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【小説】真神奇譚 第二十一話

 「そうこうする内、銀蔵はピタリと外の世界に出かけなくなった。大人達はやれやれようやく我らの長の腰も据わったかと噂しておったが、どうも様子がおかしいことに気が付いた。頻繁に一人で村外れの洞窟に入る姿を見るようになったのよ。ある日村の若い衆が銀蔵がいない時を見計らってこっそりとその洞窟を覗いてみると、なんと犬と赤ん坊がおったのだ。もちろん村は大騒ぎになった。なにせ頻繁に外に出かけるのも問題なのに、
 外の者を隠れ里に入れしかもそれが犬なのだから。ましてや子まで居るとは。村の者が聞いても見ての通りだと言うばかり」
 「それで父はどうなったのです」
 「隠れ里の掟は絶体だ、村の長と言えども逃れられん。周りの村にでも知られればただでは済まん。死罪の可能性もある。村人が三日三晩話し合って子供が歩けるようになったら三人を外に逃がすことに決した。それまでは近隣の村に知られぬよう箝口令がひかれた。しかし人の口に戸は立てられんのたとえ通り、じきに隣村の知る所となり三人は捕らえられ牢に入れられた。隠れ里の評定が開かれ母子は追放、銀蔵は無期監禁と決まった。死罪にならなかったのは母子を憐れんでのことだったんじゃろうて。母子は子供が一人で歩けるようになった頃を見計らって隠れ里から追放された。その時の銀蔵の悲嘆にくれた遠吠えは今でも耳に残っておるわ。その子がお前さんと言うことだ」
 「母は、父はオオカミで隠れ里の龍勢に居ると言うこと以外は何も言わず亡くなった。それで父はどうなりました」
 「銀蔵はそれから一年も経たぬうちに病がもとであっけなく亡くなった。  死の間際には自分の墓は外の世界に作ってくれと言っていたらしいが叶う訳もなく、丘の上の墓地に弔われたのじゃ」
 五郎蔵はそれを聞くと緊張の糸が切れたのかその場に倒れこんでしまった。
 「五郎蔵さん大丈夫か」
 「なに、少し眩暈がしただけじゃ。それより与兵衛さん銀蔵のゆかりの者はおりませんか」
 「今はもう銀蔵の一族は絶えてしまって居らん。明日、墓に連れて行ってやるから今日はもう休むが良かろう。茜よ二人を三峰様の裏の洞窟に人目に付かぬよう案内してあげろ。」
 「はい。何か食べ物も用意します」
 「我々を匿ってくれるのか。それは嬉しいが迷惑をかけてしまうのではないか」
 「もうすでに迷惑はかかっておるが、番人のやつらに義理立てすることもない。任せておけ」


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