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狂気の人間交差点「GONIN」3部作。私的注目ポイントを紹介。

石井隆監督の名作「GONIN」。現金強奪を実行した5人組と彼らを追う暴力団の抗争を描いたシリーズ全3作。1作目は、新しいサブスクに登録の際は必ず入ってるか検索する作品です。ネトフリ=ない、アマプラ=ある、ディズニー=勿論なしという具合で。

別に見て爽快な気分になるのではなく寧ろ陰鬱になるのですが、印象的な場面が非常に多く繰り返しそのシーンを見返す楽しみ方をしています。今回はシリーズの私的見どころを幾つか述べたいなと。

異常者だらけ

ロクな人がいないので見所も多い1作目。一目で不審者とわかる竹中直人は「俺を何だと思ってるんだよ~」とバットを振り回す。帰宅後の自宅はハエが飛び交い血が散乱。夫婦水入らずのお風呂から殺害されるほぼホラーの末路を辿ります。

椎名桔平は元ボクサー(パンチドランカー)で組側の人間ながらタイ人の恋人の為に参加。殺された恋人の服と頭皮を被って組に乗り込む場面。「てめぇら。。ナミィを。。てめぇら。。ナミィを。。」。これについては後述。

本作の顔。5人を狙うヒットマンがビートたけし。事故からの復帰作という事で眼帯をつけて登場。弟分が木村一八。奇しくもお笑い東の王とお笑い西の王子の組合せですが、2人が死体のある部屋で暴行&性行するおぞましい光景。このシーンだけで女性に勧める事は出来ません

たけしさんの出演は事故明けもあって大丈夫か制作側が確認を取ったところ「一度OKしたのだから大丈夫。なんなら(眼帯)取ろうか?」と気遣うような回答もされたそうです。有名な事務所襲撃は監督名物である雨のシーンで監督が「雑菌が入らない様に」とビニール傘を持たせて撮影。結果、人殺しが日常に馴染んだ生活感のあるシリアスキラーの姿になっています。

部下を全て失い狼狽する永島敏行。服を脱ぎ出し防弾チョッキが露に。
「会長すいません。待ってください。待って!待ってよ!」。前半で「地の果てまで追い続けて、皆殺しにしてやるからな!分かってるのか!」とまくし立ててたのが別人のような狂い様です。

続く女性版「2」は前作の竹中ポジション。妻を殺された復讐から不死身の殺人鬼と化す緒形拳、セーラー服の大竹しのぶ、どう見てもトラヴィスの鶴見慎吾、沸点の低い左とん平。狂気を感じるのはこの辺り。最終作「サーガ」は別役で皆勤賞を続けてきた竹中。酸素吸入器を着けた殺し屋。この人についてもこの後記述。

魂もその身も連れて行く

3作それぞれ男女のカップルが登場。1作目は鶴見慎吾と横山めぐみ、2作目は緒形拳と多岐川裕美、サーガは竹中直人と福島リラ。シリーズの特徴として、基本女性がロクな目に遭わないため、いずれも女性側が全員死亡。男性側がいずれも復讐に赴くのですが、鶴見は着ていた服と頭皮を剥いで事務所突撃。竹中は生首をビニール袋に入れて殴り込み。緒方は車に死体を乗せて移動。魂を連れて行くとか形見を持って行くなら分かるにしても亡骸も連れて行こうとする深すぎる愛。

特に鶴見演じるジミーは5人で一番ピュアそうに見えるから、あの後、恋人の亡骸から頭の皮を剝ぐ猟奇的シーンがカットされてる訳で。余計に戦慄するシーンになっています。

霊も年を取るのか?

よく見ればツッコミどころも多数。元々因縁があって、ナイフで威嚇された佐藤浩市と本木雅弘が中盤に親密度が急激に高まるのは「?」でしたが、散り際の美しいキスシーンに繋がるのでOK。どう見てもタイ人に見えない横山めぐみ。妻子を殺されたのに取り乱さない根津甚八、急にキレだす左とん平と挙げたら結構あります。

サーガで登場する柄本佑の出自もそこから引っ張る?という感じ。東出昌大と桐谷健太が竹中と相対する場面は、柄本が用意した資料で5人の顔写真を見てる筈なので、顔を見て気付かないのかなと思いましたが、一見だけで他人の顔を覚えられる人もそういないので。。ちなみに資料で唯一、木村一八の写真がないのに諸々の事情を察しました。

あとサーガのクライマックス。幻影となって登場する佐藤浩市が白髪になっていて1作目より老けています。当時はまだ黒髪で同年公開の別作品でグレイヘアに染めてたので、スケジュールの都合かなと思ったのですが「ツイン・ピークス」の新作でローラ・パーマーが同じ女優でそのまま登場していたので、成仏できてないから年を取っているとも取れる訳で。ここは色々な解釈が出来るシーンだなと思いました。

遺したサーガ

サーガ出演の為に1作限りの復帰となった根津甚八。オープニングクレジットで1作目の映像が使われ、当時の姿に「根津甚八」の文字が重なり、エンドクレジット。容姿が変ってしまったけれど戻ってきたその姿に「根津甚八」の文字を重ね。実質シリーズの主人公となった演出がなされました。

それで根津甚八さんはこれが遺作。石井監督は今作以降新作を作る事がないまま。昨年他界。物語を完結させた監督と覚悟を持って戻ってきた演者。揃ってこれが遺作に。

前述の通り虐げられる女性や過激な暴力描写もあってコンプラが重視される時代になってから中々作品が作り難いところもあったかと思います。お家都合で作品から離れた奥山和由氏が新たな続編の構想を描いていたようで。

主人公は松坂桃李、村上虹郎、佐藤二朗を追加してとか考えていたらしく、それは見て見たかったなと。遺志を継ぐ人が現れるか、新しい物語(孤狼の血など)を作る次世代に期待して。遺された物語を時たま見てみるのも良いのではないでしょうか。

余談

本作を見た当時、西野七瀬・野村周平が主演の「電影少女」という作品を見ていました。アイが清水(村上淳)の元へ渡ってからの展開がもどかしかったので

翔が車で事務所に突っ込んでくんないかな」と想像してしまいました。

アイ奪還計画

やっぱり暴力で解決するのは良くないよなと。反省。

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