四国三郎 & OK-tosh Design Office

四国三郎:仏像研究家 さいたま市在住 趣味は自転車🚲 愛車はDAHON SP-8…

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四国三郎:仏像研究家 さいたま市在住 趣味は自転車🚲 愛車はDAHON SP-8   OK-tosh :イラストレーター 趣味は昼飲

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【小説】真神奇譚 第二十一話

 「そうこうする内、銀蔵はピタリと外の世界に出かけなくなった。大人達はやれやれようやく我らの長の腰も据わったかと噂しておったが、どうも様子がおかしいことに気が付いた。頻繁に一人で村外れの洞窟に入る姿を見るようになったのよ。ある日村の若い衆が銀蔵がいない時を見計らってこっそりとその洞窟を覗いてみると、なんと犬と赤ん坊がおったのだ。もちろん村は大騒ぎになった。なにせ頻繁に外に出かけるのも問題なのに、  外の者を隠れ里に入れしかもそれが犬なのだから。ましてや子まで居るとは。村の者が

    • 【小説】真神奇譚 第二十話

       小四郎もようやく人心地ついて腰を下ろすと隠れ里での出来事を話し出した。  「隠れ里には人間はいないし、ずっと春のような陽気でまさに我々一族の楽園と言った所だった」  「なるほど、今こっちは真冬ですからね。旦那が寒がる訳だ」  「うるさいやつだね。いちいち口を挟むんじゃないよ」  隠れ里に入ると五郎蔵さんも元気を取り戻して、何とか日光、月光を撒いて生まれ故郷の龍勢の村へ行くことができた。そこで与兵衛と言う長老に会って話をすることになった。  与兵衛は随分と痩せて歳は取っていた

      • 【小説】真神奇譚 第十九話

         「二度と結界に近づくんじゃないぞ」 眩次がつららの間を覗き込むと鳥居の結界の中に三つの影がぼんやりと浮かび上がっているのが見えた。  振り返って何か言っている真ん中の影がこちらに向き直った瞬間眩次は滝壺に飛び込んで一目散に向こう岸まで泳ぎ渡った。  「旦那、旦那あっしです、眩次です」  残り二つの影は真っ白と真っ黒の身体、日光と月光だった。  「ちっ、またあの時の狸か。お前も近づいてはいかんぞ。さあ二人とも早く立ち去るのだ」  そう言うと日光と月光は結界の中に消えて行った。

        • 【小説】真神奇譚 第十八話

           「あれから一年になりやすが旦那たちはどうしてやすかね」眩次は二日ぶりに顔を見せたお雪に言うでもなくひとり言のようでも無く呟いた。  「あんたは口を開けばそればっかりだね。そんなに心配ならあの滝で待ってたらどうだい」  「まあそう言わないで下さいよ。ずっと四国から一緒に旅をしてきたんですから旦那がいないと何か気が抜けたと言うかね」眩次は大きな溜息をついた。  「まったく男らしくないね。もう十分待ったんだからそろそろ四国に戻ったらどうだい」  「姉さんは相変わらず冷たいですね。

        【小説】真神奇譚 第二十一話

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        • 【小説】弥勒奇譚
          30本

        記事

          【小説】真神奇譚 第十七話

           「小四郎さん、村の方から誰か来るぞ」五郎蔵に突かれて小四郎が眼を覚ますともう随分薄暗くなった村の方から誰かゆっくりとした足取りでこちらに向かって歩いて来る。まだこちらには気づいていないらしく警戒するそぶりも無い。よく見るとまだ若い娘のようだ。  「ちょうどいい。あの娘に村の事を聞いてみよう」小四郎が出て行こうとするのを五郎蔵が引き留めた。  「のこのこ出て行って大丈夫か」  「こうしていても埒が明かん。相手は娘一人だ何とかなるだろう」そう言うと小四郎は娘の方へ歩いて行った。

          【小説】真神奇譚 第十七話

          【小説】真神奇譚 第十六話

           「実は里の外から来たのだ」しまったと思ったが相手の反応は意外なものだった。  「よそ者が入ったと言って騒いでおったがあんた達だったのか。こんなところをうろうろしてるとすぐ見つかるぞ。わしが龍勢まで連れて行ってやるから付いてきなされ」   小四郎がどうしたものかと考えていると五郎蔵がやってきた。  「考えても仕方がないこの人にお願いしよう」と小四郎に耳打ちした。  「ではお願いする」小四郎が言うと老人は無表情に頷くと踵を返して小川の流れの方向に歩き出した。小四郎と五郎蔵も後に

          【小説】真神奇譚 第十六話

          【小説】真神奇譚 第十五話

           小四郎は五郎蔵を背負ったまま結界の中を駆けた。背後から日光と月光の気配が追ってくる。短いようで長いような時間が過ぎついに二人は結界を抜けた。真冬のはずであったが隠れ里の中は春のように暖かで心地良い春の風が吹いていた。結界の出口は高台の上のやはり祠の鳥居の中だった。夜明けまではまだ間がある、眼前は漆黒の闇に覆われていた。  小四郎は暫し茫然と下界の闇を見ていたが、追手の気配で我にかえった。小四郎は追手を欺くために足跡や匂いに細工を施して山の上に昇って行き繁みに身を隠した。  

          【小説】真神奇譚 第十五話

          【小説】真神奇譚 第四話

           あっしらが阿波は剣山の麓を旅立ったのはもう二年も前になりますか。まずは隣の土佐に行きやした。土佐にはオオカミの血を受け継いだ四国犬がいますのでこれに会って話を聞こうと思ったわけです。すぐ見つかると思っていたのが大間違いで一か月も山の中を彷徨いやしたよ。ようやく見つけたのは奈半利の虎と言う年のころは十歳くらいの中年男でした。  自分の曾おじいさんはオオカミの血をひいていたと言ってましたが生まれてこの方オオカミに会ったことは無いと言ってやした。旦那の見立てでも虎にはオオカミの面

          【小説】真神奇譚 第四話

          【小説】真神奇譚 第十四話

           「これは驚いた何やら騒がしいので来てみればおぬしオオカミだな。しかも見かけぬ顔だ。一体どこから来た」  「口の利き方を知らぬ若造だ、ものを尋ねる時は先に名乗ったらどうだ」  「ほう、まあよかろう。我々は結界の番人、日光と月光だ。それにしてもこの里以外でまだ生き残った者が居ようとは思わなかった。おぬしどこから来た」  「私は剣の小四郎。四国は阿波の山奥から仲間を探しにはるばるここまでやってきたのだ。この結界を通してはくれぬか」  「四国にはまだオオカミが生きているのか」  「

          【小説】真神奇譚 第十四話

          【小説】真神奇譚 第十三話

           「ただいま帰りやした」  「ご苦労。五郎蔵さんの様子はどうだ」  「このところ天気も良くて昼間は陽も差し込むそうで思ったより元気そうですよ。この調子なら大丈夫そうでやす」  「そうかひとまず安心だな。それで満月まではあと何日ぐらいだ」  眩次は外に出て月を見上げると戻ってきた。  「あと二三日くらいでしょうかね。もうずいぶん丸くなってきやしたよ。でも月が傘を被ってますね。ひょっとすると明日辺り雪になるかもしれやせんよ」  次の日の夕方から眩次の予想通り雪が降り出した。  「

          【小説】真神奇譚 第十三話

          【小説】真神奇譚 第十二話

           小四郎はしばらく考え込んでいたが眩次を手招きして呼び寄せた。  「おそらく場所はここで間違いないだろう。あの鳥居を潜ったとき一瞬明かりが見えたような気がした何かあるに違いない。眩次よお前も手伝ってこの周りに何か手がかりが無いか調べてみよう。このまま尻尾を巻いて帰る訳にはいかん」  「がってんだ。任せてくだせい」  小四郎と眩次は手分けして鳥居の周りや祠の裏を見て回った。  「どうだ何かあったか。こっちは特に手がかりになりそうな物はないな」  「旦那、暗くて良くは分かりません

          【小説】真神奇譚 第十二話

          【小説】真神奇譚 第十一話

           いつものけもの道を五郎蔵を先頭に小四郎、眩次、お雪の順で登って行く。五郎蔵の足取りは全く覚束ないが小四郎に後押しされて何とか登っている。しかし丁度語らずの滝までの中間点辺りに差し掛かると五郎蔵が音を上げた。  「少し休ませてくれ。わしももうろくしたものだこれくらいのことで」五郎蔵は大きく息をついた。  「五郎蔵さん夜が明けてしまうと何かと厄介だ。私が背負って行くから背中に乗りなさい」小四郎は五郎蔵の返事も聞かぬ間にひょいと背中に抱え上げた。  「では先を急ごう」今までの分を

          【小説】真神奇譚 第十一話

          【小説】真神奇譚 第十話

           「しっ、誰か外にいるぞ」小四郎はそう言いながら身構えた。眩次もお雪もほぼ同時にその気配に気が付いていた。お雪がそっと格子から外を覗くと一人の犬が辺りを嗅ぎ回っているのが見えた。月を覆っていた雲が一瞬途切れて辺りを照らした。  「門爺じゃないか。どうしたのこんなところまで」お雪の素っ頓狂な声がお堂の中に響いた。  「やはりここじゃったか。まだまだわしの鼻も捨てもんじゃなかろう。それともう名乗ったんだから門爺はやめてくれ」五郎蔵はニヤリと笑った。  「お主ら、これから語らずの滝

          【小説】真神奇譚 第十話

          【小説】真神奇譚 第九話

           紀州は九州と違って明確な目的地がありました。ニホンオオカミ復活を夢見た人間がオオカミの特徴が強い野犬を集めてきて飼っているということでそこに行って見ることにしました。  簡単に見つかると思っていましたがその人間が引っ越していたりしてあちらこちらと振り回されました。挙句の果てその人間は一年も前に死んでしまっていやした。  これで紀州でのオオカミ探しも断念かと思いやしたが、その人の犬が一人だけ生き残っていてさらに山奥の家で飼われていることを耳にしやした。  一縷の望みを繋いでそ

          【小説】真神奇譚 第九話

          【小説】真神奇譚 第八話

           二人は無言のまま長い時間見つめあっていた。  眩次が何か取り繕うと口を開いた時、門爺が驚きともつかぬ声を上げた。  「おお、なんと言うことじゃ。生きている内に会えるとは思わなんだ。そなたオオカミではないか。間違いない本物のオオカミじゃ。しかもまだ若い」  唖然とするお雪と眩次を尻目に小四郎は落ち着き払って答えた。  「いかにも私はニホンオオカミ。名は剣の小四郎と申す。はるばる四国は阿波の山から仲間を探しに来ました。ご老体も一目で見分けるとはただの飼い犬ではありませんな。もし

          【小説】真神奇譚 第八話

          【小説】真神奇譚 第七話

           北風が表戸を鳴らし小四郎は早くに目が覚めていた。その隣で眩次は幸せそうに大口を開けて寝ていた。  「まったく風の音がこうもうるさいのに良く寝ていられるものだな」小四郎は眩次の幸せそうな寝顔を呆れた顔でながめていた。  突然表戸が開き寒風が吹き込んできた。お雪が戸の隙間から飛び込んできた。  「旦那、もうお目覚めでしたか」息を弾ませて大きく伸びをした。  「相変わらず呑気そうに寝てる狸もいるね」お雪の声が耳に入ったのか眩次も目を覚まして寝ぼけ眼で起き上がった。  「あれ、お雪

          【小説】真神奇譚 第七話