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11月16日の手紙 その裁きは死 ネタバレあり

拝啓

まだまだ、ミステリ熱は覚めず、どんどん新しいものをAudibleで聴いています。

有名な脚本家であり、小説家の、アンソニー・ホロヴィッツによる、英国を舞台に自分自身を探偵の相棒に据えた、ホーソーンアンドホロヴィッツシリーズの第二弾、「その裁きは死」を聞き終わりましたので、そのネタバレあり感想です。

今回も気をつけていますが、ネタバレがあります。
ネタバレがお嫌な方は、ここでブラウザバックを推奨します。

・読み手が上手くなっている


前作では特徴的なしわがれ声で、雰囲気はいいものの少し聞きづらかったのですが、今作では、聞きやすくなっています。
声がなめらかというか…、前作は喉の調子がお悪かったのか?と心配になります。
ホーソーンの独特の声色はそのままです。
雰囲気があり、ホーソーンのキャラクターが出た喋り方を演じてくれています。
今作の感じで今後も演じてくれますように。

・秀逸すぎるタイトル


今回もかっこいいタイトルです。「その裁きは死」ですよ。どう頭を捻ったら、こんな名タイトルが出てくるのでしょう。
アンソニー・ホロヴィッツが小説のタイトルにひと格言ある作家であり、並々ならぬ力を入れてタイトルをつけていることは前作で描写されていましたが、日本語版は、どう考えても翻訳者と出版社のセンスが良いのだと思います。
語呂がいい上に、口に出したくなるような、小気味の良さ、お洒落さがあります。
現実主義のホーソーンにはうんざりした顔をされるのがイメージできますが、このタイトルは本当に秀逸です。
ホーソーンは第1作を「ホーソーン登場」にすると息巻いていましたが、そのタイトルでは、日本では全く売れなかったでしょう。
ホーソンなら、この第2作は、何というタイトルにするでしょう。「ホーソーン読書会に行く」でしょうか。それとも「ホーソーンあきれる」でしょうか。

・嫌なやつだらけなの相変わらず


相変わらずホーソーンも嫌なやつだですが、ホロヴィッツも嫌なやつで、あいも変わらず、仕事自慢しまくっています。
その分、冒頭、ドラマの現場にホーソーンがタクシーで乗りつけてくるくだりはとても良かったです。
ホロヴィッツのいけ好かないところにホーソーンが殴り込むので、笑って読めます。こういうのが、イギリス流の楽しみなんでしょうね。
アメリカの作家だったら、ここにホーソーンを当ててこない気がします。もっと華麗にホーソーンが登場するはずです。
これはわかった上で、自分の言動を揶揄するように、書いてあるんでしょう。
英国風叙述と言えるかもしれません。

・日本人女性登場


今回の容疑者の最有力候補は日本人女性、アキラ・アンノです。
日系ではなく、日本で育ったむちゃくちゃ気が強く、理屈っぽい女性として描写されています。
ネットで調べるとカズオ・イシグロをモデルにしてるのではないかということですが、女性にしてここまで嫌なやつにする意味があったのでしょうか。この人も、まあとにかくいけ好かない上に、(ホーソーン&ホロヴィッツシリーズではいけ好かない人がいるのは当たり前たとしても)、
知的で抽象的すぎる喋り方がうっとうしいと感じるように描写されています。そこに何度も日本訛りと書いてあるのでハラハラします。前作でも今作でも黒人の登場人物はステレオタイプでない描写があり、美しさも描かれているのですがわアキラ・アンノの描写はある種のステレオタイプで、醜く描かれていて、少し複雑な気持ちになりました。
しかし、それに反論できるようになのか、イギリス人の警部カーラ・グランショーも、ものすごく嫌な感じの女性として描かれています。
こちらは知的でうっとうしいの反対で暴力的で愚鈍に描かれています。
アンソニー・ホロヴィッツは緻密に描写していくので、いけ好かない奴らの解像度がとても高く感じます。
あんな警察は怖すぎますよ、英国警察さん。

・俳句


俳句のことを、ホロヴィッツはちゃんと調べて書いているのだと思いますが、そこはかとなく、馬鹿にしているような場面が多く、俳句を嗜まれるかたには多少不愉快かもしれません。
異文化のものを小説に入れ込むというのは、かなり難しいものだと感じます。
ホロヴィッツにはおそらく悪気はない、しかし真によく知らないものを作品の小道具に使うと気にさわる人もいるだろう、と思うのです。

・ホーソーンのプライベート
ホーソーンのプライベートが気になっていたのは、ホロヴィッツも読者も同じです。
前作で判明したのは、不動産屋の兄から住んでくれと言われたテムズ川に面した建物に住んでいる、プラモデルを作成するのが好きで達人、離婚した妻と11歳の息子がいるという事実です。
今作では、ホーソーンの隣人、そして、ホーソーンが参加している読書会の描写があります。そして、ホーソーンには何か過去があるのではないか?と思わせる場面もありました。
ホーソーンっていけすかないやつなんですけど、妙に気になるキャラクターなのですが、それはこの辺りの情報の出し方がうまいからだろうと思います。
ホーソーンは真に冷酷な人間なのか、それとも情深い、人間らしい人間なのか、どちらもにもとれるようにしてあって、それが気になって、先を読んでしまうのです。
最後まで読んだものの、いまだホーソーンの過去には辿り着けませんでした。
残念ですが、今後が楽しみです。

・相変わらずのふたり


今回も、ホーソーンはホロヴィッツがすごく好きなのだろうという描写がたくさんありました。そうではなく、ホロヴィッツに利用価値があるからなのでしょうか。でも、前回の記事でも書いた通り、ホーソーンは本当はホロヴィッツの熱烈なファンなのではないかというのが個人的な予想です。
毎度毎度次回会う予定を決めるか、向こうから連絡してくるのが妙に健気なホーソーンです。腐女子の方々なら、同人誌が書けてしまうと思います。

・ホロヴィッツ&ホーソーン、田舎へ行く
今回は、ロンドンだけでなく、ヨークシャーにも2人は出向きます。ホロヴィッツとホーソーンが英国の電車旅をする場面があり、その点もなかなか面白かったです。ホロヴィッツが奮発して取ってくれた1等室に乗ってみたいものです。乗り心地はどうなんでしょう。

・ホロヴィッツの迷推理


ホロヴィッツが推理を始めると「これは、間違ってるってことだな」と思うし、
ホロヴィッツが調査中に喋ると「黙ってろ、ホロヴィッツ!!」と思うし、
ホロヴィッツが家にお招きされてお茶を飲まされると「また襲われるぞ!ホロヴィッツ!!」と思うので、
ホロヴィッツ(作者)想定通りの反応をしてしまっていて、とても悔しいです。
文章が上手だなぁ、ホロヴィッツは。
ホロヴィッツはホロヴィッツ(自分自身!)をツッコミ待ちのキャラクターというか、徹底的にどこか抜けているキャラクターとして書いているような気がします。
作中のホロヴィッツはミスリードのためにいると言っても過言ではないでしょう。
ホーソーン1人だと、淡々と調査して、最短で終わるのでしょう。多分、本の厚さが3分の1程度になりそうです。
ホロヴィッツがいるから、調査は右往左往し、本は分厚くなります。悪意なく、いらないことをして、いらないことをしゃべり、いらない推理をしてイベントを起こしていきます。
そう、ホーソーン&ホロヴィッツを成り立たせているのは作中のホロヴィッツなのです。
もしかしたら、ホーソーンはそういうことを見越した上で、ホロヴィッツに小説を書かせようとしているのかもしれません。

・意外な犯人


今回も全く、推理は外れました。完全に誤解していました。もちろん、真犯人にホロヴィッツよりは早く気づきましたが、それは自慢にはなりません。
作中のホロヴィッツは勘が鈍いことこの上ない、読者よりも、抜けている役割りなのですから。
作者であるホロヴィッツの素晴らしいところは、ホーソーンが推理する基となる情報を隠したりしないところです。
しっかり描写した上で、謎を構成しています。
ですから、謎解きに関係ある章を読み返す(聞き直す)とという楽しみがあるわけです。
作者のホロヴィッツは、作中のホロヴィッツと異なり、かなり賢い人だと思います。
伏線の張り巡らせ方、様々な理由に無理がないのです。ホーソーンの謎解きには、音を立てて、ジグソーパズルがはめられてひとつの絵が見えるような快感があります。
悔しいけれど、ものすごく爽快です。

・最後のアレと最後の手紙


最後のアクシデントについて、ホーソーンはどれくらい予想していたのでしょうか。
実は結構な確率でああなることはわかっていたんじゃないかしら…と思っています。
ホーソーンには歪んだ愛があって、ホロヴィッツにいい小説を書いてもらうにはあれくらい起きてもいいかも…と思っていたらどうしましょう。
なくはないと思うのです。
最後の手紙についてはホーソーンは完全に予想していた内容でしたし…、
繰り返し、愛が出てくるのがなんとも言えず苦しい手紙でしたし…。

というわけで、1作目に全く見劣りしない傑作でした。
英国風皮肉が楽しめる方、
謎解きが好きな方、
癖のある人間がお好きな方にはぜひおすすめのミステリです!

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