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【短編】たのしいたのしいゴールデンウィーク!

今日はとても明るい気分。にこにこるんるんだ。待ちに待った大型連休。胸のビートは高鳴るばかり。ぼくの連休はとてもゴージャス。見事なまでにあっぱれ。なぜならぼくの連休は、することが何ひとつとしてないからだ。心踊るスケジュールなんてものは一片もない。もの悲しい人間だね、ぼくは。でも、そんなことはどうだっていい。余り狂った時間を無為に消費する。それは至高であり愉悦。溢れんばかりの開放感。そう、ぼくは日常から解き放たれたのだ。

ぼくの爽やかな一日は、猫のトイレ掃除から始まる。透き通るような日差しのなか、清々しい気分でウンコをスコップでつっつきまわすぼく。耳にAirPodsなんか付けちゃってさ。BGMはもちろん、森山直太朗の「うんこ」。悪臭のなか、音楽に合わせてウンコを回収しまくるぼくは最高にイカしてる。なんて素晴らしい気分なんだろう。毎日の苦行が、連休ってだけでこんなに違うなんて。あんまり楽しいものだから散漫になって、すくったウンコの塊をついつい床に落として爆散させてしまったり。それの後始末で手にウンコがついてしまったり。けれど煩わしいなんて全然思ったりしない。なぜなら今日のぼくはゴキゲンだから。

そうしてトイレ掃除を終わらせたぼくは、スポーツウェアに着替えて朝のジョギングへ出発。もちろんAirPodsは耳に付けたまま。BGMは当然、ぼくの最近のヘビロテナンバー、DIR EN GREYの「軽蔑と始まり」!そんな縦ノリ気分で近所の高校をぐるりと周回していると、なにやら目の前に部活動の学生と思しき集団が。常に紳士的で上品なぼくは、追い越し様にさりげなく「部活動、ご苦労様。」と労いの一言をかけてあげるつもりだったけれど、ぼくの目に真っ先に飛び込んできたのは、もう心うち抜かれんばかりの笑顔、笑顔、笑顔。ああ、まぶしい。まぶしいというより、美しい。これは美しき青春というやつか。ぼくにも彼らのような輝かしい年頃がかつてあったように思われるけれど、うだつのあがらない今のぼくには到底辿り着くことのできない瑞々しさの高みに、彼らは君臨し、そして謳歌しているのでしょう。ああ、尊い。なんて尊いのでしょう。ぼくは無言で走り去り、感慨無量。とにかく気分が良くて仕方がない。

帰り道、喜色満面で横断歩道なんかを走っていると、信号無視で飛び出してきた自転車の爺さんにインネンつけられるぼく。「殺すぞてめえ!」そんな朝から威勢が宜しい爺さんに、ぼくはあくまで謙虚に、できる限り誠実な姿勢で「すみません」。なにしろ今日のぼくは気分が良いからね。多少他人に攻撃的な態度をとられたって、全然腹が立たない。むしろ今日に限らずとも、ぼくはいつだって平常心。怒ったりしません。満員電車で肩が当たったら、はい、すみません。仕事でクライアントに叱られたら、はい、すみません。スターバックスで自分の席が勝手に使われていても、はい、すみません。本屋のBLコーナーから出てきた女に意味もなく悪態つかれても、はい、すみません。サイゼリアで店員に無視されても、はい、すみません。普段からそんな感じ。だからまったくムカつかない。むしろ今日は最高に楽しい。もっと罵倒してくれたって良かったのに。その方が面白いネタになるんだから。愉快痛快。爺さんもそう思いませんか。あれ、もうどっかいっちゃった?恥ずかしがり屋さんだね、うふふっ。

本当はちっとも楽しくない。ただ精一杯、お道化を演じて、楽しい振りをしているだけ。クソみたいな連休。ぼくも友達と遊びに行きたい。飲みに行きたい。バカ騒ぎしたい。料理の話したい。ポケモンGOの話したい。後ろ指さされたい。嫌われて焦りたい。八方美人に苦心したい。そんなぼくの哀切なる訴えを歯牙にもかけない寡黙なきみとの関係に疲れ果てて、きみのことを想いながら寝床につきたい。

でも書いているうちに本当に楽しくなってきた。ぼくの連休にもようやく面白味が出てきたか。文章を書いたり、推敲したり、創作活動って本当に良いものですね。純粋に楽しい。詩人冥利に尽きる。しかし問題は、この文章を読んで楽しいと思っているのはぼくひとりだけであって、ぼく以外の全員は誰も楽しいと思っていないことである。そもそもみんな連休でどっか出かけてるもんね。知ったこっちゃないよね。どうでもいいよね。読まないよね。無惨。



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