くらげドロップス

なんの取り柄もない人間だけど一応詩人ってことにしてください。

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最近の記事

【短編】お酒の失敗

はじめは軽くひとりで飲むだけのつもりだった。その居酒屋はもの静かな佇まいで、普段ひとり飲みをしない女の私でも、ふらっと入ってしまう不思議な引力があった。清掃の行き届いた広い店内に、客は私ひとりだけ。運ばれてくる料理は華美はなくとも、一品ごとに風流があり繊細さが感じられた。しかし酒においてはすべてが異様に濃く、重々しい飲み心地があった。一時間ほど飲んでいた。店の様子は変わらない。私以外、他の客は一組も入ってこなかった。 壁に貼られたお品書きを眺め、料理を追加でいくつか頼も

    • 【詩】架空

      ぼくの頭のなかで咲いた 架空の桜が満開なので ぼくは架空の友達を呼んで 昼間からお酒を飲みまくって ふたりで大盛り上がり 架空の花びらが散るたびに ぼくらの時間も過ぎ去っていって 明日仕事行きたくねえなあ ぼくがぼんやりつぶやいて 架空のきみは無言で首肯して お酒がなくなってきて ぼくは架空ストアに行ってきて てきとうに架空ビール 架空チューハイなどを買ってきて 桜の木のもとに戻ってきて くだらない架空話をして きみの架空顔はうっすらかすんでいて 明日仕事行

      • 【詩】そして、みんないなくなった

        入場口で立ち尽くす ぽっかり抜け落ちたこころの隙間から 都合のいい理由だけをじいっと見つめて さびれ果てた遊園地に想いを馳せる ちんまりとした静寂 誰もがゆとりある日々を求めていた この落ちぶれた時代の片隅で 愛だとか夢だとか語らいながら 誰もが自由で大げさな何かを求めていた 美しいもの 素晴らしいもの 価値あるもの なんかいい感じのもの そんな金太郎飴のような理想を振り返り 沈黙する飛行塔を眺めて 断絶された景色をただ嘆くだけの愚かさよ 耳をすませは聴こえてくる 壊

        • 【短編】さよならの意味を教えて

          ダイバーシティの意味を教えてください。外国人観光客らの間で通じる、お台場の通称か何かだと思ってましたが、どうやら違うようです。ではダイバーシティとは一体。単語を直訳してみると、ダイバーは潜水士で、シティは街。潜水士の街。つまり沖縄のことでしょうか。それとも岩手でしょうか。あまり自信がありません。 蛙化現象は恋愛にまつわる言葉のようですが、どのような現象なのでしょうか。手が生えたり脚が生えたりするのでしょうか。だとすれば、手も脚も出なかった高嶺の花をとき伏せてものにしたとき

        【短編】お酒の失敗

          【詩】常識をください

          常識ってなんですか それって必要なものですか わりと重要な感じですか 持ってないとヤバいですか 世間知らずですか 常識というものは どこで買えばよいのですか どこのメーカーの どこのモデルが流行っていて 色はどれがエモいのですか 定価はいくらぐらいですか 必要経費で落とせそうですか まとめ買いしたら 安くなったりしませんか 送料は無料ですか みなさんは常識 持ってますか 家族や友達や恋人も みんな常識 持ってますか わたしは常識 持ってません そして知りません よくわ

          【詩】常識をください

          【詩】てへぺろ

          ある日世界は てへぺろに目覚めた てへぺろをすれば すべてが丸くおさまり すべてが赦される世界 ぼくもてへぺろ わたしもてへぺろ 毎日てへぺろ ずっとてへぺろ 料理に失敗したって てへぺろ 悪さして怒られたって てへぺろ 仕事で色々やらかしても てへぺろ 宿題ぜんぶ忘れても てへぺろ てへぺろは正義 てへぺろは優しさ 社会現象のてへぺろ 世間が絶賛するてへぺろ 雑誌をめくれば てへぺろ特集が紙面をかざり テレビをつければ 芸能人がてへぺろについて語る

          【詩】てへぺろ

          【詩】うさみみ少女、月へ旅立つ

          彼女は月へと旅立った 美味しいお餅を食べるために 彼女はロケットで旅立った ごおごおと音を立てながら 炎と煙を巻き上げて ロケットは月へと向かったが 彼女は興奮のあまり ぴょんぴょん 機内で飛び跳ねてしまった そのせいでロケットは傾いて よくわからない惑星の軌道に乗って そのまま月をぐんぐん抜き去って どっか消えた

          【詩】うさみみ少女、月へ旅立つ

          【短編】たのしいたのしいゴールデンウィーク!

          今日はとても明るい気分。にこにこるんるんだ。待ちに待った大型連休。胸のビートは高鳴るばかり。ぼくの連休はとてもゴージャス。見事なまでにあっぱれ。なぜならぼくの連休は、することが何ひとつとしてないからだ。心踊るスケジュールなんてものは一片もない。もの悲しい人間だね、ぼくは。でも、そんなことはどうだっていい。余り狂った時間を無為に消費する。それは至高であり愉悦。溢れんばかりの開放感。そう、ぼくは日常から解き放たれたのだ。 ぼくの爽やかな一日は、猫のトイレ掃除から始まる。透き通

          【短編】たのしいたのしいゴールデンウィーク!

          【詩】じんせいをやりなおしたい

          まさか きみに暴かれるなんて 思ってもみなかったけれど そうです これがぼくです だれも知らない あさましい不純物 こころの小箱に ずっと大事にしまってた 父も母も知らない 妻も姉も知らない 見るに耐えない不純物 情けない不純物 きみは丁寧に そして冷淡に ぼくの身体にはりついた 汚らしい虚栄の皮を 一枚はがして 一枚はがして 一枚一枚また一枚 ひっぱがして ひっぱがして 中からなんと 欺瞞なんてものが 虚構なんてものが 愚劣なんてものが あれよあれよと愉快に露出 き

          【詩】じんせいをやりなおしたい

          【短編】愚物のアイデンティティ

          今日は皆さんにご報告が何もございません。かねてよりお付き合いさせていただいているnoteに書くことが一切合切ございません。出だしは以前書いたやつの流用。手抜き。能無し。こんな知恵の足らない私だけど、少しはセンスのいい知的なことだって呟いたりできるのよ!ってとこ披露したいものですが、脳がメルトしてて全くなにも思い浮かびません。 せめて風貌だけでも格好よくなりたい。張りぼてで良いから、メッキ貼りで良いから、なんかこう「あの人けっこうイケてない?」みたいなこと言われたい。私の見え

          【短編】愚物のアイデンティティ

          【詩】ないものねだり

          おーいお茶を飲んで、口の中に出現したイマジナリーおにぎりを味わいながら、どうして丸は三角にも四角にもなれないんだろうって憂愁の想いを募らせながら、今にもこぼれ落ちそうなうろこ雲を眺めていた。なにも考えていない顔をしてみたり、たまに思いつめた顔をしてみたり、羨ましくなったり、妬ましくなったり。きっとそれはお腹がすいているからだ。口の中のイマジナリーおにぎり、ツナマヨ味ばかりで飽きてきて、こんぶ味やたらこ味も食べたいなんて思ったりするけれど、空腹はいつまでたっても満たされなくて、

          【詩】ないものねだり

          【短編】間違いだらけ

          「俺たち男はみんな変態だから」というきみの不適切な発言を赦すことはできない。変態なのは常にきみひとりだけであって、きみを除くすべての男性はきみより上品で聡明だ。きみは事あるごとに、巨乳は美しい、貧乳は麗しいなどと、くだらない戯言を口から発射させることに勤しんでいるようだが、きみのように「エロは世界を平和へ導く」と本気で思い込んでいる能天気屋の珍妙な幸福論は聞くに堪えず、ただ虚しいだけだ。 きみがあんまり白痴めいた言動を繰り返すものだから、ぼくはきみが女房からも娼婦からも

          【短編】間違いだらけ

          【詩】ハッピーバースデイ

          とうめいな炎 ケーキのろうそくに そっと おすそわけしてあげる とうめいな炎は だれにだってやさしい炎 だからなにも奪わない そしてなにも残さない きみの誕生日が来るたび とうめいな炎をあげる きみはただ いつものように なにもしないで 座り込んでればいい 余計なことしたら どうせ大惨事 だからきみはもう 座り込んでればいい ハッピーバースデイ ハッピーバースデイ みじめですね 苦しいですね とうめいな炎が 焼き尽くしてくれる きみの救いようのなさ 無力さ不埒

          【詩】ハッピーバースデイ

          【短編】ともだちがほしい

           女友達が欲しい。猛烈に欲しい。恋愛感情とか上下関係とか、そういうしがらみが介在しない女友達をつくりたい。お互い打算のない純粋で無垢な友情を育みたい。男の友人でも別に構わない。美しき友情の手前、性別などただの記号に過ぎないのだから。そもそも僕ぼっちだから友達欲しい。友達ひとりもいないから欲しい。寂しい。震える。  僕の求める理想の友達像とは、容姿端麗で頭脳明晰で高学歴で優しくて親が資産家で上品な人。そんな人が時折、格式の高いディナーショーに僕を誘って

          【短編】ともだちがほしい

          【詩】沼で溺れるわたしを微笑みながら傍観するきみ

          わたしは沼で溺れていた 沼で死にそうになっていた 満開の桜に囲まれた沼の中心で 春の風に吹かれながら 泥と花びらにまみれて溺れていた きみは優しい目をしていた 沼のそばでふんわりたたずんでいた 桜の花びらを頭にたくさんのせて 春の風に吹かれながら 沼で溺れるわたしに微笑みかけていた そんな危機的状況下 わたしの頭のなかでは きみがくれた遠いことばが 未練がましくリフレインしていた これは 実に都合の良い 悲観的エンドロール 縁どられたふたりの虚像は かすかに 到底叶

          【詩】沼で溺れるわたしを微笑みながら傍観するきみ

          【詩】ぜんぶ嘘

          嘘にまみれたこの日常 嘘が舞い踊る街のなか 僕も私もみんな嘘つき 嘘に喜び嘘に泣き 気づけば嘘に生かされている 嘘が転がる時代の片隅で 嘘を買い漁り嘘を着飾り ありふれた嘘を求め安堵する若者たち 嘘が無ければ満たされない ありふれた嘘という嘘 最近の若いやつは嘘まみれとのたまう じいさんばあさんももれなく嘘まみれ 嘘を食い荒らし嘘を飲み尽くし 湯水の如く嘘を消費し続ける毎日 振り返れば嘘 前を向いても嘘 だって仕方ない嘘なんだもの コンビニは嘘しか売ってないし テレビは

          【詩】ぜんぶ嘘