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宛先のない手紙 vol.2

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ほぼわたしの考えを垂れ流すエッセイのようなもの。その2。
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2019年3月の記事一覧

上滑りしていく足を地につける、夜

上滑りしていく足を地につける、夜

エネルギーが弱まってくると、夜のほうが何かと捗るようになる。



子どものワアキャアいう声に、わたしはいともたやすく侵食される。前までは踏ん張っていられたようにも思うのに、今や抗うすべなく思考回路はショート。一挙に睡魔が襲ってくる。まるで気絶か充電切れかを起こすかのように。

わたしがめっきり弱くなってしまったのか、はたまた子どものエネルギーが増強されているのか。まあ、両方なんだろう。

わた

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区切りが時間を可視化する

区切りが時間を可視化する

今日は小学校の卒業式だった。一年生の長男は、この一年、ときに号泣しながら集合場所に現れ、ときに現れることすらできず、そんな彼を六年生と彼らのお母さんはあたたかく迎え見守り続けてくれた。

卒業式日和のなか、晴れ姿に身を包んだ六年生に、息子は最後の最後まで時間に間に合わないという迷惑をかけながら、学校へ向かった。本当にもう、最後までごめんね。



時間は見えない。大人になって、余計に見えなくなっ

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拝啓、先生

拝啓、先生

大宮行き京浜東北線はすでに空いていて、ああ今日は祝日だったんだよなと思った。



中学時代の恩師が定年退職を迎えるらしく、小学生時代からの友人に誘われてビデオレターを撮った。お互いに動画やビデオレターを撮ったことはなく、自撮り経験すら浅い。

昼過ぎから会っていたにも関わらず、動画撮影をはじめたのは夜8時が過ぎてから。なんとなく互いに後回しにしてしまい、スーパーで買い込んだ菓子や寿司や酒を飲み

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つらいことよりもつらいこと

つらいことよりもつらいこと

つらいときにつらいと言えたらいいのに、と歌ったのはAqua Timezだ。

つらいときにつらいと言うのは思っているよりもむずかしい。つらければつらくなるほど、どんどん言えなくなっていくような気がしている。

言えているうちはまだ平和。言えなくなってからのほうが危うい、みたいな。「つらい」以外でもある話だろう。

別に必ずしも言うべきものではないから、言わなくても大丈夫であれば言わなくてもいい。た

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得て、失う。

得て、失う。

その昔、告白してきてくれた男の子の誕生日が今日であることに、ふと気づいた。

残念ながら気持ちに応えられなかった彼の誕生日を知っているのは、中学校の卒業式と同じ日だったから。自ら「俺、卒業式の日が誕生日やねん」と吹聴していたのを憶えている。

告白したり、しようか迷った挙句できなかったり、誰かにされたりしたのは、思い返してみればほとんどが3月で、学生時代の“区切り”に思いを馳せてしまった。クラスが

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正しさが過熱した先

正しさが過熱した先

小学生の頃、“チクリマン”と揶揄されていた女の子がいた。

「いーややこーややー、せーんせーに言ってやろ〜」
「あー、そんなんしたらあかんねんでー」

ほかにも、先生に言いつけたり直接本人に言ったりする子はいたはずなのに、揶揄されたり陰口を叩かれたりする子は案外少なかった。彼女は物言いがキツくて成績の良さを自慢するようなところがあったから、男子たちに疎まれていたように思う。

わたしもなかなか正義

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誰かの言葉が映し出す

誰かの言葉が映し出す

髪の毛の間にホコリが絡まっていた。気づいたのはお手洗いに入ったときに見た鏡で、それまでは髪に絡まる小さなホコリの存在に、わたしは露ほども気づかなかった。じっと見なければわからないくらいだったから、家族から指摘もされなかったんだろう。



自分のことは、自分が一番よくわかっている。本音をいつだって明け透けに話すわけではないし、誰にも明かさない感情だってある。自分のことを一番見ているのは自分……と

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痛みや苦しみは必須じゃない

痛みや苦しみは必須じゃない

苦しさを乗り越えて到達した山頂からの眺めは格別だ。達成感が美しさを際立たせるのだろう。山登りは趣味ではないけれど、あの「やった、綺麗!」という感覚は身体が覚えている。

同じようなことなのか、誰かがハードルを乗り越えた先に何かを成し遂げることに、わたしたちはいたく感動する。投げかけられる「感動しました」「勇気をもらいました」の数々。

代表的なものはスポーツの試合や大会だろう。スムーズに実績を打ち

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