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ハンス・ロスリング著「FACT FULNESS(ファクトフルネス) 」読書レビュー

世界の統計データが豊富に掲載されており、世界の貧富による差などがいかに改善されてきたかという情報をアップデートするために、特に学校を卒業して時間が経っている方にこそオススメしたい一冊。

アフリカの僻地で20年間感染症予防などの研究・治療をし、その後アフリカ、アジア、ラテンアメリカ地域における経済開発、農業、貧困、健康の間にみられる関係性に焦点をあてた研究をしていたスウェーデン出身の医者・公衆衛生学者の書いた本で、昨年よく書店にて平積みされていたため、表紙だけでも見たことがある方が多いのではないだろうか。

ファクトフルネスとは、端的にいってしまえば「思い込みをできるだけ抑えて、事実をきっちり見据えて世界をみること」。

多読な人ほど、どうしてもこの本がダニエル・カーネマンの「バイアスとヒューリティクス」の話の例文がひたすらに繰り返されているように思えてしまうのではないかと思う。

バイアスとヒューリティクスの副作用で代表的な「とっさの判断や計算が間違っていること」の事例は、私が読んだ本の中では記憶が確かならばユヴァル・ノア・ハラリ、ジャレド・ダイヤモンド、マッテオ・モッテルリーニ、そして私が敬愛してやまないナシーム・ニコラス・タレブ…他の本でもカーネマンの実験は繰り返し参照されている。(ファクトフルネスでも参考文献として挙げられている。)それらの本では、必要な論理の展開としてちょこっと出てくるだけなのだが、むしろこの本ではその説明なんじゃないかとすら思えてきてしまうのだ。
私自身はダニエル・カーネマンを実は1冊も読んでいなかったいなかったのだけれども、今回「ファクトフルネス」のレビューを書くにあたって「ファスト&スロー」は避けて通れないよなと思い、まだ触りだけなものの読みはじめてみたわけなのだけれども(お名前はかねがね…みたいな状態です/笑)、ロスリングの云う「ドラマティックな脳」とはカーネマンのいうところの「早い判断:システム1」、そして「ファクトフルネス」とは「遅い判断:システム2」だよねと。

カーネマンのいうところの説明をしてしまえば、「早い判断:システム1」は無意識にやってしまうような直感的判断で、「遅い判断:システム2」はシステム1で処理できないところやシステム1のエラーを監視しているような意識的で「ちゃんと考える」論理的判断なのだけれども全てをそれでやっているととにかく時間がかかってしまうから分かれている。で、問題となってくるのは、「早い判断:システム1」のエラーが「遅い判断:システム2」の監視をすり抜けてしまうケースなのだ。

さて、タイトル「ファクトフルネス」から読み取れる内容としては、確かにそうだし、私もはじめはそう思ったのだけれどもちょっと待ってほしい。それこそが思い込みによるエラーバイアスではないか。

おそらくむしろ逆である。

ロスリングの全体の主張としては、同じ地域・環境に住む「私たち」と、違う環境に住む「あの人たち」は変わらないということを言いたかったのではないかと思う。「あの人たち」とはいってしまえば、主に先進国に住む「私たち」に対する発展途上国・後進国なのだけれども、私たちですらほんの100年前は彼らと変わらなかったこと、そして彼らの環境は年々改善されており、今後は格差が縮小されていくであろうこと、そして何より、データという事実を元に彼らに対する偏見の払拭をしたかったのではないか、つまり「ファクトフルネス」を説明したいがために例を長々と出しているのではなくて、そういった事実を知ってもらいたいがために、そして今後似たような事例の際に偏見を持たず正しい理解をしてほしいがために広めたかったのが「ファクトフルネス」という手法というのが本音ではないだろうか。そしてダニエル・カーネマンは「自分が過ちを犯さないために」みたいな要素が大きい気がするのだけれども、ロスリングのファクトフルネスは「他者を誤解しないため・他者に対する偏見をもたないため」なのではないだろうか。

本文中にも出てくる、ハンス・ローリング氏の娘さんであるアンナ・ローリング氏が立ち上げたダラーストリートではいろんな国のさまざまなレベルの生活様式に基づく部屋や道具が公開されている。サイト上部のスライダーの幅を狭めることで、月収による生活を見ることができる。

このサイトは眺めているだけでも本当に面白いのだけれども、確かに清潔さなどは違うけれど、どのレベルもだいたい同じような道具を使っていることに気づくだろう。そして、祖父母の時代、曾祖父母の時代を考えると案外半分より下くらいの生活水準だったんじゃないかとすら思ってしまうのだ。
そして、ロスリングは私たちがそう歩んできたようにこれから成長する国もまた未来には私たちのような環境になると信じていたし、日々世界は良くなっていると思っていたのだと思う。(過去形なのは、ハンス・ロスリング氏は2017年に本の完成をみることなく、すい臓がんで亡くなっているから。)

感染症によってこの10年くらいに感じていたグローバリズムに水を刺されてしまった昨今だけれども、そんな閉鎖されている中ですら偏見による問題は各国で勃発している。鎖国状態にあってすら「私たちvsあの人たち」問題が起きているのだ。ロックダウンが解けた先のそう遠くない未来、本当の意味でのグローバル化したときの準備のために、是非読んでおきたい一冊だと思う。

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