マガジンのカバー画像

短編小説集

84
短編小説を挙げています。
運営しているクリエイター

2020年6月の記事一覧

空虚な目をして何を思う

空虚な目をして何を思う

 何故、自分自身に満足できないのだろうか。
 ベッドの上に身体を預け、ぼんやりと考えてしまった。考えてしまったら最後、僕は設問を解くために腐っている脳みそを動かして答えを探してしまう。泥沼に嵌まったような時間だ。精神的にも追い込まれる。考えている間は設問にばかりに意識がいく。無意識で緊張する身体はこわばっていく。結果的に疲弊して、せっかくの休日が過ぎ去ってしまうことを分かっていながら、僕は答えの見

もっとみる
亡霊

亡霊

 誰もいなくなった。僕は最後の生き残りだ。
 自転車を漕いで、深夜の街を進んでいく。あの頃、当たり前に連んでいた仲間は、もういない。十年。長いような短い時間の中で、この場所から離れていった仲間の声、もう遠い過去だ。たまに集まることはあるけれど、全員集合なんてことはなかった。欠けたパズルのピースを埋めて、一つの絵を見ることはできないと思う。青春時代は自分の中で描いただけの理想の群青劇だったのかもしれ

もっとみる
忘れ物

忘れ物

 スマホで連絡を入れても反応が無くて、イライラしながら控え室を歩き回る。こういう時、歩幅は正直に感情を映し出す。普段からいなくなることは多かったが、今日は大舞台。嫌な予感が胸をよぎった。
 地図を参考にして歩き回ったことで、このフロアのことは一頻り頭に入ってしまった。どうでもいい情報が脳内を汚染し、大切なものが抜け落ちていくようだ。これで十回目の発信、相変わらず虚しい発信音が耳元に届く。しばらくし

もっとみる
仕事終わりは仮面が剥がれる。

仕事終わりは仮面が剥がれる。

 集合場所であるターミナル駅の改札は、さっきまで居たオフィス街よりも賑やかだ。ウキウキした表情を浮かべる人の割合の方が多く、カップルや集団で行動する姿が目に入る。各自の話し声が重なり、不協和音を起こしているけれど、都会と思えば全て飲み込めてしまう。不思議なもので、東京という場所には喧噪がよく似合っている。
 改札前に設置された円柱に身体を預け、スマートフォンの音量ボタンを連打する。学生時代に聞き続

もっとみる
休前日の夜に①

休前日の夜に①

 午後7時半。街は少し浮かれ調子だ。一般的に週末の仕事終わりは、明日からの休みにそれぞれの思いを馳せる。当たり前だ。会社や仕事から離脱でき、やりたいこと好きなことに全力を注げる、自分を偽らずに過ごせるのだから。たった48時間。でも勤労至上主義である日本では貴重な時間だ。この感覚は麻痺しているのか、洗脳されているのか、そんなことは分からないし、理解したくもない。ただ、一種の自由を得る時間というものは

もっとみる