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お話の樹


子どもの頃に
お話の樹の
絵を見たんだよ
広葉樹の木陰で
幼い男の子や女の子が
目を輝かせながら
おばあさんのことばに
耳を傾けている
ことばは風に運ばれて
森や草原を舞い
村や町や港を漂い
いろんな国や
いろんな海を巡り
世界を七色に織り上げて
いろんな物語になってゆく
梢では小鳥が囀り
リスと兎と山羊と
ネズミと猫と白い子犬
動物達も聴きに来ている
葉叢の奥には妖精の影
パンパイプを吹く者の
蹄のある足
 
きみも ぼくも
もう子どもじゃなくなった
木陰にはもう
誰もいなくなった
世界は瓦礫の色に染まり
梢の向こうの灰色の空を
ミサイルが飛んで行く
 
だけど忘れてなんかいない
オトギバナシなんかじゃない
今日みたいな春の風が吹いて来たら
耳を澄ませば聴こえて来るよ
お話の樹の木陰から
ぼくらの語ることばが
新しい世界の物語が


画:ルートヴィヒ・リヒター



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