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【小説】真神奇譚 第十二話

 小四郎はしばらく考え込んでいたが眩次を手招きして呼び寄せた。
 「おそらく場所はここで間違いないだろう。あの鳥居を潜ったとき一瞬明かりが見えたような気がした何かあるに違いない。眩次よお前も手伝ってこの周りに何か手がかりが無いか調べてみよう。このまま尻尾を巻いて帰る訳にはいかん」
 「がってんだ。任せてくだせい」
 小四郎と眩次は手分けして鳥居の周りや祠の裏を見て回った。
 「どうだ何かあったか。こっちは特に手がかりになりそうな物はないな」
 「旦那、暗くて良くは分かりませんが祠の裏に何か石碑のようなものがありやした。何やら字が彫ってあるようですが達筆すぎてさっぱり分かりやせん」眩次は祠の方を指さして言った。
 小四郎は祠の裏に潜り込み石碑の碑文を読もうとしたが狭くてなかなかうまくいかない。ようやく見えるところまで入って碑文を見た。

      望月仰ぎ明かり射し入れる刻道開かる

 「これは確かに達筆だな、何々」
 もちづきあおぎあかりさしいれるときみちひらかる
 「どう言う意味ですかね」
 「望月とは満月の事だろう。この文面からすると満月の晩にここまで月明かりが差し込む時、隠れ里への道が開くと言うことだろうな」
眩次は滝の裏から出て冬空を仰ぎ見た。夜空の高いところに上弦の月がかかっている。
 「この様子だと満月まではまだ十日はありそうですね。どうしやす出直しますか」
 小四郎は呆然とする五郎蔵に歩み寄った。
 「五郎蔵さんどうやらそう言うことのようだ。出直すとしよう。」
 「わしはもうこの滝壺を泳ぐ気力は出そうもない。満月までここで待つことにするよ」
 「しかしここでは食べ物も無いしこの寒さだ。十日も居られる訳がない」
 五郎蔵は何も言わずただ小四郎を恨めしそうな眼で見つめた。
 「仕方がない、食べ物は我々で何とかしよう。出来るだけ風が吹き込まない場所に居てください。人間が来ることは無いでしょうが十分気を付けて」
小四郎と眩次はまた滝壺を渡り待っていたお雪と山を下って行った。
 「五郎蔵さんあの様子じゃ三日と持ちませんぜ。やはり連れ帰った方が良くは無いですかね」
 「これ以上言っても無理だ。彼もオオカミの血を引く男だ覚悟の上だろう。次の満月まで持たなければそれも運命と言うことだ。食べ物は私とお前で交代で持って行こう」


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