植草学園大学 特別支援教育研究センター

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発達障害について考えよう(2)

増加の背景にあるもの 植草学園大学発達教育学部教授 野澤和弘  発達障害とみられる子どもたちが小中高校の通常学級で急激に増えていることを前回は紹介しました。2004年に施行された発達障害者支援法で「早期発見・早期支援」が謳われたあたりから、学校や社会で関心が高まり、潜在化していた発達障害の特性のある子が表に出されるようになってきたのではないかとみられています。特に保育所

    • 発達障害について考えよう(1)

      なぜ、こんなに増えているのか?                植草学園大学 発達教育学部 教授 野澤和弘            通常の学級に在籍する小中学生のうち、発達障害の可能性がある子どもが8・8%を占めるという文部科学省の調査結果に衝撃を受けた人は多いはずです。8・8%とは、つまり11人に1人が発達障害ということです。特別支援学校や支援学級に通う児童・生徒も増えていますが、通常学級に在籍する子どもたちの間でも発達障害がこんなに増えているというのです。  10年前の前

      • 「信頼」が育つ場~困難さを共に過ごす~

                                 植草学園短期大学                          教授  堀 彰人  吃音(きつおん)をご存じだろうか。吃音とは、どもる話し方のことを言うが、実は吃音については誤解されていることが多い。  例えば、子どもの吃音は性格や育て方によって生じるものだと思われたり、本人に話し方について意識させないよう、話し方には触れない方がよいのだと思われたりしてきた。そのため、保護者は自身の育て方のせいで、子どもが苦しそうな話

        • 2人の生徒の選択をめぐって~自己理解ができれば必要な配慮を求めることができるか~

                                    植草学園短期大学                           教授  堀 彰人  全般的な知的な能力には問題がなく、ある特定領域に顕著な苦手さがある学習障害の代表的なものにディスレクシア(発達性読み書き障害)がある。ディスレクシアのある二人の生徒のエピソードから、自分に必要な支援や配慮を受けるために必要なことを考えてみたい。  障害者差別解消法の制定より随分前のことであるが、一人の生徒(Aさんとしよう)が定期

        発達障害について考えよう(2)

          自己理解が育つ上で必要なこと~ひろし君に教えられたこと~

          植草学園短期大学                         教授  堀 彰人  「ことばの教室」の担当を8年間ほど勤めた後、主に言語やコミュニケーションに関する教育相談の仕事を9年間担当した。教員としてのスタートは通常の学級担任だったものの、17年間という長きに渡って、およそ一時間に一人ずつ子ども

          自己理解が育つ上で必要なこと~ひろし君に教えられたこと~

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅳ まとめ~各教科等を合わせた指導、本音の魅力~-

          植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長 名古屋 恒彦  特別支援学級における各教科等を合わせた指導の在り方を考えてきましたが、最後に、各教科等を合わせた指導の魅力、それも現場の本音としての魅力を3点ほど述べます。  1点目は、本物の生活に取り組める魅力です。授業には模擬的な活動を行うものもあれば、まったく生活とは関係なく学問的に学ぶものもあります。多様な学びがあってよく、それぞれに魅力があるのであり、互いに他を否定するものであってはなりません。  そのこと

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅳ まとめ~各教科等を合わせた指導、本音の魅力~-

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅲ 特別支援学級の教育と各教科等を合わせた指導-

          植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長 名古屋 恒彦 1 各教科を合わせた指導の受け止め  近年、特別支援学級で学ぶ児童生徒は年々増加の一途をたどっています。このことは、特別支援教育への理解と信頼の深まりに基づくものと思っています。今後の教育の充実が望まれるところです。  しかしながら、知的障害特別支援学級の先生方からは、知的障害教育の中核の指導法である各教科等を合わせた指導を実施する難しさが、時として聞こえてきます。  「私たちは特別支援学級なので、特別

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅲ 特別支援学級の教育と各教科等を合わせた指導-

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅱ よいつながりを築く「できる状況づくり」-

          植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長 名古屋 恒彦 1 「できる状況づくり」  授業づくり・授業改善の基本姿勢は子ども主体を教育目標とすること、そしてその実現のための「できる状況づくり」です。  「できる状況」とは、「精いっぱい取り組める状況と、首尾よく成し遂げられる状況」と定義されます。このできる状況を一人ひとりに適確に用意していくこと、このことができる状況づくりです。できる状況づくりで一人ひとりへの支援の最適化をめざします。  ここで、「できる状況」

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅱ よいつながりを築く「できる状況づくり」-

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅰ 前提としての自立論-

          植草学園大学名誉教授 全日本特別支援教育研究連盟理事長 名古屋 恒彦 1 「自立」の本質は支援の下での主体性  今日、大切にされる主体性は、教育目標「自立」の本質をなすものであること、だからこそ、今日的な動向においても一層重視されるものであることを、以下考えていきます。  一般に辞書的な意味での自立は、「他の援助や支配を受けず、自分の力で判断したり身を立てたりすること。ひとりだち。」(『広辞苑』第6版)というように、他の援助を受けないということや、「ひとりだち」ということ

          今こそ、特別支援学級で実践したい各教科等を合わせた指導-Ⅰ 前提としての自立論-

          障害のある生徒たちの「働く」を考える(4)-企業との本物の連携によるキャリア教育のすすめ-

          植草学園大学 発達教育学部 准教授 髙瀬 浩司 「働く」学びにおける企業とのパートナーシップ関係  特別支援学校生徒達の「働く」学びやキャリア教育には、企業との連携が欠かせません。特別支援学校高等部学習指導要領には、キャリア教育等に関する配慮事項として、以下のように記述されています。 第1章総則 第2節教育課程の編成 第2款教育課程の編成 3教育課程の 編成における共通的事項 (6)キャリア教育及び職業教育に関して配慮すべき事項  ア 学校においては,第5款の1(3

          障害のある生徒たちの「働く」を考える(4)-企業との本物の連携によるキャリア教育のすすめ-

          障害のある生徒たちの「働く」を考える(3)-特別支援学校におけるライフキャリアの形成-

          植草学園大学 発達教育学部 准教授 髙瀬 浩司 広義の自立とライフキャリアを大切にして  これまでのキャリア教育の解釈における課題から、現行の特別支援学校高等部学習指導要領には、キャリア教育の推進について、次のように記述されるようになりました。 第1章総則 第2節 教育課程の編成 第5款 生徒の調和的な発達の支援 1 生徒の調和的な発達を支える指導の充実 (2)生徒が,自己の存在感を実感しながら,よりよい人間関係を形成し,     有意義で充実した学校生活を送る中で,

          障害のある生徒たちの「働く」を考える(3)-特別支援学校におけるライフキャリアの形成-

          障害のある生徒たちの「働く」を考える(2)-続・ワークキャリアからライフキャリアへ-

          植草学園大学 発達教育学部 准教授 髙瀬 浩司 初めての養護学校学習指導要領・養護学校義務化と「働く」学び  前回も触れましたが、昭和30年代頃当時の「働く」学びは、職業自立や職場適応中心の時代。時には、「手に職を付けるための教育」「食べていけるための生産学習」等と考えられ、自分を抑えてでも周囲に合わせる受け身的な姿勢を強いる傾向も一部には見られるなど、生徒たちの主体性は後回しにされていきました。職業に限定された狭義のキャリア、すなわちワークキャリアに傾斜しすぎた「働く

          障害のある生徒たちの「働く」を考える(2)-続・ワークキャリアからライフキャリアへ-

          障害のある生徒たちの「働く」を考える-ワークキャリアからライフキャリアへ-

          植草学園大学 発達教育学部 准教授 髙瀬 浩司  特別支援学校の生徒たちの将来の「働く」姿を考えた時、高等部における各教科等を合わせた指導の形態である作業学習や専門学科における職業を主とする専門教科等が重要な役割を果たしています。多くの特別支援学校高等部では、その意義や有効性を実感し、作業学習や専門教科を教育課程の中心に位置づけながら、生徒たちの将来の自立に向けた取り組みが進められています。  特別支援学校学習指導要領解説知的障害者教科等編(高等部)では、作業学習につい

          障害のある生徒たちの「働く」を考える-ワークキャリアからライフキャリアへ-

          「特別支援学校の開かれた学校づくり」Part4 地域と共に

          植草学園大学発達教育学部 教授 佐川桂子 私が2018年から2019年まで勤務していた千葉県立君津特別支援学校では、「世の中を優しくする学校」を合言葉に、児童生徒の持っている力や可能性を地域社会に向けて発信し地域活動に積極的に関わっていこうと考え、さまざまな取組を展開しました。その一つが、高等部作業学習班の一つであるサービス班の生徒が、青年経営研究会の皆さんと一緒に行った「きみつキラキラ大作戦」です。年3回、最寄り駅であるJR君津駅の清掃活動を行いました。学習の一環とし

          「特別支援学校の開かれた学校づくり」Part4 地域と共に

          「特別支援学校の開かれた学校づくり」Part3 スポーツをとおした地域交流

          植草学園大学発達教育学部 教授 佐川桂子  今年も10月14日(土)に、本学を会場に「千葉県特別支援学校ボッチャ選手権大会」が開催されました。  この大会は、2016年リオパラリンピックを契機に、2017年から開催しています。第1回の大会冊子に本学園の植草理事長が以下の文を寄せています。 「ボッチャは、大きな緊張感の中で、盛り上がりのあるチーム競技です。とても面白い競技です。障害のある人もない人も共に参加できる競技です。  まだまだ知られていない競技ですが、2016年リオパ

          「特別支援学校の開かれた学校づくり」Part3 スポーツをとおした地域交流

          「特別支援学校の開かれた学校づくり」Part2 Aさんも○○小学校の一員

          植草学園大学発達教育学部 教授 佐川桂子  前回Part1で、養護学校の義務制実施の頃のことを書きました。Part2では、交流教育について振り返ってみます。 1 昭和の時代の「交流」体験  交流教育については、義務制実施前の学習指導要領にも、その機会を積極的に設けることが望ましいと述べられていましたが、義務制実施を契機に、障害のある子どもへの理解と認識を深める目的で、小中学校と養護学校との交流教育が推進されるようになりました。  1982(昭和57)年に就職した養護学校

          「特別支援学校の開かれた学校づくり」Part2 Aさんも○○小学校の一員