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世界一の洞窟銀座~ベトナム ホンニャ・ケバン~「暗黒洞窟探検と純白おむすび」(中編)


4.世界でいちばん美しい洞窟

のどかな田園地帯をバスに揺られること2時間あまり。広がる緑の風景が徐々にジャングルへと変わっていく様子を眺めながら、冒険の始まりに胸が高鳴る。このジャングルの奥に、世界で最も美しいとされる天国洞窟(パラダイスケイブ)があるというのだから、その期待は否が応でも膨らむばかりだ。

洞窟と言えば、暗くて不気味なイメージが一般的。
その洞窟に「天国」という名をつけるなんて、ずいぶん大胆なネーミングセンスだ。もしかして、クリスマスイルミネーションのようにキラキラとライトアップされているのだろうか。
そんなことを考えると、興ざめしてしまいそうだ。

早く洞窟の中を見てみたいところだが、天国洞窟の入り口はかなり遠いらしい。バスでは登れない場所に位置しているため、一度バスを降りて電動カートに乗り換え、道を上っていくことになる。電動カートに揺られて15分、ようやく広場のような場所に到着した。しかし、ここもまだ洞窟の入口ではない。洞窟の入口はさらに奥にあり、ジャングルの中を30分ほどトレッキングしなくてはならないのだ。

ベトナムの夏は東京の夏に匹敵する暑さと湿気だ。少し歩いただけでも汗が噴き出し、持ってきたミネラルウォーターもあっという間に空になりそうだ。ミネラルウォーターが無くなっては大変なので、ちびちびと水分補給をしながら山道を登っていく。
しかし暑さにやられ、すでにヘロヘロだ。早く洞窟にたどり着きたい、その一心で歩を進める。

突然ヒューッと涼しい風が吹き抜けた。熱帯の風の中にひんやりとした空気が混ざる。もしかして、洞窟が近いのかも。

木々の隙間から、石が敷き詰められた大きな踊り場のような場所が見えた。どうやら、ここが天国洞窟の入り口のようだ。

世界遺産の天国洞窟は、すぐには入れない。
踊り場の中にある建物で、ガイドから洞窟の成り立ちや注意事項などをレクチャーされる。このレクチャーには、中に入る人数を調整する意味もあるようだ。30分ほど待たされてから、ようやく洞窟の入口に案内された。

さあ、いよいよ天国洞窟の探検だ。

大きな洞窟と聞いていたのに、入口や続く階段がかなり狭い。新宿の雑居ビルの裏手にある非常階段のようで、人がすれ違うのがやっとだ。4~5人が入口に重なるとすぐに渋滞が起きる。ここに多くの人が押し寄せるのはかなり危ない。先ほどのレクチャーの時間は、この混雑を避けるための調整だっただろう。

入り口から中に入ると、そこには真っ暗な世界が待ち受けていた。洞窟は平坦ではなく、大きな穴になっていて、それが垂直に下へと続いている。木製の階段をひたすら下っていくが、どこまで降りても底が見えない。

それもそのはずだ。この垂直の穴は、ビルで言えば地下12階相当の深さがあるらしい。帰りはその12階分を蜿蜒と登ってこなければならないが、今はそれを考えないようにしよう。ただひたすら階段を降り続けた。






5.天国洞窟はハリーポッターの世界

天国洞窟(パラダイスケイブ)の中は、その名の通り、本当にパラダイスだった。

目の前にそびえ立つ巨大な鍾乳石は、まるでハリーポッターに出てくるホグワーツ城の塔のように見える。まさに魔法の世界に入り込んだような幻想的な景色が広がっているのだ。

不思議なことに、この鍾乳石には様々な形が存在する。カーテンのように垂れ下がっているものもあれば、カボチャのシャンデリアのような形のものもある。そのどれもが数十メートルもの高さを持ち、ビルの何階分にも相当するような巨大さだ。天国の名を冠する理由は、そのスケールの大きさだけではない。鍾乳石の色もまた天国的なのだ。

石灰岩が湿って光を浴びるとキラキラと輝く。その輝きは、ただ濡れているだけではなく、鍾乳石自体が光を反射してパール色に発光しているかのようだ。鍾乳石の中に含まれる成分が光を反射し、その結果としてこの美しい輝きを放っているのだ。

「はあ」とため息が出る。目の前に広がるこの一つ一つの鍾乳石が、何十万年、何百万年という気の遠くなるような年月をかけて形成されたものだ。果てしない時間の積み重ねが生み出した圧倒的な美しさ。地球上でこれに匹敵する美しさは存在しないと言われたら、多くの人が納得してしまうだろう。

天国洞窟の全長は、わかっているだけで31km以上もある。その中で一般の観光客が立ち入れるのは、ほんの1kmだけだ。さらに、この洞窟は長いだけではなく、高さもある。最も高い天井部分では、なんと100mもの高さがあるという。

洞窟の中央部分には、巨大な空洞が広がっている。その広さは圧倒的で、空洞がどこまで続いているのか見当もつかない。後で調べてみると、この空洞は東京ドームがまるまる入ってしまうほどの大きさだという。つまり、天国洞窟の中に野球場を作ることさえ可能かもしれない。応援の声が洞窟中に響き渡る様子を想像すると、ちょっと見てみたい気もする。

鍾乳石に触れてみた。ひんやりとした感触が指先を伝わる。それは、太古の地球の息吹を感じているようだった。鍾乳石ひとつひとつに、悠久の時が刻み込まれている。
それは、地球の歴史そのものを感じさせる。この洞窟の中に佇み、宇宙の誕生から現在に至るまでの壮大な時間を想像した。

この洞窟は、単なる観光地ではなく、地球が私たちに贈った神秘の宝箱と言えるものだろう。





6.暗黒洞窟の入口はエメラルドグリーンの湖

この旅の最終目的地、それは暗闇洞窟だ。

暗闇洞窟について日本ではその存在をあまり知られていない。もちろん行く前にいろいろと調べたが、情報はほとんどなかった。わかっているのは、その名の通り光がまったく届かない暗黒の洞窟であること。そして、その奥には謎の地底湖が眠っているということだ。最近になって、この暗黒洞窟の探検ができるようになったという情報を聞きつけ、向かうことになった。

暗闇洞窟は、先ほどの天国洞窟からさらにジャングルを進んだ山奥にある。うっそうと木々が茂った山道をバスで1時間ほど登っていく。突然、前方に眩しい光が広がった。

キラキラと輝くその光はエメラルドグリーン色だった。いや、ただの光ではない。水面が反射しているのだ。
それは、エメラルドグリーン色に輝く大きな湖だった。この湖は周囲が切り立った崖に囲まれており、バスがこれ以上近づくのは無理なようだった。バスは崖の上にある、湖を見渡せる建物の前に停車した。ガイドによると、ここが暗闇洞窟の探検基地らしい。ここで降りるように指示された。

湖の美しさと清々しいレイクサイドの建物は、暗闇洞窟という名前から想像していたオドロオドロしい場所とは全く違う。ちょっと面食らってしまった。

しかし、ここからが大変だった。
まず、最初に受付で誓約書(怪我しても責任取らないよ的な)にサインをさせられ、現地スタッフから洞窟までの道のりの説明を受けた。
ここはベトナムだ。日本と安全の基準が違うかもしれない。どんな危険があるかもしれない。緩んだ気持ちが一気に引き締まってきた。

現地スタッフの説明によると、ここから暗闇洞窟まではかなり離れていて、そこに行くためには様々な試練を乗り越えないといけないらしい。

また、探検には厳しい制約があるとのこと。
それは洞窟探検の格好だ。
暗闇洞窟に行くための格好は水着しか許されていないらしい。しかも男性は海パン、女性はビキニのみだ。ラッシュガードを着ることやワンピース型の水着を着ることは許されていない。今の時代、ここまで服装の制限があることも珍しい。
しかも持ち物は一切持っていってはならない。唯一認められているのは、メガネだけ。しかもチェーンをつけて固定をすることになっていて、途中で紛失しても責任は負わないらしい。それ以外は、服や靴はおろか、スマホやカメラ、タオルやペットボトルなども持っていくことができない。その理由については後ほどわかるのだけど…この時は疑問しか感じなかった。

でもしょうがない。先に進むにはそのルールを守るしかないのだ。
えいや!自分も海パン一丁、裸足という姿になった。
恥ずかしさを通り越して「もうなんにでもなれ!」的な気持ちにもなってくる。

海パン姿になった自分にライフジャケットとヘルメット、そしてハーネスが1セット支給された。それらを装着すると先ほどの市民プールにいるような恰好から、ちょっとした冒険に行くような雰囲気になってきた。気持ちもだんだん高まってくる。気分はすっかり川口浩探検隊。猿人バーゴンでも双頭のヘビでもなんでもござれなのだ。






7.滑空せよ。水泳せよ。

崖の上から見下ろすエメラルドグリーンの湖は、まるで宝箱の中に閉じ込められた宝石のようだった。しかし、その美しさの裏には、底知れない深さと未知なる恐怖が潜んでいた。

いよいよ、出発の時間がやってきた。待合室から一人ひとり順番に呼ばれ、崖の上にある出発台へと進む。心臓の鼓動が速くなり、胸の高鳴りを感じながら足を進めた。

「ギャアアア!」
湖のほうから次々と悲鳴が聞こえてくる。なんで洞窟に入るのにこんな悲鳴が必要なんだ。お化け屋敷でもあるまいし。疑問に思いながら出発台の階段を上ると、その理由が明らかになった。この崖の上からジップラインで湖を一気に渡るらしいのだ。

出発台の上に立つと、ハーネスでロープに繋がれた。それにしても高い。エメラルドグリーンの水面までおそらく50メートルはあるだろう。体が小刻みに震え始める。目の前に広がる光景に、足元がすくむ。

「スリー、ツー…」
いきなりカウントダウンが始まった。待て待て、まだ気持ちの整理がついていない!

「ワン、GO!」
そんなことはおかまいなしに、一気に空中へと放たれた。

ウフョオオオオ。
ものすごい風圧と加速。崖の上からエメラルドグリーン色の湖に向かって、一気に飛んでいく。浮遊しているというよりも、下に落ちていく感じだ。そして、距離が長い。湖を横断するのではなく、細長い湖を縦断しているようだ。

やがて水面に設けられた大きな浮きのようなものが見えてきた。あそこが終点だろう。足をくの字にしないとケガをするとレクチャーを受けたことを思い出した。獲れたての車海老のごとく、必死に足をくの字にする。

ガタガタン。全身で転がるように着地をする。ようやく対岸に着いたようだ。ふう、まずは一安心だ。

「ジャンプ!ジャンプ!」
現地スタッフが大きな声で叫んでいる。湖に飛び込めということらしい。早く飛び込まないと、次のジップラインが突っ込んでくるらしい。

バシャン。冷たい湖水に飛び込んだ。
前方には多くの人が列を作るように泳いでいる。そう、ここから洞窟の入口まで泳がなければならないのだ。ライフジャケットに守られているので沈むことはないだろう。エメラルドグリーン色の湖は濁っていて、透明度がほとんどない。深さもわからず、ワニや大きな魚が潜んでいても見えない。いつどこから何が出てくるかわからない。深淵への恐怖感は拭えなかった。
一刻も早く抜け出したくて、必死に手足をバタバタさせて前へ向かった。必死に対岸を目指していった。

10分ほどかけて、ようやく桟橋に到着する。なんとか泳ぎ切ったが、体力は限界に近い。先に到着した人たちもぐったりしている。
しかし、ここで疲れている場合ではない。この桟橋の向こうにある横穴が暗闇洞窟の入口だ。そう、ここからが本当の冒険の始まりだった。




👉前編


👉中編


👉後編



※こちらの旅行記は、「1000日間で1000のおむすびを食す男」の中で、2019年8月~9月に書いた記事を元に、追記編集、再構成して書き上げたものになります。


※毎日、おむすびの食リポをしていますので、よろしければ読んでみてくださいね。↓




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ファンベースデザイナー、地域創生プロデューサーなどしてます。 おむすびnoteを毎日書いてたり、浦和レッズを応援したり… みんなが、好きなこと、応援したいことを素直に言える世の中にしたいなあ。 皆さんと、いろいろなコラボをしたいです! ぜひぜひご連絡ください!