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読書感想文ーー『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』

コーリー・スタンパー『ウェブスター辞書あるいは英語をめぐる冒険』を読了した。

この本は、アメリカに「ウェブスター」という日本で言う「広辞苑」みたいな存在の辞書があり、その辞書編纂者(著者)のオフレコというか、辞書編纂という仕事への信念というか、このように仕事をしている、英語への愛、というようなことが書かれた実録本。

三浦しをんさんの『舟を編む』の、英語版(小説ではない)と思ってもらえればいいと思う。

メリアム・ウェブスターという会社が作っている「ウェブスター辞書」。

オックスフォード英英辞書(OED)と並び立つ権威ある辞書だと、学校で聞いたことがあった。

その辞書編纂者の仕事とは。

読むとまず、辞書は人が作っているということを、忘れがちというか、忘れていた自分を思い出す。

人が一つ一つの語を選び、語釈等を考え、それが辞書に入るに適当で、相応しいかを、考えて考えて、考え抜かれた仕事の跡が辞書になっているという事実。

あの1000ページを超える辞書の細かい項目一つ一つを、丁寧に見直し、丁寧に丁寧に扱う。

歴史の流れから、歴史的な使い方から、使用されるその場の意味あいから、その時の社会の流れから、扱いの難しい言葉(bitchとか、marriageとか)もある。

考え抜いた末の語釈に、猛烈な批判が寄せられることもある。

それでも、丹念に語と向き合い、最初に文献で確認できるのはいつかを調べ(手作業)、社会の変化によって変わる言葉の意味を捉え、捉え損ね、それでも掴みを繰り返す(手作業)。英語という言葉への愛を持って。

途方もない仕事だ。著者は辞書編纂の仕事を、art(芸術)ではなくて、craft(工芸)だと書く。

技術や、鍛錬を積み重ねて、最適確な語釈や意味、表現を探す。

そこでは、才能というよりは、磨いて磨いて積み重ねた技術がものを言う。

地味で「しがない勤労人」というけど、偉大すぎる。こんな途方もない作業、やりたくても根気が続かなそう。気絶しそう。

私たちは辞書は正しい。正しくて当たり前と思いがち。

なのに、ちょっとしたミスや、変だと思うものと出会うと、「辞書なのに!」と腹を立てる。

一方で、「この語釈はすごい!」というものに出会えたとしても、それをすごいとはなかなか思わないし、気づかない。「だって辞書でしょ?」って思ってしまう。

そこが辞書の強みであり、弱さである。

辞書に書いてある。

というのは、一般の人には揺るぎない事実の確認であって、辞書への尊敬と信頼もあって、「間違いないこと」と受け止められる。辞書が、言葉の信頼度を上げ、その言葉の選択の確実さを後押ししてくれる。

でも、辞書だって、普通にご飯食べたり、悩んだり、悲しんだり、嬉しさに踊ったりする人間が作っている。完璧に作ろうとしているけど、完璧じゃない。

言葉は生きた人間が使って、変化し続ける生き物であり、その後を追いながら、語釈という言葉の定義づけをしているのも人間。

辞書は、永遠に完成のないもの。

だけど、その時点では完壁であるべきもの。

辞書作りは、最高にスリリングで、やりがいがあって、途方もないもの。

言葉に憧れはあっても、私は辞書編纂者にはむかないなぁと思った。

偉大すぎる仕事に、頭が下がる。辞書をもっと尊敬しよう。

【余談】
メリアム・ウェブスターは、英語を母語とする人しか雇わないという規則があるそうだ。

細かいニュアンスや、(母語ではなくて)後付けで学んだのじゃ分からない言葉の細かな手触りがあるから。

著者も書いていたけど、母語故に当たり前と思って、うっかりスルーしてしまうこともあるそうで、それはそうだろうと思う。

このnoteの記事に出てくる日本語も、読める人は読めるけど、母語としない人には、読めない部分があるかもしれない。(そんな高尚なことは書いてないけど)手触りといった細かなニュアンスは分からないかも。

でもそれは、辞書編纂の場ではご法度だ。

母語だから、うっかり見落としましたじゃ、お話にならないから。

そういうとき、辞書については右も左も分かりませんみたいな人がひとりいて、「これ何」「なんでこう言うの」「これとこれの違いは何」と指摘してくれると、恐ろしく面倒くさいけど、(そして「ちょっと黙ってて!」と叱られそうだ)役に立つんじゃないかなあと、ちょっと思った。

辞書とはいえ、商業ベースにのっている。期日もあれば、納期もある。予算もあれば、ページの配分もある。世知辛くも、少ない人数でやりくりしているのに、人員整理もある。

インターネット、デジタル化が進む今、衰退産業のひとつと呼ばれる辞書。

紙の辞書なんて、ドアストッパーだ、なんてことは言いません。神棚にも飾りません。

生き残って欲しいなと思う。

【今日の英作文】
「小さいころ、習い事をたくさん経験しました。またピアノでバッハを引きたいなあ。」
"I experienced many kinds of lessons when I was a kid. I'm thinking I could play a Bach on the piano again.''

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