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詩集

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現代詩を中心に、文語詩や英仏語の詩も収録しています。
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記事一覧

星たちの面影へ 【詩】

星たちの面影へ 【詩】

ぼくの生まれる前
夕日はそれは眩しかったけれど
嵐はそれは激しかった

だからもう戻るつもりはない

ここは安全地帯だ
跪いている限り
押し合いへし合いを忍ぶ限り

ときどき星たちの面影を宿す
君たちを見かけると
背中の羽根の痕跡が疼く

これでよかったのか?

答えはぼくがみつけるさ

ぐっすりと 【詩】

ぐっすりと 【詩】

自分が自分に向けた怒りほど

悲しいものはない

ゆるしてくれる人はいないし

泣きつける人もいない

自分にはせめて言ってあげようよ

泣いて 泣いて

そして疲れたら

ぐっすりおやすみなさい と

雨読 【詩】

雨読 【詩】

この本を読み終えて悲しいのは
もう次には書いてもらえない気がするからだ

あらすじはさっぱり思い出せないし
つらい気持ちでいっぱいだけれど

希望を捏造することにまだ絶望していないことだけはぼくにもわかった

また書いていただけますか?

お願いする勇気がほしいです

花桃 【詩】

花桃 【詩】

桜の咲く前に
花桃の色香に迷ふなんて

僕は不良少年なのでせうか

石鹸の匂ひよりも前に
ふらんす香水にむせることに
慣れてしまひました

花桃は僕より三つ歳上と言ひました

登り坂の唄 【詩】

登り坂の唄 【詩】

あきらめないで
続けるか

だめでもともと
なにも失うものはない

おなかがへったら
ごはんを食べて

もっとおもしろいことが
見つかるまでは

あきらめないで
続けるか

クリームソーダ飲もう 【詩】

クリームソーダ飲もう 【詩】

青い空にアイスクリーム浮かべたら
クリームソーダを飲もう
なみだは春風にぬぐってもらって
こぶしの花もふんわり白いんだもの

レディ・ラザルス (シルヴィア・プラス作)【訳詩】

レディ・ラザルス (シルヴィア・プラス作)【訳詩】

また やりました
十年ごとに巡る年に
こうすることにしてる

まるで歩く奇蹟ね わたしの皮膚は
ナチの電灯の笠みたいに白くて
わたしの右足は

文鎮の塊みたい
わたしの顔は無表情で キメ細かな
ユダヤの亜麻布みたい

ナプキンを剥がしてごらんなさい
わたしの敵さん
どう わたしのこと こわい?

鼻が?眼のくぼみが?歯並びが?
息からすえた匂いがしても
一日で消えるわ

もうすぐ もうすぐよ 肉は

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空からくだった金色の涙は枝にたまるとしずくになって卵に変わりました。その卵から生まれた元気な命はもうサナギになりました。サナギから出てくる蝶に名前をつけてあげましょう。ぼくならきぼうと名付けます。あしたにはきっと飛び立ちます。

ひらりはがれる 【詩】

ひらりはがれる 【詩】

写真とは時の遺影だ

時の遺影は壁に貼ると窓になる
連絡船の窓になる

船が音もなく出航すると
窓の風景は後方へと流れて

わたしの方が写真になる

写真は壁からひらりはがれる
そして誰の時でもなくなる

写真とは時の遺影だ

bicology 【詩】

bicology 【詩】

ブレーキのこわれた自転車だけど
このまま漕ぎ続けるんだ
だって青信号だもの

行き先はわからないけど
このまま漕ぎ続けるんだ
だってさびしいんだもの

遠くのまぶしい光の方へ
このまま漕ぎ続けるんだ
だってずっと漕いでいたいんだもの

超人の幸せ 【詩】

超人の幸せ 【詩】

あなたはそういうご身分になられたのです
なにをなさってもよくなったのです

わたしどもが申しあげることはもうありません
なんでもかなわないことはありません

さからう者はおりません
かしずきに来る者はあとを絶ちません

もちろん

なにを召し上がっても
誰の命をお取りになっても
どんなことをおっしゃっても

そこでお願いがひとつございます
幸せという言葉を幸せにしてあげてください
なんでもおできに

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寒梅 【詩】

寒梅 【詩】

寒梅が咲くことを忘れないように
あなたの友があなたのことを忘れませんように

友がぼくを忘れたとしても
ぼくが友であることを忘れませんように

そこには梅の香りのように
ほのかでも清冽な薫りが漂っていますように

そしてその薫りに必ずこたえる
笑顔を忘れませんように

あちら・こちら 【詩】

あちら・こちら 【詩】

あちらとこちらとの境界線なんてやっぱりなさそうね

.....ああ、こちらとあちらとの境界線のことだね

どっちがこちらかわかんなくなっちゃいそう

......境界線がないならわかんないはずさ

さっきの古いビルを過ぎたところから急に林になったわ

......霧が籠めてもう後ろは見えないよ

学士の初恋 【詩】

学士の初恋 【詩】

彼は今や女高師の一学生以上のものとなつた彼女に手紙を書くべきか、書くならば赤裸々を曝け出すべきか、希臘神話に擬へた叙事詩に仕立てるべきか、考へ倦ねながら大学の龍岡門を出てフラフラと聖橋に差し掛かり、ニコライ堂の円屋根に相談しやうにも弁ずべき言語を知らぬ己に独り苦笑した。