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Emily In Paris(エミリーパリに行く)をみて批判するフランス人、共感するアメリカ人

Netflix配信のドラマ「エミリーパリに行く」のシーズ2の決定がついに発表されました! フランス在住者として、チェックしています!

批判するフランス人

マーケティング会社で働くアメリカ人のエミリーが、シカゴからパリの関連会社に赴任してきて、いかにもな意地悪フランス人の同僚たちの中で、孤軍奮闘する物語です。世界的には大人気でも、フランス人からの批判を受けているという記事を度々目にします。フランス企業の私の職場でも話題で、フランス人の同僚たちは一様に「cliché(クリッシェ):常套句」といいます。フランス人のステレオタイプを大げさに表している、ということです。全然間違っている! という怒りではなく、あくまでも紋切型なイメージで語られることを嫌っている印象

ご存知ない方に、シーズン1の予告編はコチラです。

共感している人たちは…

一方で、これを見て共感している人たちがいるのも事実。まずは、ファッション業界、広告業界など、いわゆるギョーカイで働いた経験がある人。フランス人でも、ここに出てくるスノッブな空気感は、それらの業界あるあるだと言います。私の職場でも、高級ファッションメゾンで働いていた人が何人かいますが、このドラマで描かれている特有の雰囲気は否定していませんでした。

そして、最も共感している人たちは、フランスで働くアメリカ人です。私の在仏アメリカ人の友達グループ内では、バカウケ! 一応、アメリカ生まれの私も、ウンウンと頷きが止まらない場面がいくつもありました。
アメリカ人の視点で書かれていることは、劇中でアメリカ人が崇めるアメリカ人デザイナーラルフ・ローレンのパリにあるカフェで、アメリカの国民食ハンバーガーを食べたり、フランス車=ちっちゃくて人が全然乗れない、今にも壊れそうなクラシックカー、という描かれ方からも伺えます。
このドラマは、アメリカ人のフランスへのステレオタイプが詰まったドラマなので、フランス人が不機嫌になり、アメリカ人にウケるのは当然。フランスで嫌な思いをしたアメリカ人たちの想いが凝縮された結晶ともいえます。

うちの会社のエミリー

そんな中、私が一番共感したのは、アメリカ人であるエミリーの職場での扱いです。私の職場にもアメリカ人の若い女の子ジェシカがいて、入社してきた頃の彼女と、このドラマのエミリーに重なる部分が多いのです。彼女はエミリーのように、いつも笑顔でポジティブ、みんなと仲良くチームワークをすることに燃えていました。毎日のお洋服も、フランスに住むアメリカ人あるあるの気合が入ったものです。(フランス人のファッション感覚については「FRENCH TOUCHをものにする!」の「パリジェンヌのドレスコード」をご参照ください。)
ジェシカの行動をみて私が感じていたことを元に、エミリーがドラマの中のフランス人社会で浮いてしまっている理由を考えてみました。

プレゼンテーションはスティーブ・ジョブズの如く

ジェシカは、プレゼンテーションがとっても上手。今まで、フランスの会社で働く外国人を何人もみてきましたが、基本的にフランス語を話せないと態度は控えめになるものが、アメリカ人である彼女は違います。堂々と母国語である英語で、Appleの新製品発表会さながら、よどみない語り口! アメリカ流の厳しいトレーニングと努力の滲む完璧さで、 英語が苦手なフランス人の上司を怖気づかせる勢い。そんな力の入った勢いあるプレゼンテーションをするフランス人は、劇中同様、私の周りにもいません。フランス人はプレゼンテーションが下手というわけではないのですが、専門的にトレーニングを受けているほどでもありません。めいっぱい全力で挑むよりも、肩の力が抜けている方がスタイリッシュという価値観も。多少、口下手でも職人気質な人が受け入れられているように感じます。逆に口が上手いやつ怪しい的な…。
一般的に、フランス人は英語を話さないと言われている通り、現実世界では劇中に出てくるような英語が上手いフランス人に、なかなか出会えません。私のこのドラマへの違和感はそこでした。ドラマのフランス人たちの英語がうますぎる

SNSで繋がる! 繋がる! みーんな友達!

ジェシカは「友達」も多く、SNSを駆使して、様々な業界の人たちとも繋がっています。上司がとある競合他社の話をしていると、すぐに「あっ! 私、そこで働いている友達がいるので詳細を聞いておきます!」と携帯で即メッセージ送信。
素敵なものを見つけると、これまたコミュニケーションアプリでみんなに「こんなキレイなものを見つけたの★」とシェア! 色々、意欲的、協力的なフレンドリーさで、物語のエミリーみたいじゃないですか?
ですが、フランス人はたくさん友達がいることよりも、少人数でも深い繋がりに価値を見出すので、友達の数が多いかどうかはどうでも良いのです。友達100人できなくていいんです。たくさん友達いるよアピールは付き合いが浅い人と、敬遠されてしまうことも。(私は「ともだち100人でっきるかな〜?」という童謡に洗脳された子でした。)

報われない努力…なぜ?

そんなイケイケなジェシカの態度は、悲しいかなエミリー同様、純フランス企業では受け入れられるのに時間がかかりました。泣き言をいわずに笑顔を振りまく姿から、「本心が見えない」といわれたり、「アメリカンアクセントが強くて、もう何いってるかわからない」など。(フランス人の多くは地理的にブリティッシュイングリッシュの方がまだ馴染みがあり、アメリカンなアクセントはサッパリという人も。)
ハードワーカーなので、めんどくさい他人の仕事を押し付けられても笑顔で対応。そのためにプライベートの時間を犠牲にしている姿を何度もみました。仕事とプライベートが混同してるのも、エミリーに共通しています。

でも、その成果はあまり褒めてもらえない。なぜなら、喉元過ぎれば熱さを忘れるフランス人のラテン気質で、大変な局面を乗り越えると、スッカリみんな忘れてしまうのです。「今回も危なかったけど、なんとか終わったね〜」で、終了。みていて気の毒になるほどでした。
フランスでは、自分が任されたされた仕事の範囲を守ることも大事で、自分の仕事ではないことを引き受けてしまっても、その成果はあまり評価されなかったりします。個人主義が行き渡っているので、他人の仕事を手伝うことはほとんどありません。アメリカ流のチームワークが染み付いたジェシカは、忙しそうな人がいたり、遅くまで残っている人がいると付き合ってあげる優しさなのに。
アメリカ人の友達でマネージメントをしている子がいるのですが、まぁ褒めるのがとっても上手なんです。きっと、ジェシカもアメリカにいた頃は、がんばった分だけ褒めてくれる上司に恵まれていたことが想像できます。フランス人のマネージャーは、ここぞという場面での〆の言葉はとっても上手だけど、実際の個々人の仕事ぶりをちゃんとみているかというと怪しい…。

もしエミリーが日本にいたら…?

ここまでは同僚のジェシカの話でしたが、物語の主人公エミリーにフォーカスしてみましょう。彼女のフランス社会での馴染まなさは、文化の違いといってしまうとつまらないので、もし日本にエミリーがいたらどうだったかを想像してみました。

私が以前働いていた日本の会社は、外国人が多く、エミリー気質なアメリカ人の人もいました。ドラマに出てくるフランス人たち同様、押せ押せのアメリカ人に面食らう経験をしていた日本人の同僚たちもいたと思います。でも、日本人は外国人に対して「なぜ日本語を話さない? わけわからん」と切り捨てない寛容さがあります。根底に外国への憧れと尊敬があるということが大きいと思います。飲み会に誘ってあげたり、英語を話す良い機会ととらえて、積極的にコミュニケーションする人が多かったです。

フランス人が自分たちは世界の中心だと思っているフシは、まぁ、多少なりともあるので、「フランス語喋ってナンボ」という空気は確かにあります。私のフランス語がわからんと文句をいってきたフランス人に、「私は日本人で、努力してフランス語で喋ってるんです」と言い返したことがあります。そのときは、ハッとしたような顔をして、すぐに謝ってくれましたが。
日本で、下手でも一生懸命に日本語を喋ってる外国人に対して、そんなこと言う人いませんよね!? でも、フランス人の、外国人だからといって特別扱いしない対応や、良い人ぶらない態度にピュアさも感じるので、憎めません。私も負けずに意地悪だし。

フランスで生きていく上で大事なこと

さて、私の職場のエミリーこと、ジェシカの現在ですが、最近は周りのフランス人たちを良い感じに巻き込んで物事を進めています。彼女の一番の変化は「NON(いいえ)」と言えるようになったこと! 今までニコニコしていたのが、素直に感情を表すようになりました! 不機嫌さを隠さないのは、フランス人が感じが悪いと言われてしまう所以でもあるのですが、フランスで生きていく上で、これは本当に大事なことだと思います。
彼女が不必要な仕事を断れるようになってから、一目置かれ始めたような気がします。もちろん、努力を続ける姿も手伝って、見直されていったということもありますが。

フランス人化してしまった私

こういう風に書くと、フランスにいるとみんな感じ悪くなっていくように思われてしまうかもしれません。実はジェシカと打ち解けてきてから、こんなことを言われてしまいました。
「私がきた頃、あなたもフランス人並に愛想なかったよね」と。えー!? ちょっと衝撃。私はフランス人よりもだいぶフレンドリーだと思ってましたけど、どうやらすっかり現地の色に染まっていたようです。
確かに、誰か新しい人が入ってくると、ジェシカは親切丁寧にアレコレ教えてあげるのです。こんな私でも日本にいた頃は、新しくきた人に多少気を使っていましたが、フランスに来てからはめっきり…。

そもそも彼女が来る前は、新しい人が来るというと、チームの反応はわかりやすくネガティブなものでした。フランス人は、幅広い人間関係より、少人数で深い付き合いが好きな話は先にも書きましたが、人間関係に変化を好まない国民性なのでしょう。もし、フランスにきて周りの人たちがすぐには受け入れてくれなかったとしても、自分が悪いのではなく、そういうものとと捉えましょう。

思い返せば私が入社した頃も、歓迎されてなかったかも…? でも、フランスにおいて、日本人のステレオタイプである控えめなイメージは好意的に受け入れられるので、アメリカ人が積極的に前に出ていくことに対してほどの逆風は吹いていなかったように思います。
私は、日本人の中ではでしゃばりな方ですが、海外では日本人らしさを保つように心がけています!(詳しくは「フランス人とうまく働く方法」をご参照ください。)とはいいつつ、フランス人の同僚たちからは「あなたがアメリカ生まれと聞いて納得」とも…。

そんなわけで、私の職場のエミリーことジェシカは無事に、フランス人社会に馴染んでいったのでした。ドラマのエミリーも、シーズン2では、もう少し待遇が良くなっていくことを祈っています!


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