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10歳がすべて企画した「青春18きっぷ」の旅 2023夏


天気にも恵まれ、海あり、山あり、トラブルあり、息子の鉄道愛溢れる素敵な旅だった。

一番に思い出されるのは、「次は本数が少ないから逃せない」「次は長距離だからBoxシートに座りたい」という理由で、階段前に一番近いであろうドアの横でずっと立って揺られていた息子の姿だ。

10歳、闘志あふれるいい顔で立っていた。

初めての「水上(みなかみ)ダッシュ」に備えて…

えちごトキめき鉄道 日本海ひすいライン の車窓♪




1、旅のきっかけ


青春18きっぷ、私は人生で一度も使ったことがなく、18歳を超えた大人も使えることを昨年まで知らなかった。


きっかけは息子。

学校に疲弊し、自己否定に陥り、学校どころか外出も出来なくなり、生きる気力を失くしてしまっていた息子は、ゲームとYouTube視聴の日々を送っていた。

鉄道好きな息子は、鉄道系YouTuber、旅系YouTuberの動画に没頭することで、少しずつ不安から解放されていった。

最初こそ、私が半ば無理やり外に連れ出していたのだが、そのうち「○○駅に行きたい」「○○に乗ってみたい」「○○チャレンジやりたい」などと、ちょこちょこと出かけるようになった。

時には、片道2、3時間かかる場所へ一人で行ったりもした。YouTuberのまねごとが楽しかったようだ。

好きなもののパワーって本当に凄いんだな!!としみじみと思った記憶がある。

何度か一緒に出かけながら、夫や私とは違う、息子ならではの旅の楽しみ方を感じ取れ、今までの家族旅行は、息子が大人のエゴに付き合ってくれていたのだと気付いた。

そこで、2泊3日すべてを息子に任せた旅をしてみようと思いついた。

私は息子が決めた場所で宿の予約をとる以外、一切の手出し口出しをしないと心に決め、息子の旅のナナメ後ろを着いていくことにしたのだ。


2、おそるべし鉄ヲタの旅



行き先は「新潟」に決定。
なにやら気になる路線があるらしかった。


1日目は18きっぷでお得に新潟駅まで行く。
約7時間の旅。

2日目は丸一日かけて18きっぷ対象外の新潟県内の鉄道を存分に乗り倒す。

新潟駅から「特急しらゆき」で直江津駅へ。直江津駅を拠点にして「えちごトキめき鉄道」2線を堪能し、「北越急行ほくほく線」を経由し十日町駅まで出る。十日町駅から上越線で新潟駅へ戻る。

そして3日目に再び新潟駅から18きっぷで帰ってくる。

ひたすらに「乗るを楽しむ旅」だ。


「こうした方がお得」「こうした方が効率が良い」「こうしたらより楽しめる」「あれのために敢えてこうする」と、本当によく練られていた。

各種切符の、買い方、買うタイミング、すべて息子が決めた。私は言われた金額を準備するだけ。もちろん予算内で。

そして、私が聞いてくるであろう質問に対する回答もすべて準備されていた。
「ちなみに、○○という方法もあるんだけど、○○という理由でこれがいいと僕は思う」といった具合だ。
ぬかりない。

何時に家や宿を出るか、何時にどこでどう乗り換えるか、すべて息子が考え調べ実行してくれた。

息子の頭の中には、旅の行程や路線図&時刻表が入っているようだったし、乗り換えアプリなども使いこなしていたが、
昭和の母は、念の為「行きの、乗り換え駅と時間」だけは紙に書き出してもらうようお願いした。


「○○ダッシュ」「スイッチバック」「トンネル駅」など鉄ヲタならではの雑学から、鉄道にまつわる歴史や政治まで、大変分かりやすい解説付きで、私は旅中「へーー!!」を連発していた。

更に「ここはお母さんの好きな絶景が見れるよ!」「Boxシートだからお昼食べられるからね」「30分くらいはお土産買う時間あるよ」などと、同行者すなわち私の好みも加味した気遣いも時折発動させていた。
優しい彼氏かよ。

息子からよく聞かされていた、あの、噂の「直江津駅」♪


3、旅にトラブルはつきもの、なのだが…


とある終点駅で「15分くらいで折り返し発車するから、このまま待ってね」と息子に言われ、ほぼ貸し切り状態の車内で待つ。
が、一向に動く気配がない。

「あ、ごめん!間違えた!!」と息子。どうやら15分ではなく、1時間と15分だったらしい。何もなさそうな駅で時間を潰す場所を探すのもまた楽しかった。

旅にトラブルはつきものだが、一番のトラブルは私だったのだ。

切符なくさないようにね!スマホ忘れないように首からかけておいたら?と普段から息子に対してつい口うるさく言ってしまっていた私。

ファミレスのトイレと、券売機の前、2回もスマホを置き忘れたのは息子ではなく私だ。
「お母さんこそスマホ首からかけといたら!?」と言われても仕方がない。
ごもっともだ。

小さなトラブルは多々あったが、それも含めて最高の旅だったのは間違いない。

えちごトキめき鉄道 妙高はねうまライン の車窓♪


4、旅を終えて


私は、18きっぷを使ったのも初めてだったが、新潟県に行くのも初めてだった。雪深い田舎のイメージだったが、全く違っていた。

もちろんほんの一部しか見てはいないのだが、山あり海ありでとても魅力的だった。
また行きたいと思っている。

息子のおかげで、私もすっかり鉄ヲタの仲間入りを果たしたような気がしている。
鉄道は本当に奥が深い。
そしてYouTubeは使い方次第だ。決して悪いものではない。

この旅で、息子は一回り成長した。

何より、数ヶ月程前には毎日泣いて苦しみ、生きるのに絶望していた息子が、旅から戻ったときに「将来働いたお金の一部を新潟の三セクに寄付しようかな〜」と言ったのだ。
それを聞いて、私は素直にとても嬉しかった。

絶望の後には希望しかない。
これは本当なんだな。

小さくていい、ささやかでいい。そんな希望で人は生きていけるのかも知れない。


今年の夏休みももう半ばに差し掛かった。

先日も東海道新幹線が止まった。家でニュースを見ながら、自分ならどうしただろう、息子ならどうしただろう、と考えていた。

災害や事故、何があるか分からない。人生もまた何があるか分からない。人生は旅だ。楽しみながら、何かトラブルに遭遇したら落ち着いて対処する他ない。

対処法(頼れる知識、物、人)は多く持っておいた方が良いのだろう。


息子の旅、これからも自分のルートで自分のペースで進んで行って欲しい。そして旅先で大切な人に出会って欲しい。

息子なら大丈夫だ。
自分の力で、息子のオリジナルな旅を楽しめるはずだ。



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