとがき(菅 豊)

          座談会「『知の技法』をめぐって」〈第2回〉

          ○国際競争力のないカリキュラム 上野 私は学問というのは、簡単に言うと伝達可能な知の共有財だと思ってるんです。世の中には伝達不可能な知と伝達可能な知があって、伝達可能な知にはそれを生産するための技術があって、それは共有可能なんですよね。もう一つ学問をやる人びとは最低限このくらいの技法は共有しててほしいという要求は、もしかしたらもう一つ潜在的なニーズ、国際化圧力から来てませんか。 小林 それも十分視野に入ってましたね。これはだれに差し出してるのかというと、とりあえず駒場にい

          座談会「『知の技法』をめぐって」〈第2回〉

          杉山将 著『教養としての機械学習』試し読み

          1.1 人間の学習能力をコンピュータで再現する「機械学習」本書では人工知能技術、その中でも特に機械学習について解説しますが、そもそも機械学習(マシンラーニング)とは何でしょうか。 まず、「機械(マシン)」とはコンピュータのことです。機械というと組み合わせた歯車がガチャガチャと動いているイメージがあるかもしれませんが、“machine” を機械と翻訳し、それがコンピュータであるという認識で使われています。 そして、機械学習は機械の学習、端的に言うと「人間の学習能力のようなも

          杉山将 著『教養としての機械学習』試し読み

          座談会「『知の技法』をめぐって」〈第1回〉

          ○『知の技法』を作ったわけ (……) 船曳 『知の技法』をどうしてつくろうとしたかという問題ですが、最初言い出したのは小林さんでしたね。 小林 理由はいっぱいあるんですよね。複数のファクターがあるんですが、一つは93年度に行なわれた駒場のカリキュラム改革で「基礎演習」なるものができたこと。英語Iだけが目立っていますけど、ほかにも重要な改革があって、そうしたカリキュラムの大改定に対応するポリシーの一環であるわけです。(……)大学教育のあり方そのものが根本的に変わらざるをえ

          座談会「『知の技法』をめぐって」〈第1回〉

          緊迫するガザ情勢――示唆される暗い見通し【後編】/鈴木啓之

          他地域への波及 ガザ地区でのイスラエル軍による軍事行動が続くことで、他の地域にも動揺が広がっている。特に情勢が明らかに悪化しているのが、西岸地区とイスラエル北部地域である。西岸地区では、死者数が過去に例のない規模で増えている。今年の8月の段階でパレスチナ人の死者数が「過去15年で最悪」と言われた昨年を超える状態にあった。2022年の西岸地区でのパレスチナ人死者は154人である。ところが、10月7日から11月4日までの時点で、西岸地区では新たに136人が死亡する事態に陥った。

          緊迫するガザ情勢――示唆される暗い見通し【後編】/鈴木啓之

          緊迫するガザ情勢――示唆される暗い見通し【前編】/鈴木啓之

          2023年10月7日から、ガザ情勢が過去に例のない緊迫状態になった。ガザ地区からイスラエル南部に侵入したパレスチナの武装戦闘員によって、外国人を含めた1400人が殺害された。南部の農村部で出稼ぎをしていたタイ人や、多くはイスラエルとの二重国籍者と考えられるウクライナ人も20人から30人の規模で犠牲になっている。また、200人から250人とも言われる人々が、ガザ地区に人質として連れ去られた。多くはイスラエル人だが、一方で犠牲者や人質の国籍は、欧米と東南アジア地域を中心に20カ国

          緊迫するガザ情勢――示唆される暗い見通し【前編】/鈴木啓之

          パレスチナ情勢とイスラエル国内事情――「分離(ハフラダ)」の先に安定はあるのか【後編】/鈴木啓之

          「分離(ハフラダ)」は安定をもたらすのか? イスラエルの対パレスチナ政策を示すときに、それぞれの時代に特徴的な名称がある。1967年の第三次中東戦争から数年間、イスラエルではモシェ・ダヤン国防相による強い提言もあって、占領地パレスチナ人の自由な移動を許可していた。この時代の政策を「橋開放政策」と呼ぶ。一方で、1980年代に入ると、イスラエルは占領地のパレスチナ人による組織活動に対して、取り締まりを強化していった。この頃の政策は、イツハク・ラビン国防相による発言から「鉄拳政策

          パレスチナ情勢とイスラエル国内事情――「分離(ハフラダ)」の先に安定はあるのか【後編】/鈴木啓之

          パレスチナ情勢とイスラエル国内事情――「分離(ハフラダ)」の先に安定はあるのか【前編】/鈴木啓之

          パレスチナ/イスラエル情勢が、近年稀に見るほど緊迫した。今年(2021年)4月からエルサレムで断続的に続いていた衝突が、ガザ地区とその周辺での軍事衝突に発展したのは、5月10日のことだった。パレスチナ人組織ハマースがロケット弾を放ち、イスラエル軍は軍用機による空爆を行った。5月21日の停戦までに、死者はイスラエル側で外国人労働者を含めて12名、パレスチナ側でおよそ250名となった。衝突の激しさは、2014年の「ガザ侵攻」以来のものだ。この事態について、この数年のあいだに現地留

          パレスチナ情勢とイスラエル国内事情――「分離(ハフラダ)」の先に安定はあるのか【前編】/鈴木啓之

          森 千香子『ブルックリン化する世界』「あとがき」より

          きっかけは一本の電話だった。 2014年10月、当時勤めていた一橋大学の後藤玲子さんから、日本学術振興会の頭脳循環プロジェクトの一環で1年間米国プリンストン大学に行ってもらえないかと連絡を受けた。 大学院生の頃からフランス郊外の研究をしてきた私にとって、欧州の他国は研究交流や比較調査などで馴染みがあったが、米国は個人旅行で行く以外には縁がなかった。それだけに米国行きの提案はまったくの想定外だった。だが不安より好奇心が優り、即座に「行きます」と答えた。 こうして1年後の2

          森 千香子『ブルックリン化する世界』「あとがき」より

          『メディア論の冒険者たち』刊行記念ブックリスト

          『メディア論の冒険者たち』刊行記念ブックリスト

          【サントリー学芸賞受賞記念!】江戸が東京となり、東京に議会ができる/池田真歩

          「首都の議会」の始動 東京都議会の前身である東京府会が開設されたのは、幕末維新期の混乱から東京が抜け出し、「開化」の先進地としての性格を強めつつある、明治12(1879)年のことであった。この東京府会に、そのさらなる前身ともいえる東京会議所(明治5年開設)と、府会から都市部の主要事業を引き継いだ東京市会(明治22年開設)とを加えて、同時代の東京人にとって新奇な機関にほかならなかった議会をめぐり、政治的な営みが始まる過程を論じたのが、筆者が3月に上梓した『首都の議会――近代移

          【サントリー学芸賞受賞記念!】江戸が東京となり、東京に議会ができる/池田真歩

          OSO18の最期――ヒグマ問題とはなにか(2)/佐藤喜和

          市街地周辺での出没と人慣れ アーバン・ベアという言葉が広く社会に定着しつつある。人の生活圏のなかでも人口密度が高い都市部の市街地に隣接する森林や緑地でヒグマの目撃件数が増している。OSO18の問題とは離れるようだが、この問題も人間社会の変化が意図しない新たなクマ問題をもたらしたという点では共通点があるように思う。 アーバン・ベア問題の背景には、まずクマ側の変化がある。北海道がヒグマとの共存を目指した1990年代以降、森林内でヒグマを積極的に駆除することがなくなり、ヒグマは

          OSO18の最期――ヒグマ問題とはなにか(2)/佐藤喜和