ダブリンにて
2024/8/8
『今日の出来事をどう文章に起こそうか…』
そんな事を考えたのは久々ですね。
しばらく考え、とりあえず書き出した手はここでまた止まっています。
そして20年も昔の事を思い出しています。
スイスを早朝に発ち、定刻に到着したアイルランド。
首都ダブリンは小雨がパラついていた。
『でもダブリンは雨の方が雰囲気あるかな』
わりと何処でも、ロンドンでさえ晴れに恵まれた自分を都合良く肯定したみたいで、一人恥ずかしくなったような、そうでもないような。
とにかく私はこの国、この街に来る事をとても楽しみにしていた。
その為にわざわざスロベニア、スイスを経由して此処まで来た。
『アイリッシュパブに行って、1パイントのギネスを飲むんだ』
その為だけに此処まで来たのだ。
なんてカッコつけても、いざ街に出てみると欲が出て、目当てのバーを横目に逸る気持ちを抑えながら、なんだか名所らしい橋やら教会やらを軽く見て周り…。
そして、いよいよ入店。
そこは平日昼間の2時にも関わらず、既に大勢の客で賑わっていた。
大きなバックパックを背負った私は人混みを掻き分けるのも一苦労で、まともに歩けない。
ワイワイガヤガヤ音を立てる中、ステージ上で2人のミュージシャンがフルートやティンホイッスル、アコースティックギターを持ち、演奏の準備をしている。
人にぶつからない様、物を引っ掛けて落とさない様、ワクワクする自分を心の中で制止しながら急いでバーカウンターへ向かった。
Can I order now?
One pint of Guinness please♪
正直、ギネスを美味いと感じたことはない。
あれは雰囲気で楽しむものだと思っている。
でもだからこそ、カウンターでそうオーダーし、サーバーから注がれる黒い液体と滑らかな白い泡を眺め、そのグラスを片手に音が鳴るのを待つのだ。
演奏が始まるまで耐えきれず、一口。
はたして本場のその味は僅かな期待に応えるでも裏切るでもなく、予想通りだった。
キメ細やかでクリーミーな白い泡。
濃厚な黒い液体。
それ以上でも以下でもなく、日本のアイリッシュパブで飲んだものと同じ。なんなら缶とも大差無い。
味を確かめるだけなら他人の飲み残しで十分だ。
『まぁまぁ、こんなもんでしょ』
そう思った矢先、ステージ上から音楽が鳴り響いた。
特別な感動もなかったギネスビールが、特別な感動に変わる。
あぁ、これだ…!
学生時代
毎日の様に聴いていたケルトミュージックが
今、ダブリンのパブで鳴っている…!
想像していた
あのアイリッシュパブの雰囲気そのもの…!
自分でも驚いたことに、LIVEが始まり数分も経たずして私は両目を手で押さえ、唇を震わせていた。
酔っ払った若者が笑顔で私に親指を立てて向ける。
人生で一番楽しかった、あの日々が一瞬でフラッシュバックした。
社交性が皆無だった私を変えてくれた仲間。
『自分の店をもつんだ』と狂気的だった自分を、実現に向けてくれた道しるべ。
不意に流れた涙の答えは、そんな20年前の思い出だった。
今回訪れたこのパブは、ダブリンでも一番人気の超有名店。
それ故に地元客も、また私含め観光客も大勢いる様子でした。
なので、やはり“観光地感”は否めません。
けれども結局、私はここに留まり、1杯だけ飲んで店を後にしました。
1杯9.95€(約1,591円)のギネス。ダブリンでも圧倒的に高い値段だそうです。
そうはいってもチャージフリーの生演奏込みでこの値段は、むしろ安いんじゃないでしょうか。
たまたまLIVEのタイミングに来れたのも幸運だったと思います。
実はあらかじめ、ローカルなアイリッシュパブも目星をつけていました。
地元客だけが集まる、所謂“リアル”な雰囲気も知りたいと思っていたのです。
そこではもしかすると賑やかでもなく、オッサンが愚痴をこぼし合いながら、しっぽり飲っているのかもしれません。
実際どうなのか興味はありましたが、今回訪れた店があまりにも自分が昔に想像していた理想そのものだったので、そのイメージを壊すまい、と。
夢は夢のまま、思い出は思い出として残しておくことにしました。
写真は他にもダブリンの住宅街、メインロードや殺伐とした裏路地など、興味深い場所を色々撮ったのですが、この日記上ではパブの様子だけ。
それくらい自分の中ではこの出来事が印象的で、久々に“あぁ、旅して良かったな”と思える最高の時間でした。
こんな瞬間があと何回訪れるのか。
出来るだけ多い事を願います。
明日はいよいよヨーロッパ最後の訪問国、スコットランド。
例に漏れず弾丸旅ですが、健康と安全に気をつけて行ってきます。
2023年3月から世界中を旅して周り、その時の出来事や感じた事を極力リアルタイムで綴っています。 なので今後どうなるかは私にもわかりません。 その様子を楽しんで頂けましたら幸いです。 サポートは旅の活動費にありがたく使用させて頂きます。 もし良ければ、宜しくお願いいたします。