潮田クロ

ポンコツ小説、他に文芸書や昭和歌謡の感想文などを書いてます。投稿にはフォトギャラリーを…

潮田クロ

ポンコツ小説、他に文芸書や昭和歌謡の感想文などを書いてます。投稿にはフォトギャラリーを使わせて頂いてます。クリエーターの皆さま、いつも有難うございます。 趣味で書いてますので、厳しいご批評はご容赦ください。オヤジをいじめないでください。仲良く、楽しくがモットーです。

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    「神木町」シリーズ。 一話完結方式。どこからでも読めます。

記事一覧

サンドイッチとウィンナー 3

 日曜日、後ろ髪を引かれる思いで、私は図書館に行く。お弁当作りはずっと続いている。行って関口君と勉強して、お喋りして、それで一日が終わる。帰ってお母さんと昇だけ…

潮田クロ
2日前
20

サンドイッチとウィンナー 2

 惜しい試合を落としてもっとガッカリするかと思ったのに、頼子はいたって元気だった。みんなが慰めても「なんのなんの。高校行って国体出るから」なんて叫んでる。相変わ…

潮田クロ
2日前
23

サンドイッチとウィンナー 1

 あらすじ  私立中高一貫の女子校に通う知子は、自分の居場所を見つけるために、都立高校の受験を決意する。図書館で同じ受験生の関口と出会い、二人は共に勉強する仲と…

潮田クロ
2日前
24

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅲ

 翌朝は、早めに京都に立った。昼前には京都について、駅ビルで腹ごしらえした後、東寺を尋ねる。警察手帳の効果は絶大で、すぐに寺務所に通され、事務方の人と、年輩のお…

潮田クロ
6日前
24

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅱ

家に帰ると、ドアの前に、昨日の婦人警官が立っていた。警察が何の用だ。僕は勝手に行動する。そう言ったはずだ。無視して玄関のドアノブに手をかけると、婦人警官が突然歌…

潮田クロ
6日前
20

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅰ

あらすじ 伊勢神宮に参詣に行ったはずの妻と娘と義母が失踪した。三人は密かに憑神教という新興宗教に入信していた。夫の大石司は単身その本拠地に乗り込む決意をする。同…

潮田クロ
6日前
23

小説精読 少年の日の思い出10(最終回)

ラストに来ました。言いたかったことたくさんありすぎて、言えないことも多かったけど、とりあえず今回て終わりです。 謝罪を受け入れてもらえなかったぼくは、夜中、一人…

潮田クロ
7日前
24

小説精読 少年の日の思い出9

さて、母親の登場です。 不思議なことに、このお話、父親が出てきません。大人の男性は、冒頭のハイソ二人組だけです。この二人が、このお話の父親像なのか、まぁ、よくわ…

潮田クロ
9日前
28

小説精読 少年の日の思い出8

 ああ、筋追いしてませんでした。簡単にやっつけましょう。といっても、皆さん、もう読んでる物語ですが。 ぼくはエーミールがクジャクヤママユを蛹からかえしたことを知…

潮田クロ
10日前
21

小説精読 少年の日の思い出7

 ぼくは欲望に負けて、エーミールのクジャクヤママユを盗む。 この「盗み」という問題について。 「盗み」とは、他人の所有物を、断りもなく、秘密裡に奪うこと。勝手に…

潮田クロ
10日前
23

小説精読 少年の日の思い出6

 エーミールはコムラサキという蝶に20ペニヒという値段をつけるわけだが、ぼくもエーミールの蝶に値段をつけている。エーミールがクジャクヤママユを蛹からかえしたという…

潮田クロ
12日前
23

小説精読 少年の日の思い出5

ぼくがコムラサキを見せると、エーミールは20ペニヒの値打ちがあると言う。エーミールは、自分の価値観を持っていない。金の価値とは社会的な価値だ。自分以外の、その他大…

潮田クロ
13日前
22

小説精読 少年の日の思い出4

主人公のぼくは、貧相な装備しか与えてもらえない。だから、それを引け目に感じて、自分の蝶の収集を他人に見せなくなる。自分の世界に閉じこもり、自閉する。 ここで、2…

潮田クロ
2週間前
22

小説精読 少年の日の思い出3

 客は自分が十歳の頃の話を始めます。客の一人称は「ぼく」です。ぼくは蝶集めに夢中です。  子供の頃のある時期、何かに夢中になるのはよくあることです。仮面ライダー…

潮田クロ
2週間前
22

小説精読 少年の日の思い出2

さて、続きですが、このお作、日本でしか読めないって知ってました? なんでも本家ドイツには、原本がないそうなんですね。どういう事情かわかりませんが。まぁ、そんなこ…

潮田クロ
2週間前
24

小説精読 少年の日の思い出1

言わずと知れた、青春の巨匠ヘッセのお作でございます。まずは、冒頭の場面、これ必要のか問題から進めましょうか。 別にこの冒頭部分がなくても、物語としては成立します…

潮田クロ
2週間前
30
サンドイッチとウィンナー 3

サンドイッチとウィンナー 3

 日曜日、後ろ髪を引かれる思いで、私は図書館に行く。お弁当作りはずっと続いている。行って関口君と勉強して、お喋りして、それで一日が終わる。帰ってお母さんと昇だけだと家の空気が重かった。日曜日もお父さんは仕事に出ることがある。なるべく家にいてほしい。そう思っても言えなかった。お母さんも言えないようだった。
 今日の日曜日はお父さんがいた。救われるような気持ちで私は家を出た。午前中関口君と勉強して、お

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サンドイッチとウィンナー 2

サンドイッチとウィンナー 2

 惜しい試合を落としてもっとガッカリするかと思ったのに、頼子はいたって元気だった。みんなが慰めても「なんのなんの。高校行って国体出るから」なんて叫んでる。相変わらず素振りと腕立ては欠かさないようだ。受験のことはまだ頼子には黙っていた。自分の心は決まったが、夏休みが終わって胸を張って勉強したぞと言えるまで、秘密にしておくことにした。
「うちは中高一貫だが、高校入学はひとつのけじめとして考えてほしい。

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サンドイッチとウィンナー 1

サンドイッチとウィンナー 1

 あらすじ

 私立中高一貫の女子校に通う知子は、自分の居場所を見つけるために、都立高校の受験を決意する。図書館で同じ受験生の関口と出会い、二人は共に勉強する仲となる。国語の苦手な知子に、関口は「トロッコ」を勧める。同じ頃、弟の昇の虐めが発覚する。昇もまた自分の居場所を見つけられないでいた。親友頼子の助力で昇は徐々に立ち直る。一方、家族の内情を知られた関口は、知子の前から姿を消す。自分を鼓舞し勉強

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捜査員青柳美香の黒歴史Ⅲ

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅲ

 翌朝は、早めに京都に立った。昼前には京都について、駅ビルで腹ごしらえした後、東寺を尋ねる。警察手帳の効果は絶大で、すぐに寺務所に通され、事務方の人と、年輩のお坊さまとで対応してくれた。
 ひと通り話してみても、あまりよい反応はなかった。随分昔の話ではあるし、しかし、捨て子があったことが事実なら、覚えている者もいるはずだ。山田昇が見せた和歌も見てもらった。お坊さまは、すこし拝借してもよろしいか、と

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捜査員青柳美香の黒歴史Ⅱ

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅱ

家に帰ると、ドアの前に、昨日の婦人警官が立っていた。警察が何の用だ。僕は勝手に行動する。そう言ったはずだ。無視して玄関のドアノブに手をかけると、婦人警官が突然歌い出した。正直ギョッとした。

 お月さまいくつ
 十三ななつ
 まだ年や若いな
 あの子を産んで
 この子を産んで
 だアれに抱かしょ
 お万に抱かしょ
 お万はどこ往た
 油買いに茶買いに
 油屋の縁で
 氷が張って
 油一升こぼした

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捜査員青柳美香の黒歴史Ⅰ

捜査員青柳美香の黒歴史Ⅰ

あらすじ

伊勢神宮に参詣に行ったはずの妻と娘と義母が失踪した。三人は密かに憑神教という新興宗教に入信していた。夫の大石司は単身その本拠地に乗り込む決意をする。同じ頃、自宅に差出人不明の手紙が届く。中には読解不能の和歌が一首。思案していると、警察官青柳美香が現れ、同行を申し出る。二人は憑神教の本拠地和歌山を目指す。憑神教の教義とは。三人が憑神教に入信した理由は。憑神教二代目代表を名乗る山田昇とはい

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小説精読 少年の日の思い出10(最終回)

小説精読 少年の日の思い出10(最終回)

ラストに来ました。言いたかったことたくさんありすぎて、言えないことも多かったけど、とりあえず今回て終わりです。

謝罪を受け入れてもらえなかったぼくは、夜中、一人で起きて、自分の蝶の収集を全て粉々に潰してしまう。一度起きてしまったことは取り返しのつかないものだと知り、自分で自分を罰するんです。んん。なんというか、こうしてぼくは少年時代と決別するんです。苦いですな。

子供時代は誰もが天才でしょう。

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小説精読 少年の日の思い出9

小説精読 少年の日の思い出9

さて、母親の登場です。

不思議なことに、このお話、父親が出てきません。大人の男性は、冒頭のハイソ二人組だけです。この二人が、このお話の父親像なのか、まぁ、よくわかりませんけど、物語の時間軸の中には、ぼくの母親しかいない。

母は、ぼくの話をすっかり聞いて、毅然と言いますね。エーミールのところへ謝りに行け、と。今日中でなければならない、と。自分の息子が間違いをしでかした。12歳であっても、自分のケ

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小説精読 少年の日の思い出8

小説精読 少年の日の思い出8

 ああ、筋追いしてませんでした。簡単にやっつけましょう。といっても、皆さん、もう読んでる物語ですが。

ぼくはエーミールがクジャクヤママユを蛹からかえしたことを知ります。矢も盾もたまらず、ぼくはエーミールの部屋へ行く。部屋には入れますが、エーミールは不在。ぼくはここで、エーミール不在の中、クジャクヤママユを見てしまう。そして欲望に負け、盗んでしまう。階段から降りる途中、女中とすれ違い、咄嗟に、ぼく

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小説精読 少年の日の思い出7

小説精読 少年の日の思い出7

 ぼくは欲望に負けて、エーミールのクジャクヤママユを盗む。

この「盗み」という問題について。

「盗み」とは、他人の所有物を、断りもなく、秘密裡に奪うこと。勝手に自分の所有物にしてしまうこと。
法ができるずっと以前から、殺人と同じく、犯してはならない社会的なルールである。

では「所有」とは何か。いつでも、気の向くままに、どうとでもできること。ずっと秘密にして誰にも見せない。好きな時に眺める。壊

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小説精読 少年の日の思い出6

小説精読 少年の日の思い出6

 エーミールはコムラサキという蝶に20ペニヒという値段をつけるわけだが、ぼくもエーミールの蝶に値段をつけている。エーミールがクジャクヤママユを蛹からかえしたという話が、今、ぼくの友人が100万マルクの遺産を受け取ったと聞くよりも衝撃的だった、と言う。「今」とはいつか。無論、社会的成功を成し遂げ、友人の別荘でくつろぎ、思い出話を披露している「今」だ。大人になった僕は、その衝撃の度合いを金で表現する。

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小説精読 少年の日の思い出5

小説精読 少年の日の思い出5

ぼくがコムラサキを見せると、エーミールは20ペニヒの値打ちがあると言う。エーミールは、自分の価値観を持っていない。金の価値とは社会的な価値だ。自分以外の、その他大勢の欲望の価値だ。誰も道端の石ころに価値を求めない。このコムラサキは20ペニヒ出しても欲しいという人間が社会にいるということをエーミールは言っている。同時に、コムラサキを20ペニヒ以上出して欲しい人間は、いないとエーミールは言っている。2

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小説精読 少年の日の思い出4

小説精読 少年の日の思い出4

主人公のぼくは、貧相な装備しか与えてもらえない。だから、それを引け目に感じて、自分の蝶の収集を他人に見せなくなる。自分の世界に閉じこもり、自閉する。

ここで、2年後にエーミールと紹介される教師の息子が登場する。彼は非の打ち所がない子供として描かれる。その完璧さゆえ、ぼくは彼のことを賞賛しながら憎むようになる。無論のこと、彼も蝶の収集をしていた。

ある日、ぼくは珍しいコムラサキを捉える。得意にな

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小説精読 少年の日の思い出3

小説精読 少年の日の思い出3

 客は自分が十歳の頃の話を始めます。客の一人称は「ぼく」です。ぼくは蝶集めに夢中です。

 子供の頃のある時期、何かに夢中になるのはよくあることです。仮面ライダーカード。ビッグリマンシール。筋肉マン消しゴム。遊戯王やらポケモンやら、なんだかんだ、今でもあります。その昔は昆虫採取なんですね。そうそう切手集めなんてのもありました。私が小学生の頃は、切手の一大ブームで、みんな集めてましたな。なんかそれ用

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小説精読 少年の日の思い出2

小説精読 少年の日の思い出2

さて、続きですが、このお作、日本でしか読めないって知ってました? なんでも本家ドイツには、原本がないそうなんですね。どういう事情かわかりませんが。まぁ、そんなこといいんで、続けます。冒頭問題。話かわりますが、皆さん、映画は好きですか。やっとコロナも収束に向かいつつあり、映画に行く人も増えつつありますね。映画、いいですよねぇ。2時間、映画のストーリーに酔いしれて、至福の時間を過ごす。テレビドラマとは

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小説精読 少年の日の思い出1

小説精読 少年の日の思い出1

言わずと知れた、青春の巨匠ヘッセのお作でございます。まずは、冒頭の場面、これ必要のか問題から進めましょうか。
別にこの冒頭部分がなくても、物語としては成立します。冒頭が作中の現在で、この後客の少年時代の回想に入るが、回想に行きっぱなしで、現在には戻ってこない。で、この場面いるのか。いるんです。激しくいるんですな、これが。
このお話、客が夕方の散歩から帰って、私の書斎で雑談するところから始まります。

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