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今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅱ よいつながりを築く「できる状況づくり」-

植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長
名古屋 恒彦

1 「できる状況づくり」
 
授業づくり・授業改善の基本姿勢は子ども主体を教育目標とすること、そしてその実現のための「できる状況づくり」です。
 「できる状況」とは、「精いっぱい取り組める状況と、首尾よく成し遂げられる状況」と定義されます。このできる状況を一人ひとりに適確に用意していくこと、このことができる状況づくりです。できる状況づくりで一人ひとりへの支援の最適化をめざします。
 ここで、「できる状況」を説明する言い方が、二つの部分からなっていることに注目する必要があります。二つの部分の一つめは、「精いっぱい取り組める状況」、二つめは「首尾よく成し遂げられる状況」、この二つが共に満たされて初めて、「できる状況」がつくられたと考えられるのです。
 つまり、精いっぱい取り組める活動であっても、結果が首尾よく成し遂げられなければ、満足感・成就感には不足が生じます。逆に首尾よく成し遂げられても、精いっぱい力を発揮できる状況がなければ、やはり満足感・成就感に乏しい、印象の薄い活動になってしまうでしょう。精いっぱい取り組める状況と首尾よく成し遂げられる状況があって、初めて主体性を十分に発揮した自立的な生活となるのです。

2 子どもを「できない子」とは見ないで
 できる状況がつくられれば、どの子もその子なりに、力を精いっぱい発揮し、首尾よく成し遂げる、「できる子」になります。したがって、できる状況づくりに努めるならば、子どもを見る目も自ずと変わってきますし、変わらなければなりません。「あの子はできない子だ」とは見ないで、「できない状況に置かれている子だ」と見るようになります。そして、まさに学校生活において、その子をできない状況に置いているのは教師自身であることに気付きます。子どもの能力を否定的に評価するのでなく、教師自身のできる状況づくりの不足を反省するようになります。その反省が望ましいできる状況づくりへの視点となります。
 「できない状況に置かれている子だ」と見る見方は、自ずと、子どもを本来できる子、頼もしい子どもと見る視点を導きます。そのような視点で教師が子どもを、本音で見られるようになれば、子ども同士のかかわりにもよい変化が現れるのではないでしょうか。

3 「できる状況づくり」でよいかかわりを
 子ども同士のかかわりが支援的になるには、相互にリスペクトが存在していることが不可欠です。どちらから「してあげる」、どちらかが「してもらう」という関係では、よいかかわりは生まれにくくなります。「してあげる」関係があったとしても、相手へのリスペクトがあれば、自ずと対等で支援的なかかわりになります。
 そのためには、よい出会いが必要です。よい出会いというのは、お互いが、自分らしいよい姿で出会えることによって容易に実現できます。「できる状況づくり」が行き届けば、よい姿で出会えます。特別支援学校を訪問した小学生が、「助けてあげよう」と思って教室に入ると、頼もしく活躍している子どもたちに出会い、驚きと尊敬から、よいお付き合いが始まることがあります。
 初対面での出会いは大切です。だからこそ、「できる状況づくり」に努め、よい出会いをできるようにしたいのです。
 すでに出会っている子ども同士であったとしても、教師が「できる状況づくり」を行い、お互いができる姿を認め合う中で、「出会い直し」をすることは可能です。特別支援学級の交流学級の子どもが、特別支援学級の授業に参加し、ふだんお世話をしているAさんが活躍している姿に接し、「Aさん、すごいね!こんなことできるなんて」と本音で驚き、これまでの関係が改善されたこともあります。
 学校では「よいところ探し」という授業が行われることがあります。悪いことだとは思いませんが、探してもらわないとよいところが見つからないというのも寂しい気持ちがしないではありません。それよりも、「よいところ」を自然に感じ合えるような学校生活づくりができればと願います。そのためには、一人ひとりへの「できる状況づくり」が不可欠です。

4 子ども同士の「できる状況づくり」
 子ども同士の「できる状況づくり」が自然に展開され、よい付き合い、よいつながりが生まれていることもあります。ある中学校では、知的障害の生徒のBさんが通常の学級で学んでいました。その学級にはBさんを小学校の頃から(その前から?)知る仲間が複数人ともに学んでいらっしゃいました。お互いに小さい頃から共に遊び、深い信頼の下、自然と支え合うことができる関係であり、授業の中でもそのような姿が自然に生まれていました。

特別支援学校小学部の授業研に参加して遊び場を体験する学生たち
名古屋 恒彦
植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長                                                   
                                            千葉大学教育学部卒業 千葉大学教育学研究科修了 博士(学校教育学 兵庫教育大学)     千葉大学教育学部附属養護学校教諭、植草学園短期大学講師、岩手大学講師、同助教授、
同准教授、同教授、植草学園大学教授を歴任 
主な著書:『知的障害教育における「個別最適な学び」と「協働的な学び」』(東洋館出版社.2022年)、『「各教科等を合わせた指導」Q&A (確かな力が育つ知的障害教育)』(東洋館出版社.2022年)、『「各教科等を合わせた指導」と教科の考え方: 知的障害教育現場での疑問や懸念にこたえる』(教育出版.2022年)、『「各教科等を合わせた指導」エッセンシャルブックー子ども主体の学校生活と確かな学びを実現する「リアルの教育学」』(ジアース教育新社.2019年)等

植草学園大学・植草学園短期大学 特別支援教育研究センター
障害者支援を学ぶことは、すべての支援の本質を学ぶことです。千葉市若葉区小倉町にキャンパスをもつ植草学園大学・植草学園短期大学は、一人ひとりの人間性を大切にした教育を通じて、自立心と思いやりの心を育むことにより,誰をも優しく包み込む共生社会を実現する拠点となることを学園のビジョンとしています。特別支援教育研究センターは、そのビジョンを推進するため、平成26年度に創設され、「発達障害に関する教職員育成プログラム開発事業」(文部科学省)の指定を受けるなど、様々な事業を重ねてきています。現在も公開講座を含む研修会やニュースレターの発行なども行っています。                                     tokushiken@uekusa.ac.jp

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