東京大学出版会

1951年3月、本会は南原繁総長の発意により、日本の国立大学では初めての大学出版部として設立されました。以来7800点を超える書籍を世に送り出し、2021年3月には創立70年を迎えました。https://www.utp.or.jp/

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1951年3月、本会は南原繁総長の発意により、日本の国立大学では初めての大学出版部として設立されました。以来7800点を超える書籍を世に送り出し、2021年3月には創立70年を迎えました。https://www.utp.or.jp/

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【試し読み】『断絶としての教育』まえがき

本書は、フランスのマルクス主義哲学者ルイ・アルチュセール(1918-1990)の思想研究である。 とは言えそれは、アルチュセールの思想をまるごと相手にし、その生涯にわたる精神史を描き出そうとするものではない[1]。あるいはまた、アルチュセールのテキストで「語られていること」を過不足なく掬いあげ、哲学者の思想的「真実」を輪郭づけようとするものでもない。 本書はより限定的で、しかし挑戦的な研究である。すなわちそれは、アルチュセールにおける歴史の偶然性と必然性をめぐる思考に強い

    • 『平和の追求 18世紀フランスのコスモポリタニズム』川出良枝

      戦争のない世界の実現は人類の長期にわたる夢である。だが、それは、何度も裏切られ続けてきた夢であったと言えよう。東西冷戦の終結により、平和と安定の未来を約束されたかに思われた国際秩序は、またたく間に、戦争や内戦や軍事介入、テロリズムを含む様々な暴力の脅威にさらされることになった。ついには、力による一方的な現状変更を試みる陰惨な侵略戦争がウクライナの地で勃発し、第二次世界大戦後の安全保障の枠組みが揺るがされる事態ともなった。その一方で、市場秩序のグローバル化、国境を越える人や情報

      • 認知科学講座(全4巻)刊行に寄せて/鈴木宏昭

        2022年9月から10月にかけて、「認知科学講座」全4巻が刊行された。 第1巻『心と身体』(嶋田総太郎編) 第2巻『心と脳』(川合伸幸編) 第3巻『心と社会』(鈴木宏昭編) 第4巻『心をとらえるフレームワークの展開』(横澤一彦編) このような次第で4人の編者たちによるリレーエッセイを書く機会をいただいた。第1回目のこの小文では、認知科学に起きた大きな変化を取り上げ、なぜこの4巻になるのかも含めて、本講座との関連性について述べていこうと思う。 認知科学の第一世代――情報処

        • 「かわいい」だけじゃ、ダメなんです。/『兎とかたちの日本文化』あとがき

          実は今だからこそ正直に告白するのだが、私自身は決して「兎好き(ウサギマニア)」ではない。そんな私が気がつけば、兎とのつき合いもかれこれ20年近くになってしまった。 はじめは、江戸時代花鳥画研究の一テーマとして選んだ対象であったが、絵画だけでなく工芸品の文様も見てゆくうちに、すぐにもその伝統的な「かたち」のバラエティの多さに圧倒されると同時に、それらの「かたち」ひとつひとつの背景に存在する豊かな「ことばの世界」にも触れることで、私は瞬く間に「兎のかたち」の虜になっていった。そ

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        • 南原賞を受賞して
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        • 21世紀を照らす
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        • TODAI Book TV
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        • 70年を読む
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        • 70周年記念出版
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          【新刊試し読み】『歴史学の作法』「あとがき」より抜粋

          このところグローバル・ヒストリーや感情史、そして歴史叙述の問題をめぐって議論がかしましいし、歴史教育も大いに話題になっている。また大学でのテクスト用の著作もずいぶん出ている。とはいえ、歴史学が抱える多くの問題のすべてをまとめ、全体を関連づけた書物がないので、その穴を埋めよう、というのが本書執筆の動機である。 しかし、たんなる研究案内とか史学概論として総花的におとなしくまとまった書物――そうしたものが多いように見受けられるのだが――ではなく、全体史を射程に収めたこれからの歴史

          『映画の理論』──物理的現実の救済

          フランス亡命中のクラカウアーは、オッフェンバック論の脱稿後、映画を主題にした理論書を執筆することを計画していた。当初構想されていたのは、映画の歴史、社会学、美学を包括的に論じるという壮大なプロジェクトであり、そのための準備として、とりわけ1940年6月から翌年2月にかけて、マルセイユでアメリカ行きに必要なヴィザの交付を延々と待ちつづけるあいだに、全集版で260頁におよぶ最初の草稿──いわゆる「マルセイユ草稿」を執筆する。もっとも、「草稿」といっても、実質的には見取り図に近く、

          自らの健康を自らの手でコントロールする/ルイージ・フォンタナ

          慢性疾患や精神的苦痛が遺伝子の不良もしくは運の悪さによるものであるという間違った考えをもった人々や、病気に苦しんでいる人々を毎日のように目にする。しかしながら、それはとても残念なことである。というのも、多くの慢性疾患は予防可能であることが、現在明らかとなっているからである。 公衆衛生および医学の大きな進歩・発展により、欧米諸国における平均余命が1850年からほぼ2倍に延びた。衛生条件の改善および獣疫および害虫の減少・駆除、水道水の塩素処理、国によるワクチン接種プログラムおよ

          シリーズ『知の生態学の冒険 J・J・ギブソンの継承』ブックガイド(2)

          4巻『サイボーグ――人工物を理解するための鍵』柴田 崇先生 J · D・バナール『宇宙・肉体・悪魔――理性的精神の敵について 新版』 鎮目恭夫/訳、みすず書房(2020年) 人工物との融合による身体改造と人間進化を、人類の宇宙進出とからめて描き出した壮大なる奇書。アーサー・C・クラークをはじめ、アメリカのSF作家たちに甚大な影聾を与えた点で、 20世紀サイボーグ論の「原型」と呼ぶに相応しい。同時代のロシア宇宙論と英米で発達したサイボーグ論との関連など、様々な深読みを許す重層

          シリーズ『知の生態学の冒険 J・J・ギブソンの継承』ブックガイド(1)

          1巻『ロボット――共生にむけたインタラクション』岡田美智男先生 ジョン H・ロング『進化する魚型ロボットが僕らに教えてくれること』 松浦俊輔/訳、青士社(2013年) 最古の魚って、どのようなものだったのか。ホヤのような脊索動物は、どのようにして脊椎動物になったのか。著者らのアプローチは、とても素朴ながら、妙に説得力があります。実際に魚型のロボットを作り、プールの中に入れ、泳ぎを競わせる。上手に泳げたものを組み合わせ、この魚型ロボットをどんどん進化させていく。これを繰り返せ

          領域と結びつく地方政府

          都道府県や市町村の境界は,必ずしも山河のような目に見えるものだけで作られるわけではない.そのような境界によって作り出される地方政府の領域は,人々にとってどのような意味を持つのだろうか.境界によって確実に地方政府の領域が分けられているものの,場合によってはその境界がどこにあるのか自体明確にわからない,ということもある.移動の手段が極めて限られているとすれば,地方政府の領域は生活圏そのものを示すものであったかもしれない.しかし,交通機関が発展した現代,人々が日に何度も,いくつもの

          ロシア・ウクライナ戦争と今後の世界を見通す/『UP plus ウクライナ戦争と世界のゆくえ』あとがき(川島 真)

          「長い一九世紀」という言葉がある。エリック・ホブズボームが提起したこの視点は、フランス革命から第一次世界大戦を一つの時代と位置付ける。確かに、第一次世界大戦によって時代は大きく変わり、一九一〇年代はむしろ一九世紀からの連続として捉えた方が理解しやすい面がある。 「長い二〇世紀」、そのような視点がこれから生まれるのだろうか。確かに、コロナ禍とウクライナ戦争とが重なることで世界にさまざまな問いが投げかけられている。来るべき、ポストコロナ、ポストウクライナ戦争の時代は、まさに新た

          『世界建築史ノート』/中川 武 編

          中川武(編者、「11 日本の建築」執筆者) 中谷礼仁(「12 日本の近代建築」執筆者) 奥田耕一郎(「9 ヨーロッパの建築(アルプス以南)」執筆者) 中川 本書のきっかけとなったのは、2015年の私の最終講義です。世界の建築を訪れて見る、ということの重要性をテーマにしました。 早稲田大学建築史研究室には、世界中の建築を研究している人たちがいて、「世界にはこんなにおもしろい建築があるんだ」といって、最終講義にあわせて一枚のポスターにまとめてくれました。それがたいへん好評だっ

          いま「暴力」を考えるために/『「暴力」から読み解く現代世界』序章

          暴力を考えるうえでの近年の最大の変化として挙げられるのは、暴力の可視性の急激な拡大である。2019年4月の逃亡犯条例改正をきっかけに始まった香港の民主化デモでは、103万人が参加した6月のデモ以降、幾度となくデモ隊と警官隊との衝突が発生した。2020年5月には、アメリカでジョージ・フロイド氏が警察官に拘束された状態で死亡する事件が起こり、BLM運動が再燃する契機となる。ミャンマーでは2021年2月のクーデター以降、国軍のデモ隊への制圧によって多数の死者が発生している。いずれの

          緑先輩、タヌキをとことん語る/佐伯 緑

          タヌキは日本を代表する動物といえると思う。奥山から大都会や小さな島々まで、沖縄県を除く全国に広く生息しており、里山や都市近郊ではヒトと非常に近い距離で生きている。日本人の心にも彼らは住みつき、昔話などにこれほど出演する動物はそうはいない。あるときは妖怪、あるときは大明神、化けても化かしても愛されるキャラクターである。しかし、その生態や進化については、曖昧模糊なところがある。アナグマやアライグマとの混同も多発している。このあたりで現在わかっている情報と知識を整理し、一般向けに提

          歴史の学びはどう変わるか/『「歴史総合」をつむぐ』あとがき

          わたしたちがこの本の企画を考え始めたのは2020年の初めころでした。そのころはまだ遠く対岸の火事のように見えていた感染症はやがて身近でも流行し、コロナ禍という言葉を生み出すに至りました。歴史総合は、コロナ禍のいまだ明けきらない学校生活のなかで船出を迎えることになります.先行きの見えない状況で新科目が始まることに、不安な方も多いのではないかと思います。 おそらく多くの方が不安を抱きながら歴史総合の扱い方を模索していたように、この本も不安のさなかで生まれてきました。本書の構想は

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          東京大学南原繁記念出版賞 表彰式・贈呈式(2022/3/25)

          3月25日、当会の主催する「東京大学南原繁記念出版賞 表彰式・贈呈式」が開催されました。 会場の東京大学総合図書館記念室では、坂井修一図書館長をお迎えし、第12回受賞者の菊間晴子氏、新田龍希氏、第11回受賞者の江口怜氏、木山幸輔氏がお見えになり、当会からは吉見俊哉理事長、黒田拓也専務理事が参加いたしました。