【短編】初デートで気をつけるべきこと
「初デートで気をつけるべきこと」
そもそもデートの約束を取りつけたからといって浮かれてはいけません。恋人なんてできないし、仮にできたとしても、それは君を破滅に追い込む悪辣な回し者だから、決して心を許したりしてはいけません。肉親と恩師だけが心の拠り所であることを存分に理解したうえで、あとはアニメや漫画の美女や美男のイラストにばかり想いを馳せていればいいのです。老舗洋食店の絶品シチューが、暗く冷たい厨房でじっくりコトコト何時間も煮込んで熟成していくように、君も陽光の当たらない陰気くさい部屋でじっくりコトコト妄想に妄想を重ねていれば良いのです。そうやって想像力を煮詰めていけば、だんだん脳裏に浮かんでくると思いますよ。アニメの美女がふと自分に向ける屈託のない笑顔が。漫画の美男が突如自分に壁ドンを仕掛ける悪戯な表情が。そしてあんなことやこんなこと、エトセトラ。するとどうでしょう。豊かな想像力のおかげで、初デートなんてもうどうでもよくなってきたでしょう。そうなったら話は早い。今すぐ電話で断りの連絡を入れるのです。あなたと交際するつもりなど未来永劫ないのだから、デートなんて時間の無駄なのだと、ハッキリ伝えてしまいましょう。そして連絡先を削除して、スマホをソファに投げ捨てて、ひとつ深い深呼吸をしたら、酒を飲みましょう。当然ひとりで。できるだけ度数の強いものがいいでしょう。孤独に打ちひしがれながら、浴びるくらい飲みましょう。そして泣きましょう。飲んで飲んで泣きじゃくって、嫌なことなんて忘れちまえ。初デートなんてクソだ。恋愛なんて茶番だ。一目惚れだの相思相愛だの、そんなものはすべてまやかしの絵空事。恋人がいないと寂しい?みじめ?そんなこと誰が決めた?でも!でも!それでも!好きな人と結ばれたい!自慢したい!見せびらかしたい!自分だけのものにしたい!束縛しまくりたい!上から下まで食べ尽くしたい!とかのたまう恋愛メンヘラ体質な君は、背中に「きゅんです。」って特大ヒラギノ角ゴシック体で書いたTシャツでも着て初デートに臨めば良いのです。それでいいんですよ。だって君らはきゅんだから。僕はいつも思ってますよ。休日に難波のホコ天あたりで、初めまして!とか言ってどぎまぎしてる若い男女なんかを見かけるたびに思ってます。きゅんだなって。脳内で相対性理論のLOVEずっきゅんが流れます。そして鬼束ちひろの月光が流れた後、もう全部爆発して木っ端微塵になればいいのになって思ってます。今日は初デートのアドバイスでした。
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