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短編小説

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#創作

短編SF小説「ARガールフレンド」- 13 拡張された没入感の落とし穴

短編SF小説「ARガールフレンド」- 13 拡張された没入感の落とし穴

12 人は、拡張されなくても存在さえしていれば、愛せる からの続き。

物理的な現実世界と、拡張世界であるARとのミックスワールドが人々にとっての”現実”となってから久しいこの未来の時代において。
ARガールフレンドを提供している運営会社とは違うARサービスを運用していたとあるAR企業の倒産によって、1つの社会問題が浮き彫りになった。
恋愛と言うテーマだけにおいても複数のAR企業がある中、『ARペ

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短編SF小説「ARガールフレンド」- 12 人は、拡張されなくても存在さえしていれば、愛せる

短編SF小説「ARガールフレンド」- 12 人は、拡張されなくても存在さえしていれば、愛せる

初めてミヤと手をつなぐことができたデート以降、二人で会うことになった日は、タケルの両手には常にグローブが身につけられていた。

そう、あれからもう片方も調達し(つまり更に5,000円払ったということ)、どちらの手でも、隣り合って歩く時にどっち側に立っていたとしても、ミヤと手をつなげるようにするために。

世の汗っかき男性諸君の中にも、一度は考えたことがあるであろう、手汗問題。手を握っている相手の女

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短編SF小説「ARガールフレンド」- 11 拡張された彼女の手

短編SF小説「ARガールフレンド」- 11 拡張された彼女の手

ドローンから受け取ったグローブを早速手にはめていると、ミヤがこっちに戻ってきた。

タケルの表情は明らかにニコニコしている。如実にニコニコしている。救いなのは、ニヤニヤいやらしい感じではないところだ。
純粋に嬉しかった。
ミヤに”触ることができる”(かもしれない)という急展開に、ドキドキニコニコワクワクが止まらなかった。

平常時のタケルの表情の分析が完了しているミヤからは、目尻、口角、諸々が明ら

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短編SF小説「ARガールフレンド」- 10 未来の宅配ドローン

短編SF小説「ARガールフレンド」- 10 未来の宅配ドローン

9 拡張されたメッセージ受信は、Googleグラスで夢見たアレ からの続き。

タケルはARガールフレンドを攻略するために相当な情報を読み漁っていた。
グローブはいわば、このゲームを真に楽しむ上での最初の登竜門。
生身の人間同士の恋愛で言えば、初めて相手の肌と自分の肌が触れ合う瞬間は、
多くの場合握手か、手をつなぐか、などだ。
(...もちろん他の部位から先に触れ合う人も中にはいることだろう。まぁ

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短編SF小説「ARガールフレンド」- 8 拡張現実はもはや仮想ではなく、”存在”する

短編SF小説「ARガールフレンド」- 8 拡張現実はもはや仮想ではなく、”存在”する

7 拡張されたショップ店員のコーディネートスキル からの続き。

世間に星の数ほどある人の好みをプログラムし、AR人間に「澄んだ青が好き」などと発言させることで、人に購買意欲を発火させているのである。
ミックスワールドにおけるトレンドとは、そのマーケティングデータの寄せ集めでできた傾向、という意味合いが強い。
つまりファッション業界が、

例えば『今年はオーバーサイズ』といった『画一的な流行りもの

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短編SF小説「ARガールフレンド」- 7 拡張されたショップ店員のコーディネートスキル

短編SF小説「ARガールフレンド」- 7 拡張されたショップ店員のコーディネートスキル

- 6 拡張されたアパレルショップ からの続き。

「よろしければ、コーディネートいたしますが、いかがされますか?」

「あ、、はい、ではお願いします。」

「かしこまりました。ありがとうございます。クローゼットリストをシェア頂いてもよろしいですか?」

この時点で、このショップ店員には、タケルをコーディネートするというサービスを提供することで、チップとしてインセンティブを受け取れることになった訳

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短編SF小説「ARガールフレンド」- 6 拡張されたアパレルショップ

短編SF小説「ARガールフレンド」- 6 拡張されたアパレルショップ

5 拡張された(アプリ内課金的)AR対応レストラン からの続き。

前述したように、食事やAR人間の恋愛相手の好みはユーザーには非公開である。相手の好みを好きに設定できるとなると、それはもはや恋愛とは言えない。
そこは現代、もしくはこの時代の"現実"での本物の人間同士の恋愛と同じく、
探り合い、失敗し、共通点を見つけることを楽しむ。

相手がARであっても、恋愛が一筋縄ではいかないところは、ミック

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短編SF小説「ARガールフレンド」- 5 拡張された(アプリ内課金的)AR対応レストラン

短編SF小説「ARガールフレンド」- 5 拡張された(アプリ内課金的)AR対応レストラン

4 拡張された映画館 からの続き。

立体映画館で映画の中の世界を体験(= この時代の映画鑑賞のこと)し終えたタケルたちはランチに行った。
ミヤはARだから、レストランで物理的な食事を食べることはしない。
しかしミヤも食べるのだ。食事を一緒に。

そのレストランのメニューからその食事を選び、ARの世界の中で、つまりタケルのコンタクトに映る世界の中だけで、彼女は美味しそうに食べる。

どういうことか

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短編SF小説「ARガールフレンド」- 3 時代で変わらないこと、一変すること

短編SF小説「ARガールフレンド」- 3 時代で変わらないこと、一変すること

2 拡張されたタケルの朝 からの続き。

いつもならこの時間に今日のToDoリストとスケジュールも一緒に確認しているところだが、それは昨日の時点でオフってある。せっかくのデートを仕事の通知に邪魔されたくなかったからだ。

ニュースのチェックだけはしておこうと思い、おすすめ速報の再生を許可する。
タケルのそこまで大きくない部屋の広さを考慮して、その身から2mの位置に立体映像で再生されるように設定して

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短編SF小説「ARガールフレンド」- 2 拡張されたタケルの朝

短編SF小説「ARガールフレンド」- 2 拡張されたタケルの朝

1スマホの先に待っている端末 からの続き。

拡張現実、Augmented Reality、通称AR。

カメラをかざしてキャラクターや、『名所の耳より情報』を閲覧していた遠い昔との大きな違いがある。

もちろん現代にもARはある、まぁ焦らずに。これから少しずつ解き明かしていくけれども、もしARがよく分からないということであれば、検索してみるといい。すぐにどんなものか分かることだろう。それぐらい現

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短編SF小説「ARガールフレンド」- 1 スマホの先に待っている端末

短編SF小説「ARガールフレンド」- 1 スマホの先に待っている端末

10Gがようやく人々の生活に浸透し始めた、現代から1000年も経ったわけでもない程度の近未来。
スマホなどもはや過去の遺物となり、人は体の好きな部位に通信端末を埋め込み、脳内にチップを併せて埋め込む。

電話を多用し、声で端末操作をしたい人は、脳内チップと、中耳高周辺に通信端末を埋め込む。こうした方が思考した時に誤作動を起こすことが防げる。

逆に、いちいち声を発することを望まない人は、脳内により

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短編もしも小説 「鳥の顔をした石像の正体 - 最終話 知らないことを、知らない

短編もしも小説 「鳥の顔をした石像の正体 - 最終話 知らないことを、知らない

「トトが本当に昔、奴隷として使うために人間を作ったんだとして。実は働かせるためだけでなく、人間は食料でもあったんだったとしたら。こわくね?」

「こわー。ちょっとやめてよ食事中に。」

「おれさ、こう見えて最近筋トレ始めたんだけど。めっちゃプロテイン飲まなきゃならないんだよ、最近の筋トレ法って。とにかくタンパク質を摂りまくって筋肉を効率よく肥大させようとするのね。」

糖分と脂質の塊を頬張りながら

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短編もしも小説 「鳥の顔をした石像の正体 - 11 塗り替えられた天使

短編もしも小説 「鳥の顔をした石像の正体 - 11 塗り替えられた天使

10 神話在る処に鳥人間在り からの続き。

「シュメール文明ではアヌンナキと呼ばれていた神とは、、」

「アヌちゃんっ!」
サクッと挿入するように反応するナオミ。

「鳥人間、すなわちトトがその神そのもののことなのか。
はたまた天使は神の使いであるという聖書の通り、あくまで使者なのか。
神話でも、現代でも、”神”という存在は文化や宗教、文献によってあまりにも多様すぎるきらいはある中で。
シュメー

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短編もしも小説 「鳥の顔をした石像の正体 - 10 神話在る処に鳥人間在り

短編もしも小説 「鳥の顔をした石像の正体 - 10 神話在る処に鳥人間在り

9 先住民が交信していた相手 からの続き。

「神々の指紋の発行以降、いまや広く知られていることだけれども、、
世界各地の神話には、例え大陸が離れていて各地の文化の色に違いはあれど、ギリシャ、インド、インカ、アボリジニー、ネイティブアメリカン、聖書、そして日本の神話にすらも。驚くべき共通性が見られる。

鳥に関わるものだけでも、例えば。
ネイティブアメリカンの間で伝えられる神話には、カモが海に潜り

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