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【小説】真神奇譚 第十六話

 「実は里の外から来たのだ」しまったと思ったが相手の反応は意外なものだった。
 「よそ者が入ったと言って騒いでおったがあんた達だったのか。こんなところをうろうろしてるとすぐ見つかるぞ。わしが龍勢まで連れて行ってやるから付いてきなされ」
  小四郎がどうしたものかと考えていると五郎蔵がやってきた。
 「考えても仕方がないこの人にお願いしよう」と小四郎に耳打ちした。
 「ではお願いする」小四郎が言うと老人は無表情に頷くと踵を返して小川の流れの方向に歩き出した。小四郎と五郎蔵も後に従った。
 「油断しなさんな。まだこの辺りは日光と月光の小僧がうろうろしているかもしれんからな」老人は辺りに気を配りながら下って行く。
 「もしご老体、わしは龍勢の五郎蔵と言う。父親はこの里の龍勢の出だと聞いておる。」
 「ほう、それで誰か縁者の名を知っているのか」ちらっと五郎蔵を見て老人は聞いた。
 「わしもここで生まれたらしいのだが、物心がつく前に母親もろとも里の外に出されたのだ。ゆえに知り合いはおらん」
 「お前さんの母親は外の犬か」
 「そうじゃ」
 「随分と昔になるがそんな話は聞いたことがある。ある者が里の外から犬を連れてきて子をもうけたと。しかし当時は今以上に掟に厳しく、母親と子は里の外に追放され父親も共に行く事を望んだが許されず、しばらく牢屋に入れられていたとな。その後の話はとんと聞かない。もう知っている者も居らんだろうな」
 「そうですか」五郎蔵はぼそっと呟くとそのまま黙りこくってしまった。
 三人は黙々と歩き続け明け方近くには龍勢の村が見えるところまで下った。幸い追手には見つからずに済んだ。
 「龍勢はもうすぐそこだ。私の案内はここまでだ、後は二人で行ってくれ。気を付けてな」老人はそう言うと元来た道を戻って行こうとした。
 「ちょっと待ってくれ。あなたの名前を教えてくれ」小四郎が呼び止めた。
 「名乗るほどの事でもない」老人はそう言い残すとすっと木陰に消えた。
 「さあ、これからどうするか。」
 「もう夜が明けるから私が一人で様子を見て来ましょう。それから考えましょう」小四郎はそう言うと五郎蔵を残して村に向かった。
  村の入り口と思しき所まで来たが人気はなく静まり返っていた。小四郎は大胆に村の真ん中を通る道を進んで行く。左右に家と思われる巣穴がいくつも見えるがどれも長い間使われた様子が無いように見えた。もうすでに皆寝ていると見えて誰にも会わずに村を一周してしまった。
 「どうじゃった」
 「どうもこうも、まるで人気が無いですよ。仕方がないから夜になったらまた行って見ましょう。何かきっかけがなけりゃどうにもなりませんよ」
 二人は岩陰で休むことにしてそれぞれ眠りについた。


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