植草学園大学 特別支援教育研究センター

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特別企画 いんくる座談会(1)

植草学園大学発達教育学部の特別支援教育コースの先生たちが座談会をしました。特別支援学校はどうなっているのか、児童や生徒は変わったのか、インクルーシブ教育とは何なのか……。熱く語り合いました。 <参加者> ・佐川桂子(発達教育学部長) ・渡邉章 (図書館長) ・髙瀬浩司(特別支援教育コース主任)  ・野澤和弘(副学長) 特別支援学校の可能性と課題 少子化で子どもの数は減っている中で、小学校ではいじめや不登校が急増しています。教員採用選考の受験者は減少傾向にあり、先生が足りな

    • 復興支援活動を続けるということ②~ニーズは変わる、しかしなくならない~          

      植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長 名古屋 恒彦 ニーズは変わる、しかしなくならない  東日本大震災津波における復興ボランティアの初期の主な活動は、いわゆる泥上げ(家屋の床下・床上や道路の側溝などに堆積した汚泥の除去)やがれきの撤去といった体力を要求される仕事でした。筆者は主に岩手県宮古市で活動しましたが、内陸にある盛岡市から借り上げバスで学生とともに月に何度も片道約2時間の道のりを通い、時には現地のボランティアセンターに宿泊しながら、この活動に従事しま

      • 復興支援活動を続けるということ①~支え合いとしてのボランティア活動~          

        植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長 名古屋 恒彦 はじめに  今回と次回は、岩手県に在住する筆者が経験した東日本大震災の復興支援活動について書きます。  というのも、今年8月に岩手県沿岸の先生方を対象に、本センター事業として特別支援教育研修会を開催することになったからです。  発災13年を過ぎた今、教育現場になお存在する支援ニーズを、筆者の経験してきたことをふり返りながら、みなさまと分かち合えればと思います。 東日本大震災津波の発災  2011年3月1

        • 障害者差別解消法元年の悲劇を乗り越えて-エクスクルージョンと差別意識の深層、そして「合理的配慮」へ-

              植草学園短期大学教授 佐藤愼二  拙文は『生活中心教育研究No.29』(2016年12月発刊)に掲載された内容を一部修正したものである。  平成28(2016)年7月26日、相模原の障害者施設で凄惨な殺人事件が起きた。亡くなられた方々のご冥福を心からお祈りします。  今回の事件は、障害のある娘をもつ父親としてやり場のない憤りを禁じ得ない、許せない。一方、教育者としては-

        特別企画 いんくる座談会(1)

          「自立」は「孤立」で 「支援」は「無援」か?

             植草学園短期大学 教授 佐藤 愼二 「自立」という幻想  現代社会において「支援なしの自立」はあり得ない。もし、「私は完全に自立している」と考えているとしたら、それは大きな勘違いになるだろう。水道、電気、ガスがないとしたら…、農業、水産業等に従事する人がいないとしたら…考えればきりがなく、おそらく生きていくことさえ危うくなる。社会・生活インフラは-普段は意識されることの少ない-極めて

          「自立」は「孤立」で 「支援」は「無援」か?

          発達障害について考えよう(4)

          本当のインクルーシブとは                植草学園大学発達教育学部教授 野澤和弘  発達障害のある人の中には芸術や科学において傑出した才能があり、近代文明を進化させてきたことを紹介しました。そのような才能がなくても、脳の機能の多様性に着目して、「劣っている」のではなく「違う」だけだと考えるニューロ・ダイバーシティという概念が注目されています。従来の古い障害観を変える可能性を秘めていると思います。 発達障害をポジティブに評価する  自閉スペクトラム症(AS

          発達障害について考えよう(4)

          発達障害について考えよう(3)

          ユニークな個性に着目する                植草学園大学発達教育学部教授 野澤和弘  発達障害をネガティブに考え悲観ばかりしてはいけないと思います。発達障害のある人の中には特別な才能のある人もいます。そのような才能が見られなくても、繊細でまじめな人が多いように思えます。彼らの特性をよく理解せず、何が何でもルールを守らせ集団に適応させようとすると二次的な適応障害を生じさせてしまうことがあります。社会生活を送るためにはある程度はそうしたことも必要でしょうが、むしろ

          発達障害について考えよう(3)

          発達障害について考えよう(2)

          増加の背景にあるもの 植草学園大学発達教育学部教授 野澤和弘  発達障害とみられる子どもたちが小中高校の通常学級で急激に増えていることを前回は紹介しました。2004年に施行された発達障害者支援法で「早期発見・早期支援」が謳われたあたりから、学校や社会で関心が高まり、潜在化していた発達障害の特性のある子が表に出されるようになってきたのではないかとみられています。特に保育所

          発達障害について考えよう(2)

          発達障害について考えよう(1)

          なぜ、こんなに増えているのか?                植草学園大学 発達教育学部 教授 野澤和弘            通常の学級に在籍する小中学生のうち、発達障害の可能性がある子どもが8・8%を占めるという文部科学省の調査結果に衝撃を受けた人は多いはずです。8・8%とは、つまり11人に1人が発達障害ということです。特別支援学校や支援学級に通う児童・生徒も増えていますが、通常学級に在籍する子どもたちの間でも発達障害がこんなに増えているというのです。  10年前の前

          発達障害について考えよう(1)

          「信頼」が育つ場~困難さを共に過ごす~

                                   植草学園短期大学                          教授  堀 彰人  吃音(きつおん)をご存じだろうか。吃音とは、どもる話し方のことを言うが、実は吃音については誤解されていることが多い。  例えば、子どもの吃音は性格や育て方によって生じるものだと思われたり、本人に話し方について意識させないよう、話し方には触れない方がよいのだと思われたりしてきた。そのため、保護者は自身の育て方のせいで、子どもが苦しそうな話

          「信頼」が育つ場~困難さを共に過ごす~

          2人の生徒の選択をめぐって~自己理解ができれば必要な配慮を求めることができるか~

                                    植草学園短期大学                           教授  堀 彰人  全般的な知的な能力には問題がなく、ある特定領域に顕著な苦手さがある学習障害の代表的なものにディスレクシア(発達性読み書き障害)がある。ディスレクシアのある二人の生徒のエピソードから、自分に必要な支援や配慮を受けるために必要なことを考えてみたい。  障害者差別解消法の制定より随分前のことであるが、一人の生徒(Aさんとしよう)が定期

          2人の生徒の選択をめぐって~自己理解ができれば必要な配慮を求めることができるか~

          自己理解が育つ上で必要なこと~ひろし君に教えられたこと~

          植草学園短期大学                         教授  堀 彰人  「ことばの教室」の担当を8年間ほど勤めた後、主に言語やコミュニケーションに関する教育相談の仕事を9年間担当した。教員としてのスタートは通常の学級担任だったものの、17年間という長きに渡って、およそ一時間に一人ずつ子ども

          自己理解が育つ上で必要なこと~ひろし君に教えられたこと~

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅳ まとめ~各教科等を合わせた指導、本音の魅力~-

          植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長 名古屋 恒彦  特別支援学級における各教科等を合わせた指導の在り方を考えてきましたが、最後に、各教科等を合わせた指導の魅力、それも現場の本音としての魅力を3点ほど述べます。  1点目は、本物の生活に取り組める魅力です。授業には模擬的な活動を行うものもあれば、まったく生活とは関係なく学問的に学ぶものもあります。多様な学びがあってよく、それぞれに魅力があるのであり、互いに他を否定するものであってはなりません。  そのこと

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅳ まとめ~各教科等を合わせた指導、本音の魅力~-

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅲ 特別支援学級の教育と各教科等を合わせた指導-

          植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長 名古屋 恒彦 1 各教科を合わせた指導の受け止め  近年、特別支援学級で学ぶ児童生徒は年々増加の一途をたどっています。このことは、特別支援教育への理解と信頼の深まりに基づくものと思っています。今後の教育の充実が望まれるところです。  しかしながら、知的障害特別支援学級の先生方からは、知的障害教育の中核の指導法である各教科等を合わせた指導を実施する難しさが、時として聞こえてきます。  「私たちは特別支援学級なので、特別

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅲ 特別支援学級の教育と各教科等を合わせた指導-

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅱ よいつながりを築く「できる状況づくり」-

          植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長 名古屋 恒彦 1 「できる状況づくり」  授業づくり・授業改善の基本姿勢は子ども主体を教育目標とすること、そしてその実現のための「できる状況づくり」です。  「できる状況」とは、「精いっぱい取り組める状況と、首尾よく成し遂げられる状況」と定義されます。このできる状況を一人ひとりに適確に用意していくこと、このことができる状況づくりです。できる状況づくりで一人ひとりへの支援の最適化をめざします。  ここで、「できる状況」

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅱ よいつながりを築く「できる状況づくり」-

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅰ 前提としての自立論-

          植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長 名古屋 恒彦 1 「自立」の本質は支援の下での主体性  今日、大切にされる主体性は、教育目標「自立」の本質をなすものであること、だからこそ、今日的な動向においても一層重視されるものであることを、以下考えていきます。  一般に辞書的な意味での自立は、「他の援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりすること。ひとりだち。」(『広辞苑』第6版)というように、他の援助を受けないということや、「ひとりだち」ということ

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅰ 前提としての自立論-