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2024年8月5日 「魔女狩りのヨーロッパ史」感想


岩波新書、池上俊一著、「魔女狩りのヨーロッパ史」の感想です。
SNSで「Audibleで聞いているが面白い」と投稿している方がおられたので、
早速、Audibleでダウンロードして、聴いてみたところ、かなり、興味深い本でした。



・魔女への共感


時代と場所さえ、違ったら、確実に「魔女」と言われる人間であるという自負があります。
わかりやすく異質な部分、突出した部分があるわけではないのですが、
どうしても「普通」の枠にはおさまれていない気がします。
発酵しすぎたパン種が型からはみ出るように、そうしようとしたわけでなく、自分らしく生きていると自然とこぼれ出てしまう部分があるのです。
社交の場は苦手ですし、
暗黙の了解も苦手です。
好き嫌いが激しく、偏屈ですし、無難な言動をすることができません。
家に誰かを招くこと、
相手をヨイショすること、
コストパフォーマンスやタイムパフォーマンスで物事を判断すること、
本心でない会話をすること、
マウントをとったりとられたりすること、
暗黙の了解を考えずに、そのままやること、
まだまだありますが、こういうことは全て苦手です。
また、女性の権利や女子教育については、思い入れがあり、それらがないがしろにされると、ひどく憤がいします。
ここ数年はないものの、よく年配の男性とそういったことを契機にぶつかることがありました。
そういう経験を思い出すたびに、
「きっと、コレは世が世なら許されず、排斥されることだろう」という確信があり、
勝手に魔女にシンパシーを抱いています。
それゆえに、魔女狩りは他人事ではありません。
我が事です。

・デジタルボイスと時間


今作品はaudibleで聴きました。
読み上げは、デジタルボイスです。男性、中年の落ち着いた男性と感じられるような声質です。
聴き始めはやや違和感があり、途中も数回、読み方が気になる単語がありました。
ただ、個人的には、内容に集中していたら気にならない程度です。
恐るべしデジタルボイスです。
ただプロの読み手の活躍の場がなくならないのか?というのは、かなり心配です。
ただ、プロの読み手にお願いすると、出来上がるまでに、時間もかなりかかるのでしょう。
そうなると、我々が聞くまでに、時間がかかるでしょう。
何とか、良い方法が見つからないものでしょうか。
今作は、6時間52分で収録されています。
ジムに行く2時間、家事をする1時間のように、聞いていくと、4回ほど、2日〜3日位で聴き終えることができました。
これくらいの時間の作品が、日常で聴くにはちょうどいい、と思っています。
10時間を超える作品だとよほど面白さがない限り、途中で飽きてしまうので…。

・各国・様々な時代の資料をもとに


著者は魔女狩りの研究者ではないそうですが、ヨーロッパ各地の様々な資料をもとに、魔女狩りをわかりやすく論じてくれます。
死刑率に地域差があったり、地域の政治状況や法治システムとの関連による最後あったり、というのが非常に興味深かったです。
個人的に1番驚いたのは、「魔女狩りは中世ではない」ということです。
中世は5世紀から15世紀を指すのですが、魔女狩りが猛威を振るったのは、それより後の時代、16世紀以降なのです。
思い込みって怖いですね。
また、活版印刷の普及が、魔女イメージを流布し、悪魔学者(悪魔について研究し、悪魔を糾弾する学者)の出版物をも広めていく、というのも大変、面白い論でした。
魔女狩りの背景には、先に情報の浸透があり、それは、印刷物や説教によって、大衆に広まっていくのです。
現在、誰でもSNSやネットで情報を送受信できますが、そのはしりとも言えるかもしれません。

・圧巻の事例


この本で圧巻なのは、「第3章 ヴォージュ山地のある村で」です。
資料をもとに、フランスの山間部で起きた魔女狩りの経緯が淡々と語られ、魔女狩りの恐ろしさ、圧倒的な理不尽さを味わえます。
始まりは、高齢者とそれより若い世代、地元の人間とニューカーマーの衝突というどこにでもありそうな親戚トラブル、ご近所トラブルです。
そこから、どうしてまあそんなことに…という展開が繰り広げられます。
しかし、著者も軽く指摘している通り、告発者と魔女(女性だけでなく男性も含まれる)と名指しされた側にはおそらく魔女狩り前には、虐待的な関係があった可能性が高そうです。
おそらく、ピヴェール家の女中のコレットは主人夫婦に酷い扱いをされていたし、ピヴェール家の孫のマンジェットは祖母や母とうまく行っていなかったのでしょう。それをピヴェール家を嫌うドマンジュ家にうまく利用されたわけです。
魔女狩りは、自分の身をも危うくしますが、それが起きる前には到底対抗できなかった相手に最大限の脅威を与えるシステムでもあるのです。
他の章でも、魔女狩りは、敵対する人物、政敵を引き摺り落とすためにも使われたことが指摘されています。

魔女狩りというのは、ホラーではなく、極めて政治的な要素があるミステリーなのだということがわかりました。

・根元にあるのは蔑視と妬みなのでは


「第4章 魔女を作り上げた人々」は憤りながら聞きました。
老婆に対する、偏見ときたら!「あなたたちも女性から生まれたでしょう…」と言いたくなります。

女体や性行為に興味はあるけれど、女性を理解できない頭の良い人たちが、女性がいかに悪辣かを書いているのですが、それは別にここに挙げられた過去の悪魔学者たちだけがやっていることではありません。
現在もSNSで行われていることです。
また、
少し学があるが無職の若者が、魔女発見人になって、色々な土地を訪問し、稼いで回ったという話もあげられているのですが、
それも、最近、SNSで行われていることと変わりありません。
新進気鋭の論者とされる人のファンになり、その人物が批判している人々を中傷しているひと、いますよね…。
さらに、
財産を引き継いだ女性から、財産を奪うために、魔女と告発されることもあったようです。

魔女狩りの根本にあるのは、蔑視と妬みである、と感じました。

わからない存在である女性への蔑視、
理解できない存在が長生きであったり、富を持っていたりすることへの妬み。
それらがある限り、魔女狩りはいつだって起こり得るし、
現在も起こっているのだ、ということです。

・言って良いのかわかりませんが、面白かった!


とても読みやすいのに、非常に考えさせられ、イマジネーションが刺激される本でした。
しばらくしてからまた再読する気がします。
過酷な話も多いので、面白かったというのも、何だか申し訳ない気がするのですが、大変面白かったです。
資料の大切さもわかります…。
(資料をデジタル化したらいいとか言っている政治家もいますが、
デジタル化したら、デバイスを使えなくなったら終わりなのをわかって言っているのでしょうか。)


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