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10月6日の手紙 プロジェクト・ヘイル・メアリー 上下巻通して ネタバレ感想②

拝啓

今週は先週との寒暖差がありすぎて、自律神経がめためたにやられた気がします。
先週まで酷暑だったので、身体が今の気温にクエッションマークを、点滅させています。
わかる…そうだよね…と自分に語りかけたいくらいです。
とにかく、どなたさまも、美味しいものを食べて、あたたかくして、三連休をゆっくり過ごしましょう。

今日は前回に引き続き、
プロジェクト・ヘイル・メアリーの上下巻を Audibleで聞ききってのネタバレ感想です。

昨日同様、ネタバレをしていますので、ネタバレが嫌な方はここで、ブラウザバックして貰えると幸いです。

プロジェクト・ヘイル・メアリー上巻の感想

プロジェクト・ヘイル・メアリー下巻の感想


さて、今日は上下巻通して読んで気づいたことを書きたいと思います。

理屈と辻褄


巻末の謝辞にも科学者と編集者の名前が数多く挙げられていましたが、相当な取材とチェックの上にストーリーが組まれていると感じました。
「どうして〇〇があるの?」にも必ず、現実的で納得の理由があり、「何となくどうにかなった」ということがないのがこの作品のすごいところです。
SFとは言え、理屈と辻褄が合うようになっています。
地球がアストロファージのために滅亡するかもしれないので、その対策を探しに行こうまでは、空想だけでも思いつくと思いますが、その後のタウメーバの発見、そして救世主になるはずだったタウメーバがアクシデントを引き起こす展開、しかし最後にはまたタウメーバが2つの意味で救世主となるあたり非常に緻密だと思うのです。
取材をして書くの大切ですね。下調べは面白さに繋がってくるということだと思います。
上巻感想でも指摘しましたが、難しい科学理論を読者にわかりやすく説明できる設定(グレースは中学の理科教師)にしてあるのもやはり素晴らしいです。中身が詳細にわからなくても、グレースの例え話はわかるという仕組みになっています。理系でなくともわかった気になれるようになっています。
しかし、あまりにきっちりと説明され、空想が広がる余地や余白のようなものはないのでそれがつまらないという読者もいたかもしれません。わかりやすさ、明瞭さを軽薄さとして受け取った読者もいるような気がします。

ロッキー


やはり、彼に触れないといけません。下巻では、グレース同様、ロッキーがいると安心し、不在に不安を感じるようになりました。
大型犬くらいの大きさの蜘蛛のような異星人をここまで信頼し、素敵に思えるとは思いませんでした。
見た目にわかりやすく可愛いキャラクターを作りがちな文化生まれとしては反省させられます。
訳者の方が、エリディアン語から拙い英語になったところををうまく日本語訳したというのもあるでしょうが、
可愛いはキャラクターの性格造形でもしっかり作れるのだと感じさせられました。
とても魅力的なキャラクターです。彼とグレースのバディは魅力の二乗でした。
ロッキーの真面目さ、勤勉さ、そして何より人間性…彼の場合はエリディアン性というのでしょうか、善意を持った異星人は精神の健康に良いようです。仕事前や帰り道に聞いては勇気をもらえました。
Audibleでは、エリディアン構文をナレーターさんが声色を変えて、可愛らしく読んでくださいます。これもとてもとても良いです。
人間に疲れた時は、ロッキーとグレースの会話が沁みました。簡単に言葉が通じないからこその懸命に会話する2人、ジョークや皮肉が言いあえるようになった2人、お互いのために命をかける2人、どれも素晴らしかったです。ぜひ、読んでロッキーに出会って欲しいです。
僕らはともだち!

アンディ・ウィアーという作家


劉慈欣の「三体」で暗黒森林理論を学んでしまったので、ロッキーに対して、こんなにいい異星人がいるのか?あまりにいい人すぎないだろうか?とも思いましたが、アンディ・ウィアーの宇宙と劉慈欣の宇宙はきっと違うのです。
観察者によって存在する宇宙のことわりも違うのでしょう。この辺りアメリカ人と中国人という国家のタイプの違いもあるかもしれません。
日和見日本人としてはどちらもありうると思っています。
アンディ・ウィアーは「三体」を読んだのでしょうか。アメリカでもオバマ元大統領が読んだというくらい、人気があったようなので、読んだかもしれません。アンディ・ウィアーが「三体」の暗黒森林理論までを読み、彼なりのアンチテーゼとして、「プロジェクト・ヘイル・メアリー」を書いたと考えると、なかなか面白いのですが、どうでしょうか。
そんな事実はないのでしょうが、イメージは膨らみます。
アンディ・ウィアーは、人間を諦めていないタイプのSF作家なのだろうと感じました。楽観的すぎると言われればそれまでですが、これは彼の持ち味です。
古き良きアメリカ精神、明るいフロンティア精神のようなものが上下巻を貫いています。
80年代のハリウッド映画にはあった世界に対する安心感と希望に似た何かがそこにはあるのです。
それが合わない人は合わないでしょう。現実的でないとか、ご都合主義的だとかいう人もいるでしょう。
でもそんなことは、アンディ・ウィアーも自覚しているのではないかと思います。
グレースの口癖は「オッケー」ですから。

今後の作品も期待したい作家です。
前作も Audible化してくれないかな…と期待しています。



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