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短編SF小説「ARガールフレンド」- 3 時代で変わらないこと、一変すること

2 拡張されたタケルの朝 からの続き。

いつもならこの時間に今日のToDoリストとスケジュールも一緒に確認しているところだが、それは昨日の時点でオフってある。せっかくのデートを仕事の通知に邪魔されたくなかったからだ。

ニュースのチェックだけはしておこうと思い、おすすめ速報の再生を許可する。
タケルのそこまで大きくない部屋の広さを考慮して、その身から2mの位置に立体映像で再生されるように設定してある。

いつの時代も、朝のニュースはあまり気分の良いトピックは揃っていないものだ。やれ国家間の紛争だの、差別問題だの、タケルは普段からそういう類の情報は見ないようにしている。株のトレーダーをしている訳でもなし、ざっくりとなんとなく把握する程度でも別に生きていける。
小さかった頃家族と一緒に住んでいても、おのおのが各自好きなものを脳内再生している家族だったし、だからといって家族崩壊することなく、家族間の会話もそれなりにあった。

同じモニターを食卓を囲みながらみんなで見て、自分が見たいわけでもない番組やニュースの内容が垂れ流されていることに価値を感じる人間は、もうこの時代にはほぼいない。
自分の好みにあった、自分が見たいものを選択する時代。

立体共有モニターは未だに街中に溢れているが、タケルの世代は小さい時から脳内映像再生が当たり前にある生活をしてきているため、自分が設定しているおすすめ情報とは関連のないコマーシャル映像が、外を歩いているだけで耳と目を意図せず侵略してくることがタケルは好きではなかった。
これは、共有モニターを家族やグループで一緒に眺める文化をよしとしていた親世代とタケルの世代との世代間ギャップにもなっている。

朝ごはんもカンタンに済ませ、身支度を始める。
前回彼女と会った時の服装を思い出す。前回と被らないように。

「ふふ。気づくかな。」

着替えて身支度も終え、約束の時間の1時間前になり、タケルは自宅を出た。


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彼女が向こうからやってくる。...彼女と呼んではいるが、まだそういう関係には至っていない。まさに今日、彼女をタケルのガールフレンドと呼べるようにするための日。
今日を契機に、二人は"次のステージ"に進もうとタケルは決めていた。

笑顔で彼女に手を振り返す。
「待った?」
「ううん、今きたばっかだよ。おはよう。」
「おはよ。よかった。じゃあさっそく映画館へレッツゴー!楽しみにしてたんだー」

タケルは自分で自分をどちらかというと口数多くない方だと理解していた。
だからこそ彼女の、自分にはない、無垢な明るさと、グイグイ引っ張ってくれるところが心地よかった。

...

映画館に着いた。映画館といっても、座って平面のスクリーンを眺める現代とは、時代が違う。
広大な敷地の壁と天井、そして空間までもが立体的に映画作品が映し出されるホログラム映写機になっている、立体映画館。

二人と他の観客は、まるでディズニーランドのアトラクションにでもいるかのように、立ったまま、始まるのを待っている。


(つづく)


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