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ビジョンファンドがアフリカに初投資、ナイジェリアの中国企業Opayの不思議な金融サービス

不思議な金融サービスの宝庫アフリカ

アフリカにはおもしろい金融サービスがたくさんあります。たとえばナイジェリアの「貯蓄コレクター」。毎日、人の自宅や小商いの店舗をまわって一定額を集め、それを本人の代わりに銀行口座に預金します。報酬は、月あたり1日分の集金額(おおむね3%)です。

つまり預金代行。ひと山超えないと銀行がない田舎ではなく、少し歩けばいくらでもATMがある都市部でのサービス。集める人は個人事業主で契約もありません。え、自分でATM行けばいいじゃないの?と思うし、そんなに価値のあるサービス?って気がしますよね。それに、個人にお金預けて大丈夫?実際は詐欺もけっこうあるみたいですが、集める人は地元でよく知られている人や顔見知りがなるので、みんな信用しています。

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1回に貯蓄される金額は、30円から高くても1,000円くらいです。上の写真は「集金通帳」で、毎日の集金額は200ナイラ(60円)と書かれていますね。それくらいなら、なにも毎日預金しなくても、週末にまとめてATM行けばいいのでは?とも思いますが、手元に持つ現金は必要最低限にしたいというのは強いニーズです。アフリカの複数国で普及しているモバイルマネーも、どこにでも代理店があってこまめに現金をモバイルマネーに変えて、いわば「預金」できることが、人々にとっての大きなメリットとなっています。

ソフトバンク・ビジョン・ファンドがはじめて投資したアフリカ企業、Opayのサービス

ナイジェリアにOpayというフィンテックスタートアップがあります。つい先日、ソフトバンク・ビジョン・ファンド2がリードとして参加したシリーズCで、4億ドルを調達、評価額は20億ドルとなり、いわゆるユニコーンと呼ばれる大きな成長を期待されるスタートアップとなりました。アフリカでは、ナイジェリアの決済サービスであるInterswitchとFlutterwaveについで3社目のユニコーンとなります。

このOpayがやっているビジネスが、まさに、こてこての「え、それって価値あるの?」サービスです。でも、20億ドルと評価されているわけです。実は弊社アフリカビジネスパートナーズ、このOpayの代理店に融資をしています。

POSマシンってありますよね。日本だとクレジットカード払いのときにカードを差し込むあの機器です。ナイジェリアには、このPOSマシンひとつで商売をしている、POSショップがたくさんあります。

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人々はこのPOSショップにやってきて、自分の銀行口座からお金を引き出したり、現金を自分の口座に預けたり、人の口座に送金したりします。

え、銀行ATMとなにが違うの?と思うと思いますが、なにも違いません。

OpayはこのPOSショップに、モバイル上のOpayウォレットとPOSマシン(下の写真)を提供し、代理店としています。Opayの代理店となったPOSショップでは、お金を下ろしたいという客がきたら、OpayのPOSマシンを用いてその人の銀行口座から代理店のOpayモバイルウォレットに送金処理を行い、代わりに自分の手持ち現金を渡します。送金したいという人がきたら現金を受け取り、代理店のOpayモバイルウォレットから送金先の銀行口座に送金します。

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顧客から取引金額に応じて手数料をとり、その受け取り手数料とOpayや銀行に払う手数料との差分が、代理店の売上となります。

顧客からとる手数料は、1万ナイラ(2,600円)あたり200ナイラ(53円)ほどで、Opayに払う手数料はおおむね30ナイラ(8円)ほどです。この手数料率は、地域によってさまざまで、競争が厳しい場所やOpayが新たに出店を増やしたい地域では安くなるなど、かなりフレキシブルに設定され、また頻繁に変更されています。顧客からとる手数料を2%とすると、前述の貯蓄コレクターよりちょっと安い比率だというのが、面白いですね。

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平均的な代理店で1日2,000ナイラ(530円)程度を手数料の受け取りと支払いの差分として売上げており、青空マーケットの中にあるような商売をやっている人を顧客とする取引回数が頻繁な代理店では、1日40万ナイラ(106,000円)程度稼ぐ場合もあります。上の写真はラゴス最大の青空マーケットにあるテーブル店舗ですが、1日10万円を稼いでいます。

なお、代理店はこのPOSを通じて、電気代や有料テレビなどの支払い代行や携帯通話料の販売などもできるようになっています。

なぜこのようなサービスが人気なのか

アフリカは銀行口座保有率が低い、低いからモバイルマネーやフィンテックサービスが誕生するのだと言われますが、実態は少し違います。実際、POSショップは、銀行口座が普及しているからこそ広がったサービスです。

世銀の2017年の調査によると、ナイジェリアの銀行保有率(15歳以上)は39%ですが、農村部33%、女性27%、男性だと51%とばらつきがあります。人口の大半が住む農村部では現金がいらない生活をしている人々も多く、家族で口座を共有している人もいるので、一人頭で普及率を算出すると低くなりますが、実感値だと、都市部の18歳以上は8割、農村でも家族共有を含めれば6割くらいの人が銀行口座へのアクセスはあるのではないでしょうか。

ならば、なぜ銀行ATMを使わず、わざわざ手数料も高い在野のPOSショップを使うのでしょうか。

大都市ラゴスならばあちこちにATMがありますが、地方では銀行やATMは近くにないというのは理由のひとつです。弊社が融資をしている代理店のいくつかは地方に所在しており、ATMがそばにないからこそ取引が活発です。工場の目の前にあることもあり、日給を得た人や支払いを得た納入業者が頻繁に預金に訪れます。手持ちの現金は最低限にとどめたいので、お金を得たらATMを探す間もなくすぐに預け入れしたいからです。

さらに、冒頭の貯蓄コレクターでみたように、たとえ歩いてすぐのところにATMがあっても、店から離れられない青空マーケットの店主からすると、自分の店の3軒隣にあるPOSショップが便利です。それに、そこにあるPOSショップの店主とは顔見知りになっていますから、信用もできればなにかと融通がききます。

銀行ATMというのは、苦痛の象徴として捉えられています。並ぶ、待つ、悪い人に狙われやすい、ネットワークエラーやマシンの故障といったトラブル・・・

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(写真は銀行ATMに並ぶ人々。1台にしか並んでいないのは、隣のATMは故障中だから。24時間と書いてあるけど、夜間は危険なので使わない方がよいとされる)

そうでなくても人々は、銀行よりも、顔見知りの人間を信じています。高い手数料を払っても、顔見知りの人に、対面で、すぐに処理をしてほしいのです。

POSショップで一度に決済される金額は数千ナイラ~1万ナイラ、日本円にして500円~2,000円程度。少額を高頻度に、身近な人を通じて対面でやりとりするというのが人々のお金の動かし方であり、POSショップはそれを行うのに向いています。逆にいえば銀行は、この金額を頻繁に決済するために訪れられるような設計になっていないのです。

「少額・高頻度・対面」は、ケニアで成人のほぼ全員が使うようまで成長した、モバイルマネーM-pesaの普及の要因でもあります。決済に限らず、アフリカにおいて商品の購入や電力、ガスといった基礎的なサービスへ支払いを行うときにもたびたび見られるニーズです。アフリカにおいて伝統的な小売が根強く、eコマースが普及しづらい背景のひとつでもあると思われます。

人口のほとんどが給与所得ではない収入源で暮らしているなか、入りのお金が現金である以上、現金と口座・オンライン通貨を交換する物理的なプロセスが必要ですから、完全オンラインでの決済にもなりません。アフリカの国々は現金社会であり、だからこそ現金とオンラインを交換するさまざまな「フィンテック」サービスが存在しています。

どん底から復活を遂げたOpay

このOpay、2020年前半まではどん底でした。スーパーアプリを目指して配車、物流、決済、少額ローンとサービスを急拡大していた最中、2020年1月にナイジェリア政府が突然商用バイクのラゴス主要地域への乗り入れを禁止したため、配車、物流アプリの営業が全停止となりました。3月にはコロナによるロックダウンで事業が完全に止まります。

その時点でのOpayおよび親会社Operaがどんな状態だったかは、以下の記事に書きました。親会社Operaは、ブラウザOperaで知られる企業。2016年に中国企業に買収されています。

そこからOpayは、POS決済サービスにピボットしたことで、復活を遂げます。

もともとナイジェリアにはPOSショップのようなビジネスがあったものの、代理店への手数料を大幅に下げ、再代理店制度を取り入れるなどして代理店になる障壁を下げたのがOpayです。

コロナによる不況もあいまって、人々が自分で商売をはじめたい、なにか家計の足しになる副業をしたいというニーズが高まっていたタイミングと合致し、まず供給側である代理店数がコロナ以降大幅に増えました。

Opayによると、Opayを通じた決済額は、2020年1月が3.6億ドル、2020年11月が14億ドル、12月は20億ドルになり、いまは30億ドルは超えたとのことです。代理店数は30万を超えたと発表されています。

いわゆるフィンテックでイメージされるような、オンラインで完結するデジタル通貨といったものでなく、2019年までOpayが目指していたオンライン上であらゆるサービスが完結するスーパーアプリといったものでもなく、人々が数百円、数千円の現金を対面でやりとりするというまったく新しくないニーズと、参入しやすい商売で少しでも日銭を稼ぎたいという提供側のニーズを、ソフトウエアと物理的なPOSマシンでつないだことが、Opay躍進の背景です。

ビジョンファンドの思惑

こちらにも書いたように、ソフトバンクはもともとSoftbank Ventures Asiaを通じてシリーズBでOpayに投資しており、Opayには「ソフトバンクが投資しているスタートアップ」という冠言葉がついていました。

今回は、同じソフトバンクでもビジョンファンドからの出資で、同ファンドのアジア担当マネージングダイレクターが案件を担当します。Opayの親会社Operaは中国の実業家Zhou Yahui氏が所有しており、これまでの出資企業はほぼ中国のベンチャーキャピタルで構成されています。ビジョンファンドとしても、アフリカ企業というより中国企業と捉えての出資ではないかと思われます。

OpayはナイジェリアのPOS決済市場において、決済額と拡大スピードいう面でトップを走っていますが、それには、審査のゆるさや不正対策を犠牲にしている面もあるでしょう。

同社はかねてよりコンプライアンス上の問題が指摘されており、先日は同じOpera傘下のインドCashbeanが、Opayなどに対して不正に外貨を送金したとして、インド当局からマネーロンダリング容疑で摘発されています。

スピードを優先し、リスクや赤字をいとわずマーケットの面をとりにいく戦法や、業界の一番の勝ち馬に投資する選択は、ビジョン・ファンドの他の投資と似ているといえるかもしれません。

Opayが今回の調達を得て、次に目指すとしている市場はエジプトです。人口1億人のエジプトは、ナイジェリア(2億人)に次ぐ人口大国であり、現金社会。Opayが大躍進する可能性は多いにあります。

スーパーアプリ化も、あきらめたわけでもないと思います。ビジョンファンドでOpayを担当するマネージングダイレクターは、東南アジアのスーパーアプリ、Grabも担当しています。POS決済事業を通じて、ウォレットには多額の資金が流通しているわけですから、デジタル金融サービスとしての進化もありえるでしょう。


Opayのこれまでの調達実績、ソフトバンクのこれまでのアフリカへの投資実績、POS決済サービスの競合企業など、詳細は週刊アフリカビジネスに書きました。

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