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“1000℃を超えたら言葉は要らない 窯焚きの夜 神々しい景色を

午前2時 燃える薪を 観て
“美味しそう”って 
眺めていた。

まるで マグロか 鰹が目の前にあるように….


“松の枝持って来てください”

“はい”

焚き口に 込められた松に 火を入れる

薪に 火が移り 窯焚きの始まり

時計は 零時にセットされる。
辺りが暗くなった
時刻は19:30

薪のくべ方の手ほどきを受け

暫くすると 彼は 母家に食事を作りに

鮎飯に
サイコロステーキに
ありがたいご馳走を

薪のくべ方 熾火(おきび)の理論が
わかってくると 窯が 呼吸を始める

火の色 薪の状態 熾火の状態
窯の温度を 視ながら 
心地よく 呼吸をさせていく

雨に降られたり
また止んで
また降られ
その間も 少しづつ
温度は 上がっていく

午前2時 
窯の温度が1000℃を超えた
森の中に 囁くようにクラッシックが
流れる
二人の間に 言葉は無い…

言葉は要らない空気感に 包まれる

隣の穴窯だと 眩しくて見てられないくらい
この窯の 炎は優しい

“美味しそう”

呼吸を整えながらも 
少しづつ 温度が上がってくる。

窯の温度は 1200℃
薪をくべ 彼は呟く
“30分休むから 30分後に 起こしてください”

ずっと 気を張っていて 疲れも
出てくるだろう。


ひとり 静かに 窯の炎を眺めていた。

不思議な感覚に包まれて来る。
縄文人の記憶が蘇るのか
蒸気機関車の機関士だった祖父の
記憶か よくわからない

ただ 目の前の窯が 神聖な
まるで 神輿のように思えてくる

不思議なもので 何故だか
急に窯の温度が 上がり始める

まるで 何かが降り立ったように….
炎が 生きているかのように

舞い出す....

暫くすると また1200℃に
安定しだす。

そろそろ 起こす時間だ….
起こしても 起きない…..

起きて 炎を眺めて
窯の呼吸を聴いて
また 直ぐ寝ている…

いつしか 炎と 話が出来るように
なって来る
1200℃で ずっと安定している。

まるで 車で 高速道路を 一定速度で
巡航してるみたいだなって

午前5時 辺りが明るくなってくる
窯焚き開始して 10時間
窯は ご機嫌みたいだ。

辺りが明るくなり 
窯の温度は安定している。

“さあ そろそろ 窯の温度を
下げて行こうか”

言葉少なな彼
薪を手にしながら呟く….

気が付いたら14時間 
ずっと 炎を眺めていた。

窯の温度は1000℃。
窯口に煉瓦で 蓋をして
二人の窯焚きは 終わった。

窯焚きの前に 彼は呟いていた。

“ずっと 一晩中
窯の炎を見続けていると
色々なものが みえてきますよ”


ここに来るのに一年かかったけど
今宵の景色は とてもとても
神々しかった

平安な暮らしをする縄文人
浦島太郎な浮世雲
窯焚きの景色に

滋賀 信楽 まさんど窯にて


母家に戻り 鮎飯と ステーキを頂き

変なテンションの二人

“旅行行って来るから 窯焚き宜しく”
って 次から言うわ
”寝落ち防止に....”


笑う二人。

後 爆睡…..

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