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2024年3月10日 「ポアロ登場」感想


Audibleでアガサ・クリスティーの「ポアロ登場」を読了しましたのでその感想です。
頭が忙しい時期なので、長編でなく短編集を選んでみました。


・読み手が藤井剛さんだ!


「ポアロ登場」に決めたのは、
イギリスミステリがいいと考えたこと、
また有名なキャラクターありのほうが、理解が楽だろうと思ったこと、
短編集の方が早く聴き終えれるだろうと思ったことがあります。
しかし、最大の理由は、読み手が藤井剛さんだったことです。
M.Kクレイヴンのワシントン・ポーシリーズの読み手を務めておられて、
馴染みがあり、聴きやすい読み手だと思っていたのです。
Audibleは、読み手の声にかなり左右されるコンテンツです。
どうせなら、気に入った読み手の方の作品を選びたいと思っていたので
「ポアロ登場」に決定したというわけです。
ヘイスティングスは若若しく、向こうみずで、元気に
ポアロは、クセがありつつも憎めないキャラクターにぴったりの声音で
演じてくださいます。
あと藤井剛さんが演じる若い女性はいつも初々しくて可愛いくてそれも楽しみました。

・100年の時の流れ


「ポアロ登場」の初版は何と1924年。今からざっと100年前に書かれたミステリということになります。
100年前というと、えらく大昔に思えますが、その頃に、ポアロが登場していたというのは驚きです。
ポアロって、1940年代のイメージがあったのです。
第二次世界大戦終了後の人のような気がしていました。思い込みって怖いですね。
子供の頃、ドラマを見た時に、年代がごっちゃになっていたようです。
というわけで、
「ポアロ登場」の舞台では、公共交通機関の一つに馬車がありますし、
急いで送る連絡は、電報ですし、
イギリスとアメリカを移動するには船に乗らなくてはなりませんし、
女性は喪服を着た際に、ベールをかぶることもあれば、
出かける際は大抵帽子と手袋を着用しています。
電話も、メールもインターネットもありません。
それでも人の営みをいうもののある部分は大きく変わらないようにも感じます。
ポアロの部屋には「紳士録」や「貴族録」なる本が置いてあり、
ポアロは依頼者や関係者についてそれを元に調べるわけですが、
「これが今だと、インターネットになるのだろう」とは思いました。
ほとんどのトリックは、科学捜査が発達した現在ではあっさり見抜かれてしまうだろうものばかりですが、当日は素晴らしく斬新だったろうと、感じます。
今だとDNAや指紋、防犯カメラ、ネット接続などをもっと簡単に調べられますからね。
犯罪者にとっては、100年前の方が楽そうです。

・読みながら、自分が東洋人、日本人であり女性であることを考える


1923年初出の「安アパート事件」は、
「日本のスパイによるものではないか」という事件です。
「日本のスパイ」、強烈な言葉です。
生まれてこの方、日本は西側陣営だと思い込んでいたので、
こんなところで国名が使われて驚いてしまいました。
1923年の日本は大正時代、関東大震災が起きた年です。
イギリス人のアガサ・クリスティーからすると、
これから動きがありそうなエキゾチックな国に感じられていたのかもしれません。
その他の短編にも、中国が取り上げられますが、オリエンタリズムに満ちた表現であり、
理解が困難な国と思われていたのだろうと思います。
当時の理解を責めるつもりはありません。
でも非常に興味深いことだと思います。
日本語で、他国から見た日本を知ることができるのです。
さらに面白いのは、英語から日本への初訳は1925年であること。
英国での初版から1年後です。
「面白い」と思って日本語に訳した時、自分の国の名前があって、うれしかったひとがいたのだろうと思うと、少しニンマリしています。
また、それまでの女性らしい生き方でない、生き方を選ぼうとする女性も何人か出てきます。
アガサ・クリスティーはこれをどういう気持ちで書いたのかしらと思ったりもします。
物語の語り手、ヘイスティングスはあまりそういうことに理解のない「一般的な」男性として書かれていますが、これは読者サービスなのかしら、と感じたりもするのです。

・まっすぐだけどポンコツなヘイスティングスとクセがあるけど憎めないポアロ


「ホーソーン登場」というタイトルにこだわっていた探偵ホーソーンが出てくる、
アンソニー&ホロヴィッツシリーズでは
探偵の助手は非常に間抜けに描かれています。
さすが本家本元、ポアロの助手であるヘイスティングス大佐は、
真っ直ぐだけど、推理の才能はゼロで、金褐色の髪をした女性にはすぐのぼせる
ややポンコツな人間として描かれています。
ポアロは毎度毎度、自慢したり、嫌味を言ったりするのですが、
次の短編では、2人は仲良く、夕食後の時間を過ごしていたりするので
ヘイスティングスの良さとは、根に持たないところなのだろうと思います。
というか、ヘイスティングスは、
読者の女性が「こういう息子がいたらいいのに」と思うような素直さを集めて
固めたようなキャラクターにも思えます。
日本における、演歌歌手の若い男性のイメージです。
しっかりした体躯に爽やかな笑顔、素直な性格。
ポアロは実に独創的で酷い嫌味を言ってもどこか憎めないキャラクターですが
恋人や夫、ましてや息子にしたいタイプではありません。
そのあたり、バランスをとったのかしら…などとも思います。

・タイトル間違い


Audibleがタイトル間違いをしているのを見つけました。
「ミスタ・ダヴンハイムの失踪」が「ミス・ダウンハイムの失踪」と表記されています。タがないだけですが、これでは大違いです。
訂正してほしいものです。

・次はあの作品

次は、ミス・マープルを聴く予定です。
楽しみ!
しかし短編集だと登場人物がどんどん変わった名前が覚えられません。
案外、長編の方が聴きやすいかも…、これは誤算でした。


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