【小説】真神奇譚 第十三話
「ただいま帰りやした」
「ご苦労。五郎蔵さんの様子はどうだ」
「このところ天気も良くて昼間は陽も差し込むそうで思ったより元気そうですよ。この調子なら大丈夫そうでやす」
「そうかひとまず安心だな。それで満月まではあと何日ぐらいだ」
眩次は外に出て月を見上げると戻ってきた。
「あと二三日くらいでしょうかね。もうずいぶん丸くなってきやしたよ。でも月が傘を被ってますね。ひょっとすると明日辺り雪になるかもしれやせんよ」
次の日の夕方から眩次の予想通り雪が降り出した。
「寒いと思ったら雪が降り出してきやがった」眩次がぶつぶつ言いながら外を眺めているとお雪がやってくるのが見えた。
「姉さん、雪景色にお雪さんの姿もなかなかお似合いですね」
「何を呑気なこと言ってるんだい。天気予報では今夜から大雪になるらしいよ。五郎蔵さんはどうしてる元気なのかい」
「一昨日行ったときは元気そうでしたよ。でも大雪となると心配ですね。 我々が語らずの滝までたどり着くのも骨が折れそうですしね」
「そうだね。この雪じゃ今夜は無理だね」眩次とお雪は心配そうに雪空を見上げた。
次の夜、雪は止んで満点の星空となった。間もなく月も登ってくる。待ちに待った満月が。
「旦那先を急ぎやしょう。間もなく月の出ですよ」
「分かっているがどうにもこう雪が深くては思うように進めんのだ。私は何とか一人で行くからお前とお雪さんは先に行ってくれ」
「そうですか。じゃあ一足先に行きます。五郎蔵さんの事も気になりますんで」眩次とお雪は雪明りのけもの道を闇の中に消えて行った。
小四郎がようやく語らずの滝の滝に着くとお雪が心配そうな顔で滝の方を見つめていた。
「お雪さんどうした」
「あ旦那、どうも五郎蔵さん良くないようですよどうしましょう」
「お雪さんあんたは心配しなくても大丈夫だ」そう言うと滝壺を泳いで渡って行った。
五郎蔵は見るからに弱っていた。わずか十日ばかりの間だったが肋骨が浮き毛並みも艶がなくなっていた。しかし眼つきや話し方はしっかりしていてまだまだ気力は衰えていないように見えた。
「五郎蔵さんもう時機に満月が登ってくる、もう少しの辛抱だ」
「わしは大丈夫じゃここまで来て倒れる訳にはいかん」
しばらくするとまん丸の月が冬の澄み切った夜空に昇ってきた。月明かりが滝の裏側まで差し込んできた。
その時、鳥居の中がぼんやりと明るくなってきて、その中から二つの影がゆっくりと現れた。二人とも小四郎に負けぬくらい偉丈夫の若者でまごうことなくオオカミであった。
一人は真っ白な、もう一人は真っ黒な体毛で覆われ二人とも異様に眼光が鋭い。
二人はじろっと小四郎たちを見ると驚いた表情でお互いを見た。真っ白で身体の大きい方が口を開いた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?