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レジリエンス ⑧認知処理療法

深刻なトラウマ体験に晒されると、人は誰でも自然に、恐怖や怒り、悲しみを感じ、激しい動悸や痛み、不快感などの身体症状が起こる。

これは「自然な感情」であって、十分に感じ、時間が経てば、やがて回復していくことが分かっている。

ところが何らかの要因で回復が阻まれ、いつまでも精神的、身体的症状が軽快しない、苦しい状態が続く場合には、心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断されることがある。

認知処理療法(Cognitive Processing Therapy:CPT)とは、この心的外傷後ストレス障害(Post Traumatic Stress Disorder:PTSD)に苦しむ人々を治療する、認知行動療法(Cognitive Behavior Therapy:CBT)の一​つの方法である。 

自然な回復を妨げている要因を、「考え方」に注目しながら探っていくのが特徴だ。


PTSDの主な症状は、以下のようなものだ。

①侵入症状
何かがきっかけとなって、自分では思い出したくない記憶が蘇ること。「フラッシュバック」とも呼ばれる。睡眠時に悪夢として現れることもある。

②回避症状
「記憶そのもの」を避けたり「記憶を想起させるもの」を避けること。特定の場所や状況、人を避けたり、避けようと努力したりする。

③認知と気分のネガティブな変化
恐怖や怒り、罪悪感や恥などのネガティブな気分が持続し、自分自身や他者、世界に対する否定的な信念や予想を持つ。「私が悪い」「だれも信用できない」「悪いことが起こる」など。

④過覚醒
過度な警戒心や集中困難な状態。自己破壊的な行動を示すこともある。

恐ろしい記憶が「フラッシュバック」して耐えられないと思ったら、そこから逃げよう、避けようとするのは当然のことだ。

けれども実は、そのような「回避」こそが、真の回復を妨げることがわかってきた。


またトラウマ体験が生じると、人はその「原因」について考えようとする。

「あのとき〇〇さえしていれば」
「こんなことが起こったのは私の責任だ」

起こった出来事「そのもの」ではなく、こうした「考え」からも、恥や罪悪感といった「ネガティブな感情」が起こり、その「考え」が変わらない限り、いつまでも持続し続ける。

「自然な感情」「考えから生じる感情」とを区別して、その上で、自分の考えや解釈について、丁寧に検証し修正していく必要がある。

原因に対する過度な思い込みや、現実とは異なる考えが、トラウマ体験について思い出したり感じたりすることを妨げ、結果的に症状を長引かせていることがあるからだ。


認知処理療法は通常、12回のセッションで、毎回の宿題や記述式のテキストを使って進められるそうだ。私は、他の様々な療法と併用しながら、簡略化した形で取り組んだ。

大まかな認知処理療法の流れは、次のようなものだった。

①PTSDや、心の仕組みを理解する
PTSDとは何か。辛い症状が続いて、回復が進まないのはなぜか。
心の仕組みや、出来事・思考・感情のつながりについて学び、自分の人生がどのように変化したのかを理解する。

②トラウマの整理
トラウマ体験がなぜ起こったのか、その体験によって世界や自分に対する見方がどのように変わったのかを整理する。

今まで「世の中は安全」だと信じていたとすると、トラウマ体験はその信念と「矛盾」する。

その際に「過剰同化」が起きて「世の中は安全なのだから、トラウマを受けた自分が悪い」という「自責感」が生じてしまう。

また「過剰調節」が起きれば「世の中が安全というのは完全な間違いだった。世の中は危険だ」となり、外界に対して「恐怖」を感じることになる。

こうした認知の変化により「自分に対する無力感」「周りに対する恐怖心」が続き、それが妥当かどうか、検討することさえできなくなってしまう。

③スタックポイント
主に5つのテーマに沿って、その人固有の「回復を妨げる考え方・認知=スタックポイント(引っかかり)」を探す。

安全「世界は完全に危険な場所である」
信頼「人は信頼できない」
力とコントロール「自分は何もできない」
価値「自分は汚された」
親密さ「二度と人と親しくなることはない」

④トラウマについての考え方・認知を見直す
過度に自分を責めたり、罪悪感を感じている時には、「本当に自分に責任があるのか」を考えていく。
本来なら自然に感じてもいいはずの感情を、なかなか感じられなかったり、抑制されていることがあるので、自然な感情をそのまま感じることで自分を取り戻していく。


認知処理療法の最終目標は、トラウマ体験に対する妥当な評価と、自分や周囲の世界に対する適切な認知が行えるようになることだ。

「回復を妨げる考え方」を捨て去り「新しい考え方」を身につける。

「もう一度、自分らしい人生を送ることができるようになる」という目標に、私は共感した。

自分の力で、自分の未来を変えたい、と、私は心から思った。

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