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『汝、星のごとく』読了報告

『汝、星のごとく』読了報告

凄まじい作品に出会ってしまいました。
わたしには、逆立ちしても決して書けない。
圧倒的な筆力と構成力を感じました。
最後にどうなるか気付きつつも、願いを込めながらページをめくりました。
そして、タイトル回収の仕方に震えました。
そういうことだったのか、と。

この作品、読んだ人によって受け取り方は様々だと思いますが、わたしにはトゥルーエンドに映りました。(いや、作者さまが作った世界なのでそりゃそう

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第一話

あらすじ

 通り魔事件が起きている街、薪条(まきえだ)市の高校に通う自称探偵とその助手。ある日、高校の教師から受けた相談を契機に同校の教師が一人行方不明になっていることに気付く。
通り魔を殺したと言う教師と突然に姿を消した別の教師。簡単に解決できるはずだった事件の謎は、見つからない遺体によって深まり、絡まっていく。
二人は真相に辿り着けるか。啓志(けいし)の探偵としての成長を描く長編ミステリー。

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第二話

◆◆◆◆

 タクシーは住宅街の片隅で停まり、左側のドアが開いた。啓志は二十分後にまた来てもらうように頼んでから、すでにタクシーから離れていた二人の近くに向かう。

「さて、案内していただけますか?」

 周りをキョロキョロと見回しながら、佐藤に案内を求めた啓志。うなずいた佐藤は、住宅とは逆の方向に位置している林を指差した。

「この中に、運んだわ」
「……なるほど」

 右手の人差し指を唇にあて

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第三話

「校長先生!? 救急車は呼びましたか?」「今、電話しました。すぐ来てくれると」

 机に突っ伏している校長の頭部からは血が流れており、意識はないようだ。啓志の問いかけには近くにいた青いツナギを着た事務員が答える。
 騒がしいわけではないが騒ついている空間。宮越が野次馬を見渡して言った。

「すみません、警察のものです。落ち着いて、少し離れてください」

 胸ポケットから取り出された身分証を見て、教

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第四話

 その日の夜。啓志は自室のベッドに制服を着たまま横になっていた。
 あの後向かった二社でも来校した人物の所属を確認できた。お昼の後の一服を楽しんでいるお姉様方に声をかけて聞き出してみたり、本人が戻ってくるまで会社の入り口近くで待ってみたり。一社目の反省を活かして、正攻法ではない攻め方でミッションをこなしていったようだ。
 残すは夕姫との通話でも話していた隣県の住所のみ。会社名は書いていないが、個人

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第五話

 慌てて準備をする夕姫。急いではいたが左後髪の寝癖だけはどうしても許せず、整えているうちに更に時間が経過してしまっていた。
 そこに飛び込んでくるスマホの通知音。靴下を履いているタイミングだったので、制服の右ポケットから淡いピンク色のそれを机の上に雑に取り出したが、差出人の名前を見て思わず、あっ、と声が出る。そもそも雑に取り出した上に慌てたものだから、机から滑り落ちそうになるスマホ。ディスプレイと

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第六話

 啓志たちが薪条南に帰ってきたのは、夕方六時を回った頃。途中で三島から宮越に運転手が代わっていたことを知ったのは、薪条南警察署の前で起こされた時だった。そういう細かい所で気を遣えるのが、宮越の良いところなのかもしれない。もっとも、それは二つの立場を持つ者の処世術の一つなのかもしれないが。
 ともあれ、為さぬ善より為す偽善である。正しいと思うことを続けていけば、気持ちなんて意外と後からついてくるもの

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第七話

 夕姫の報告は、概ねメールで確認した通りだったが真下が校長に詰め寄ったシーンは含まれていなかったので、啓志は楽しそうにその話を聞いていた。

「なるほど。それで高橋さん含めて出禁にされてしまった、と。気持ちはわからなくはないですが、無茶しますね」
「そうなんですよ。私も知らなかったからびっくりしたし、ヒヤヒヤしながら見てました」

 啓志に無茶をしたと言われてしまう真下。彼に言えたことではないかも

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第八話

「まぁ、それも価値観の違いだ。まぁ、こう考えているおじさんもいるんだということを頭に入れておいてくれ」

 店主は珈琲を持ってきた盆を提げて、カウンター内に戻って行った。高い志を持って公安に飛び込んだ若者にとっては、なかなか難しいことかもしれない。それでも店主の思いはそれとなく伝わったようで、先に三島が、少し遅れて藤堂が頭を深々と下げて感謝を口にした。
 店主は手を横に振りながら店の入り口には外出

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第九話

 同日。夕暮れ時。薪条南署前には校長逮捕の一報を受けたマスコミが集まっていた。会見を予定していなかった薪条南署としては早急にお引き取り願いたいところではあったが、親しみやすい警察を掲げている手前門前払いもできない。副署長が玄関でまとめて質問に答えることになった。

「逮捕は薪条南高校校長、高田 正臣(タカダ マサオミ)。六十二歳。容疑は横領と文書偽装です。二年前の九月、十月に行われた不明瞭な会計を

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第十話

『おい! 探偵!』

 啓志が考えていると、携帯から宮越の声が聞こえてきた。そういえばまだ通話状態だったと気づいた啓志は、そっと通話終了のボタンを押そうとした。

『今、切ろうとしただろ! わかるぞ! なんとなく!』

 啓志は周りを見回す。当然なのだが監視カメラはない。ここ数日のうちに啓志の行動パターンを洞察できる特殊能力でも備わったのだろうか。宮越を見ていると、人間の可能性というものを感じざる

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『探偵と助手の事件簿~街の通り魔と消えた教師』第十一話(完結)

 その後二人は無言で、薪条南署に戻った。目的を知らされていない三島は『ちょっと待っていてくれ』という宮越のメモに頷き、車に残った。

『公安です。会話が聞かれている可能性があるので、可能な限り無言でお願いします。先日捜索した松田浩司さん宅の遺留品はどちらにありますか?』

 訪れたのは、遺留品を管理している倉庫。出迎えた職員にメモを見せ、案内してもらった。段ボールを三つ持ってきた職員は、宮越のメモ

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小説【私の命はあなたの命より軽い】に見る、人間関係の難しさから、外野が苛立つことに思いを馳せる

私は子どもの頃から人間関係には割りと恵まれてきたと思っていて、当時、それは偶然の要素が多いとも思っていました。

まぁ、今でも半分はそうだと思っているのですが。

ただ、【私の命はあなたの命より軽い】を読んで、多くの我慢や許し合いの上にすべての人間関係が成り立っているということを思い知らされました。

いや、初めて知ったように書くのは正しくないですね。人間関係はそういうものだということに目を背けて

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