「被災者って誰なんだろう?」 避難生活の「におい」問題に挑んだ学生たちが考えたこと
【学生インタビュー/前編】 避難所と日常をつなぐ「ものづくり」で見えてきたもの
いよいよ最終フェーズに入った、「避難所の衛生ストレス解決」プロジェクト。
このプロジェクトでは、自然災害に見舞われた被災地において、命を奪いはしないものの実は深刻な「におい」の問題に焦点をあて、避難生活のストレスを少しでも軽減できるようなプロダクトの開発に取り組んできました。
先日公開した活動リポートでは、実用化に向けた実証実験の様子とプロトタイプの磨き上げの工程をご紹介。被災地の声をもとに企画した「日常と避難生活を結びつける製品」が、どのような過程を経て最終製品へと仕上がっていくのか、その一部をご覧いただきました。
今回のnoteでは、プロジェクトに携わった京都工芸繊維大学の学生の声を、前編・後編の2回に分けてお届けしたいと思います。前編にあたる本稿では、「消臭保冷バッグ」「スポット消臭カバー」「即席消臭コーナー」という3つのプロトタイプに携わった3名の学生にインタビュー。彼女たちはなぜこのプロジェクトに参加し、避難生活についてどのようなことを考えたのでしょうか。
■プロフィール
フィールドワークで知った避難所の姿。被災者の悩みは一人ひとり違うことに気づいた
——まず、「避難所の衛生ストレス解決」プロジェクトで皆さんが担った役割を教えてください。
安藤:私は、「消臭保冷バッグ」「スポット消臭カバー」「即席消臭コーナー」と、3種類のプロトタイプの制作に携わりました。このプロジェクトには、約2年前に参加。活動歴が一番長いメンバーなので、プロトタイプをつくるだけでなく、その前段階で実施した被災地のニーズを伺うフィールドワークも経験しています。
中道:2023年の春からこのプロジェクトに参加して、安藤さんと同じチームで活動してきました。私たちは特に、「パナソニックが開発した消臭効果も期待できるイオン『ナノイーX』発生装置に物を被せる」という観点で製品化を検討。その結果完成したのが、安藤さんが紹介してくれた3つのプロトタイプです。
澤渡:私の参加は2023年6月頃からです。主に「スポット消臭カバー」の制作に携わりました。加えて、「消臭保冷バッグ」や「即席消臭コーナー」の消臭効果を確かめる実験にも参加しました。
——プロジェクトへの参加理由も教えてください。
安藤:以前から「災害によって起こる身の危険」に関心があったことがきっかけです。実は私、実家が川の近くにあるので、これまでに避難所への避難を何度か経験したことがあったんです。被災や防災をかなり身近に感じていたことが、プロジェクトに参加する大きな理由となりました。
中道:私は安藤さんとは違って、避難所に行くほどの災害を経験したことはなく……今回のプロジェクトは、私たちの大学とパナソニック、UCI Lab. の産学連携で行うという点に惹かれて参加しました。工芸科学部ではプロダクトデザインを学んでいるため、現場のものづくりを体験できる良いチャンスだと感じたんです。
澤渡:私も中道さんと同じく大きな災害を経験したことはなくて、プロジェクトに参加するまで、避難所についての知識はほとんどありませんでした。同じ専攻の安藤さんからプロジェクトに関する話を聞いて、興味を持ったことが参加した大きなきっかけです。
——プロトタイプの制作やフィールドワークなどを経験して、避難生活に対するイメージに変化はありましたか?
安藤:ありました。特に私は、フィールドワークを通じて、「被災者って誰なんだろう」と強く感じたのをよく覚えています。私も以前はそうでしたが、メディアの災害報道を見ていると、自然災害に遭った方々を「被災者」と大きなくくりで捉えやすいものです。でも、実際に被災地へ行って話を聞いてみて、同じ地域の中でも一人ずつ違う悩みを持っていることが分かりました。普段私たちが目にしている情報だけでは、知り得なかったことだなと思います。
中道:私も、避難所で過ごす人が意外と少ないという事実を知ったときは、イメージと異なっていたので驚きました。ニュースを見ていると、多くの人が避難所を利用している映像が出てきますけど、避難所に一度は訪れるけれどすぐに帰ってしまう人が多いということを被災経験者がお話されていたんです。避難所で他の人と空間を共にすることが嫌だから利用しないというケースも多く、さらには被災した家の片付けをボランティアの方が手伝おうとしても、「散らかってしまった家を見せるのが恥ずかしい」と手伝いの申し出を断る人が多かったことも意外でした。
澤渡:あとはやはり、このプロジェクトのメインテーマである「におい」の問題も、私たちが思っている以上に深刻でしたよね。12月のフィールドワークで、実際に水害にあったタオルや長靴に触れたのですが、これまでに嗅いだことのない強烈なにおいがして、後日具合が悪くなってしまったほどでした。それでなくとも大変な避難生活の中で、においの問題もみなさん我慢しているのかと思うと、心身に大きな負担がかかるなと改めて実感しました。
「本当に被災地の役に立つのか?」自問自答を繰り返して臨んだプロトタイプの制作
——今回のプロジェクトで、特に大変だったことは何でしたか?
中道:被災者のニーズを正確に捉え、問題を定義することに難しさを感じました。このプロジェクトでは「におい」を解決すべき問題として取り上げましたが、でも実際のところ、この問題は我慢しようと思えば我慢できてしまいます。命に関わるものではないからこそ、解決の優先順位は低くなると思うんです。においを問題と定義することで、被災地に対してこちら側が押しつけをしてしまっているのではないかと、不安を抱えながらプロトタイプの制作に臨んでいた側面もありました。
安藤:私も同じことに不安を感じていて。においってやはり経験者にしか分からない部分が大きいので、「本当にこれでいいのだろうか」と自問自答しながらプロジェクトに取り組んでいました。
中道:でも、2023年9月に行ったフィールドワークで、プロトタイプを被災経験者に見てもらったところ、思っていたよりも良い反応がもらえてとても嬉しかったです。「におい」は避難生活の中で実は大きなストレスになっているんだと、社会に問題提起をするきっかけにもなったのかなと。
澤渡:あとは、被災経験者の方に実際に見てもらうことで、提案した使い方とはまた違ったアイデアを出してもらえたことにも発見がありました。使い方に広がりができたのは、実際に被災された方ならではの視点があったからです。
——今後、このプロジェクトは皆さんの手を離れ、実用化に向けて最終フェーズに入っていくことになります。プロジェクトの未来に対して、期待することはありますか?
中道:今回のプロジェクトでは、私たちが「におい」の問題を取り上げて、パナソニックのナノイーXを使いながら解決策をつくり上げていきました。でも、きっと私たちの身の回りにあるものでも、避難生活で使えるような親和性の高いものもあるのかもしれないと思います。今後は「普段はこう使っているけど、避難所ではこんな使い方ができるよ」と製品ごとに提案ができると、おもしろいのではないかと思います。
澤渡:私たちがプロジェクトで体感したように、経験者や現場の声をリアルに聞くことでしか生み出せないものがあると思います。今後も、引き続き現場の声を聞きながら、被災者が本当に望むものを社会に届け続けて欲しいです。
安藤:私は、今回の制作したプロトタイプは、あくまで提案の一つにすぎないのかなと思っています。たとえば組立消臭クローゼットは、消臭機能がなかったとしても、避難所にそういったスペースがあるだけで女性にとってはありがたいですよね。そういう風に、私たちの手を離れてからも、実際に社会の中で使われていくうちにプロダクトの使い方が発展してくれたらおもしろいなと思います。
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学生インタビュー後編では、「組立消臭クローゼット」の開発に携わった2名の学生インタビューをお届けします。ぜひご覧ください。
(UCI Lab. 広報担当)