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兎がほざく

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ショート•エッセイ、140字以内。毎日投稿、どこまで続く?
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2023年11月の記事一覧

兎がほざく971

兎がほざく971

善悪はともかく人間には底知れない自己中心で残酷な欲望があって普段は自分のそういう欲望と戦っています。

その矛先が他者に向く時はすでに自分との戦いに負けています。

お互いそうなってしまったらどちらもひどいことをします。

本当は勝つどころか生き残るのが精一杯です。

兎がほざく970

兎がほざく970

怪談はたいていの人が興味を持ちます。

自分の知らないこの世の秘密を垣間見たいからだと思います。

具体的な日時や場所が語られるとリアリティが増します。

二十世紀初頭の中国の西湖に胡弓の名人の亡霊が出て演奏を聞いた人が次々に正気を失う話は子どもの頃とても怖かったです。

兎がほざく969

兎がほざく969

睡眠中に見た夢を都度文章にしているのですが、起きた人間の立場で書くのでそれは夢そのものではないのだと思います。

しかし夢を自分がどう捉えたかは文章から読み取れます。

夢は自分の無意識を夢らしい形に置き換えて表現します。

記録は夢の読み解きの一過程です。

兎がほざく968

兎がほざく968

バイオリニストが最初の一音を出す時には実は最後の一音まで心の中で演じ終わっているという話を聞きました。

音楽とはある一瞬を時間的に演繹する芸術ということなのでしょう。

そして演繹は最後の一音が終わる瞬間に帰納します。

因果一如という言葉を思い出しました。

兎がほざく967

兎がほざく967

過去のよいことだけ思い出せ、とよくいわれます。

ぼくが過去をあまり思い出さないのはこの言葉にしばられているからみたいです。

でも辛かったことを一度は直視しないと逆に過去にしばられたままと気付きました。

子どもなのによくぞ生き抜いた、と自分に言えるのは自分だけです。

兎がほざく966

兎がほざく966

私鉄の終着駅の一つ手前の駅、つまり始発駅のすぐ次の駅は、たいていの特急は止まりません。

その駅前にはいつも特急に乗る人は見ることのない風景があります。

歩いて来られないこともないターミナルの繁華街がちょうど途切れた場所。

等身大の日常生活が見えてきます。

兎がほざく965

兎がほざく965

知らない町にはるばる来たけれど尋ね人には行き当たらない。

星野哲郎は函館という町にこのようなストーリーを想像して歌詞を作りました。

調子よい長調の曲がついて大ヒットしました。

尋ね人はまた別の土地に流れて行ったのです。

あなたのそしてぼくの尋ね人は誰でしょう?

兎がほざく964

兎がほざく964

花火は送り火のような気がします。

闇の彼方に帰って行く人へ別れを惜しむ気持ち。

暗く遠いところに光が届くように。

姿が見えなくなると同時に光の残像も瞼の中に消えて行きます。

花火大会はきっと集まった群衆の何倍もの人が向こうから振り返って見ています。

兎がほざく963

兎がほざく963

子どもの頃は妖怪が大好きでした。

うちにお化けが出るといいと思って柳の枝を敷地の隅に挿し木しました。

挿し木は根付きました。

柳に無関心だった家の人はぼくがなぜ挿し木をしたのか気付くと抜いてしまいました。

それで結局ぼく自身が妖怪になって現在に至ります。

兎がほざく962

兎がほざく962

換喩とはある言葉を意味の近い言葉に差し替えることです。

夕焼け空は緋の衣。

では隠喩とは?
ある言葉を換喩の可能な言葉の鎖の外にある言葉で上書きすることでしょう。

夕焼け空は失われた故郷。

決して同等でない二つの意味が交換されます。

兎がほざく961

兎がほざく961

ぼくは文字にするものはぼくの寿命を超えて残るつもりで書いています。

残るだろう、とか、残したい、とかでなくて、言葉自身がこう残りたいと思うであろうように。

なんのために?
言葉のために!

自分ではそんな曲芸を頑張ってやっているつもりになっています。

兎がほざく960

兎がほざく960

ぼくの子どもの頃のピアノの先生は男の人でした。

メソッドはドイツの伝統の通りでした。

弟子が次々別の教室に去っていくのに「ほかに好きなことができたから辞めたのだろう」と言って気にしませんでした。

ぼくの演奏を聞きながらよく気持ちよさそうに眠っていました。

兎がほざく959

兎がほざく959

きっと文化はみんながデジタルで受発信できるようになって「劈開」したのです。

文化というまとまった結晶の塊が趣味という無数の破片になって。

ぼくたちは結晶の名残りを図書館に見つけに行きます。

文化の一等車に文豪が乗っていた時代があったのです。

兎がほざく958

兎がほざく958

やさしさとは愛想のよさやサービスのよさとは異なります。

わがままを聞いてくれることとも違います。

無愛想でぶっきらぼうなやさしさだってあるのです。

丁寧で礼儀正しい無関心だってあるのです。

相手に対して偽りがなければそれだけでやさしさです。

まずはそこからです。