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映画感想文「THE CROSSING〜香港と大陸をまたぐ少女」

「THE CROSSING〜香港と大陸をまたぐ少女」とは

2019年3月中国公開。
2020年11月日本公開。
製作は中国。
日本語の旧タイトルは「過ぎた春」。

香港と深センを越境通学する女子高生ペイ。
2つの場所を毎日行き来しているペイは、引き離された2つの文化の中に生きている。家族生活と友情、上層階級と下層階級、そして普段の日常生活と犯罪間を行き来する彼女の、命の危険と生計を維持する苦労、世界の若者が直面する道徳的な問題に立ち向かう様子が本作では表現されている。2年間の入念なインタビューやリサーチを重ねたうえで脚本を執筆した白雪(バイ·シュエ)監督は、今まで中国映画であまり描かれることのなかった青少年の裏事情、香港と中国大陸の現状をリアルに描き、青春の輝きと脆さを映し出した。
2019年第14回大阪アジア映画祭 来るべき才能賞受賞のほか、多数の映画祭で各賞受賞・ノミネートをはたした話題作。

――「THE CROSSING〜香港と大陸をまたぐ少女」

香港から、川を挟んで隣に位置する中国の都市深圳にiPhoneを不法に持ち運ぶ、女子高生の物語。
いわゆる「運び屋」のこと。
で、「運び屋」の何が悪いのか、って話だが、通常であれば香港から中国にモノ(商売品)を持ち込む場合は関税がかかる。
関税をかけずにモノを運ぶことで、運び屋は関税分に近い額を自身の取り分にすることができるし、買う側も市販されているモノより幾分安く買うことができ、その分国は税収入が減る。

中国は贅沢品など、中国国内の企業や商品を守るために関税が高いモノが多々ある。
一方の香港は関税が一切ない。
隣り合った国と地域でこの落差があることも舞台背景の一つになっている。
ちなみに関税がかかるか否かは、私物なのか商売品と捉えられるかという考え方。
なので腕時計は原則2本以上中国に持ち込もうとすると、たとえ私物であっても職質を受けてしまうはず。
中国にいる知人へのプレゼントだとか上手に誤魔化す必要あり。
当然この線引き、ルール、関税金額は国によって異なるので、海外旅行の際は事前に調べておかないといけない。

また、関税だけでなく、香港と中国の文化でわかりづらい部分もある。
ただの映画好きなアレさんが、この物語の背景である「深圳と香港の事情」を上手にまとめてくれているので、事前に頭に入れておくことをオススメ。
この予備知識は絶対に必要かと。

僕もこの映画の背景を知らずに観はじめたのだが、友人と広東語を喋っていた主人公のパオがイミグレを通って家に帰ると、母親が中国語を話してるってシーンがあって、「ああ、そういう家庭ね」って察した。
が、確かにわかりづらい。
またイミグレも香港IDカード(日本のマイナンバーカードみたいの)があれば、カードを通すだけですっと行き来できちゃうから、日本人が思い描くような国境を超えるという一仕事は必要ないことも知っておいたほうがいい。

ちなみに香港人も中国人も、中国のことを「大陸」と呼ぶ。
日本を島国と呼ぶこともあるが実際使うことはほぼないのに対し、「大陸」という単語は頻繁に日常的に使われている印象である。

この映画を観た理由

BS12で放送されてたのを偶然観た。
この偶然は非常にラッキーだった。

※DVDや配信などは現在ない模様

ココに刺さった ※ネタバレ有り

■雪
伏線の一つであるが、香港人の雪が好きって設定に微笑えましく思った。
香港には雪が降らないため、雪に憧れる人は多いらく(歴史的にも雪が降ったことはないのだろうか?)、日本に旅行するときも、東京や大阪同等に、映画でも登場する雪の降る北海道が人気のようだ。

■ベース音
この映画のレビューのほとんどで触れられているのだが、急にベース音がワン・フレーズ響く演出がある。
「ん? 放送事故? 編集ミス?」と、「耳で二度見する」ような違和感があるのだが、中国ではああいうのが流行ってるのだろうか。

■サメ
随所に出てくるのだが、これも何かの比喩か暗喩だろうか。

■ゲップ
公式サイトでも「見どころ」の一つとして紹介されているシーンで、ゲップが出るという場面がある。
緊張と緩和なんだろうけど、香港ぽいなと思った。
香港人ってコーラばっかり飲んでいるせいなのか、ゲップをよくするってイメージ。

■ラスト
ラストの持っていき方が、秀逸。
あと、エンディング曲って誰の何て曲なんだろう。

この映画を観終えて

ストーリー展開に「岩井俊二」テイストが感じられたので、非常に魅入ってしまった。
主人公の、自己主張の薄い透明感と「無言」で語る演出、そして女子高生の描き方に共通点があったように思う。
岩井俊二好きの方は、ぜひ観てみてほしい。

政治的なにおいがまったくなかったのも良かった。
ちなみに時系列でいうと、「国安法違反」が施行される3ヶ月前、2019年3月に公開されており、つまりは香港のデモが過激化する前に製作された映画ということになる。
だから「一国二制度」という言葉がマイナスの意味で独り歩きする前で、キナ臭さなど微塵も感じない。
しかし一方で、今後、香港、中国間でこのような映画って製作できるのだろうかと余計な心配をしてしまう。
そういった個人的な回顧心理もあってか、最近観た映画のなかではダントツに心をえぐられた作品である。

また、コロナの影響ではあるが、聞くところによると、現在、香港と深圳のイミグレは閉じられているらしい。
香港と大陸は行き来できない状態なわけだ。


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