短編SF小説「ARガールフレンド」- 6 拡張されたアパレルショップ
5 拡張された(アプリ内課金的)AR対応レストラン からの続き。
前述したように、食事やAR人間の恋愛相手の好みはユーザーには非公開である。相手の好みを好きに設定できるとなると、それはもはや恋愛とは言えない。
そこは現代、もしくはこの時代の"現実"での本物の人間同士の恋愛と同じく、
探り合い、失敗し、共通点を見つけることを楽しむ。
相手がARであっても、恋愛が一筋縄ではいかないところは、ミックスワールドでも同じなのである。
さて、タケルとミヤはというと...?もう少し覗いてみることにしよう。
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「タケルくん、覚えててくれたんだね」
ミヤは食事をしながら突然そう尋ねた。
「え?覚えてた?何を?」
聞き返しつつ、瞬時に同タケルは気付き、そしてこうも思った。
「(キタッ!!)」
「ふふっ、今日のそのシャツとっても似合ってるよ。前に私が『澄んだ青』が好きって言ってたから着てきてくれたの?」
タケルは心の中でガッツポーズした。
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今朝、服を選んでいる時、
前回と被らないようにするためだったのともう1つ、次に会う時は『澄んだ青』の服をどこかに取り入れようと決めていた。
そのために、普段は行かないようなオシャレなショップストリートに訪れ、『澄んだ青』っぽい服がないかを探し回った。
ファッションに疎いタケルは、自分に似合っているかどうかも自信がなかったので、ようやく見つけたこのシャツを着てみて女性の店員さんに勇気を出して聞いてみてもいた。
普段は恥ずかしくて絶対にそんなことは聞かないタケルは、、
「だ、大丈夫でしょうか。ぼく、これ似合ってるのかどうか自信なくて。。」
「はい!とてもお似合いです。もしかして今度彼女とデートとかですか?」
「え。あー、はい、まぁ。まだ彼女じゃないんですけど。」
「それでしたら間違いないですヨ!この色味は今のトレンドでもありますし、きっとステキにお見えになると思いますっ(ニッコニコ)」
ちなみにその店員は、相手が本当の人間なのか、ARなのかは聞かなかった。
ARがそういったトレンドや、バーチャル恋愛相手の好みを叶えたいという購買意欲を掻き立ててくれることが、人口減少著しいこの時代においては、
ファッション業界が助けられている一面でもあった。
人間がARと生活を共にする世界において、いや、そもそも人間が好きな誰かに気に入られようと手に取る武器の1つが、ファッション。
タケルの場合の『澄んだ青』とARであるミヤが言った何気ない一言。
アパレルショップ店員も、AR人間が発するこういった一言が、生身の人々の購買意欲を掻き立てているということを理解している、
という暗黙の了解がこの時代にはあった。
ファッション業界では、毎年誰かが意図的に決める流行りのカラーやスタイルを現実世界に取り入れてもらうことでかつては成立していた。しかしこの時代においては、ARの存在も人々のファッションに大きな影響を与えていた。
そう、"ARは存在している"のだ、現実に。
物理的な存在はそこまで大きな意味を成さない時代なのである。
しかも、その多様な服の趣味、好きな色合い、好みの組合せは、
AR人間の数だけ、ある種無限に生み出される。
時には、ある一定の共通した『ARの好みのファッション』が流行りのトレンドとして成立することもある。
ファッション業界は長らく過去のトレンドのリバイバルによって歴史が繰り返されてきたが、この時代ファッション業界も、データサイエンスによって成り立っている時代なのである。
そこにはショップ店員という存在に、これまでにはない新たなスキルが求められていた。
例えばこの時の店員の提案を覗いてみることにしよう。
(つづく)
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