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ショートショート集

21
短編小説よりも短い作品を掲載しています。
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#創作

【ショートショート】夜景国家

【ショートショート】夜景国家

 居間のコーヒーテーブルで遅い昼食を摂りながら、私は無感情に窓の外を眺めていた。

 現在時刻は午後二時四十分だが、外は真っ暗で闇に包まれている。
 街には無数の街灯が浮かび、大通りを行き交う車はどれも例外なくライトを点けている。
 アパートメントの十二階の一室から見える、いつもの光景だ。

 昼間の時間なのに外が夜のように暗い理由ーこれは私の住む都市、ブライトシティが巨大な円盤の影に覆われている

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【ショートショート】カーネル・サンダースの呪い

【ショートショート】カーネル・サンダースの呪い

〈先日投稿した、短編小説『少年たちの秘密基地』でカットしたシーンを編集して、ショートショートに仕上げたものです〉

 僕らの秘密基地は小さな森の中にあって、白い布に囲まれた円筒の形をしている。

 使わなくったシーツを利用して、木々の間を輪の形に覆っているのだ。
 控えめな蝉の鳴き声が、至る所から聞こえていた。

 放課後、僕ら-僕とマナブとシゲチーとよっちゃんと掛布の5人-は秘密基地内で、次にど

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ユウヒ飲料の自動販売機【ショートショート】

ユウヒ飲料の自動販売機【ショートショート】

 自動販売機の扉を開けると、その向こうには『昭和40年代の世界』が広がっていた。

* * *

 本日9台目になる自動販売機の飲料を補充し、集金を終えた俺は、トラックに乗り込み、車を発進させた。

 車内のラジオからは、ブルース・スプリングスティーンの『ボーン・イン・ザ・U.S.A.』が流れている。

 時刻は午後1時半過ぎ。道は空いていて、もう5回は信号に捕まっていない。
俺は自然と『ボーン・

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短編小説「空想少女と風のリアリスト」

短編小説「空想少女と風のリアリスト」

『そうして人類は滅亡し、宇宙に真の平和が訪れることになった。』

 私が数日かけて読み終えたSF小説は、この一文で幕を閉じた。
私はその最後の一文を読んだ直後、分厚い単行本を思い切り床に叩きつけたい想いに駆られた。

 作中に散らばったいくつもの謎や伏線は殆ど置き去りにされた状態で、物語は「人類滅亡」という無責任としか思えない形で終局を迎えたのだ。
こんなの、どう考えても作家としての職務放棄だ。

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『屋上から見つけた事件』(掌編小説)

『屋上から見つけた事件』(掌編小説)

 昼休み、学校の屋上で昼食を食べている時だった。

 不意に凪沙が言った。「ねえ、見てよあれっ!」
「え、何、何」私と恵梨は、凪沙の突然の言葉に少し驚いた。

「ほら、あそこっ! あれ事件じゃないっ?」
「事件っ!?」
私達の高校の前には新築の大きなマンションが建っており、凪沙は手すりに乗り出してそちらを指差していた。

 私と恵梨も同様に手すりに乗り出して、そのマンションの方を見た。
「どこっ?

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