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小説精読

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小説精読 少年の日の思い出10(最終回)

小説精読 少年の日の思い出10(最終回)

ラストに来ました。言いたかったことたくさんありすぎて、言えないことも多かったけど、とりあえず今回て終わりです。

謝罪を受け入れてもらえなかったぼくは、夜中、一人で起きて、自分の蝶の収集を全て粉々に潰してしまう。一度起きてしまったことは取り返しのつかないものだと知り、自分で自分を罰するんです。んん。なんというか、こうしてぼくは少年時代と決別するんです。苦いですな。

子供時代は誰もが天才でしょう。

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小説精読 少年の日の思い出9

小説精読 少年の日の思い出9

さて、母親の登場です。

不思議なことに、このお話、父親が出てきません。大人の男性は、冒頭のハイソ二人組だけです。この二人が、このお話の父親像なのか、まぁ、よくわかりませんけど、物語の時間軸の中には、ぼくの母親しかいない。

母は、ぼくの話をすっかり聞いて、毅然と言いますね。エーミールのところへ謝りに行け、と。今日中でなければならない、と。自分の息子が間違いをしでかした。12歳であっても、自分のケ

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小説精読 少年の日の思い出8

小説精読 少年の日の思い出8

 ああ、筋追いしてませんでした。簡単にやっつけましょう。といっても、皆さん、もう読んでる物語ですが。

ぼくはエーミールがクジャクヤママユを蛹からかえしたことを知ります。矢も盾もたまらず、ぼくはエーミールの部屋へ行く。部屋には入れますが、エーミールは不在。ぼくはここで、エーミール不在の中、クジャクヤママユを見てしまう。そして欲望に負け、盗んでしまう。階段から降りる途中、女中とすれ違い、咄嗟に、ぼく

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小説精読 少年の日の思い出7

小説精読 少年の日の思い出7

 ぼくは欲望に負けて、エーミールのクジャクヤママユを盗む。

この「盗み」という問題について。

「盗み」とは、他人の所有物を、断りもなく、秘密裡に奪うこと。勝手に自分の所有物にしてしまうこと。
法ができるずっと以前から、殺人と同じく、犯してはならない社会的なルールである。

では「所有」とは何か。いつでも、気の向くままに、どうとでもできること。ずっと秘密にして誰にも見せない。好きな時に眺める。壊

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小説精読 少年の日の思い出6

小説精読 少年の日の思い出6

 エーミールはコムラサキという蝶に20ペニヒという値段をつけるわけだが、ぼくもエーミールの蝶に値段をつけている。エーミールがクジャクヤママユを蛹からかえしたという話が、今、ぼくの友人が100万マルクの遺産を受け取ったと聞くよりも衝撃的だった、と言う。「今」とはいつか。無論、社会的成功を成し遂げ、友人の別荘でくつろぎ、思い出話を披露している「今」だ。大人になった僕は、その衝撃の度合いを金で表現する。

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小説精読 少年の日の思い出5

小説精読 少年の日の思い出5

ぼくがコムラサキを見せると、エーミールは20ペニヒの値打ちがあると言う。エーミールは、自分の価値観を持っていない。金の価値とは社会的な価値だ。自分以外の、その他大勢の欲望の価値だ。誰も道端の石ころに価値を求めない。このコムラサキは20ペニヒ出しても欲しいという人間が社会にいるということをエーミールは言っている。同時に、コムラサキを20ペニヒ以上出して欲しい人間は、いないとエーミールは言っている。2

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小説精読 少年の日の思い出4

小説精読 少年の日の思い出4

主人公のぼくは、貧相な装備しか与えてもらえない。だから、それを引け目に感じて、自分の蝶の収集を他人に見せなくなる。自分の世界に閉じこもり、自閉する。

ここで、2年後にエーミールと紹介される教師の息子が登場する。彼は非の打ち所がない子供として描かれる。その完璧さゆえ、ぼくは彼のことを賞賛しながら憎むようになる。無論のこと、彼も蝶の収集をしていた。

ある日、ぼくは珍しいコムラサキを捉える。得意にな

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小説精読 少年の日の思い出3

小説精読 少年の日の思い出3

 客は自分が十歳の頃の話を始めます。客の一人称は「ぼく」です。ぼくは蝶集めに夢中です。

 子供の頃のある時期、何かに夢中になるのはよくあることです。仮面ライダーカード。ビッグリマンシール。筋肉マン消しゴム。遊戯王やらポケモンやら、なんだかんだ、今でもあります。その昔は昆虫採取なんですね。そうそう切手集めなんてのもありました。私が小学生の頃は、切手の一大ブームで、みんな集めてましたな。なんかそれ用

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小説精読 少年の日の思い出2

小説精読 少年の日の思い出2

さて、続きですが、このお作、日本でしか読めないって知ってました? なんでも本家ドイツには、原本がないそうなんですね。どういう事情かわかりませんが。まぁ、そんなこといいんで、続けます。冒頭問題。話かわりますが、皆さん、映画は好きですか。やっとコロナも収束に向かいつつあり、映画に行く人も増えつつありますね。映画、いいですよねぇ。2時間、映画のストーリーに酔いしれて、至福の時間を過ごす。テレビドラマとは

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小説精読 少年の日の思い出1

小説精読 少年の日の思い出1

言わずと知れた、青春の巨匠ヘッセのお作でございます。まずは、冒頭の場面、これ必要のか問題から進めましょうか。
別にこの冒頭部分がなくても、物語としては成立します。冒頭が作中の現在で、この後客の少年時代の回想に入るが、回想に行きっぱなしで、現在には戻ってこない。で、この場面いるのか。いるんです。激しくいるんですな、これが。
このお話、客が夕方の散歩から帰って、私の書斎で雑談するところから始まります。

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アイスネルワイゼン三木三奈12(最終回)

アイスネルワイゼン三木三奈12(最終回)

第12場面 マクドナルド

琴音は路面電車の駅に行く。そこでベンチを譲られる妊婦を見る。妊婦の晴れやかな笑顔を見て、琴音は駅を離れる。皆んなから大切に扱われる妊婦と元彼にも母にも邪険にされる妊婦。いたたまれなくなった琴音は、駅を離れマクドナルドを見つける。

 今、喫茶店でモーニングを食べたのに、琴音はビックマックを頼む。それは、高校時代のあの思い出故だろう。小林と加藤と三人でマックに行った。加藤

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アイスネルワイゼン三木三奈11

アイスネルワイゼン三木三奈11

第11場面 T駅の喫茶店

T駅に着くと、琴音は洗面所に入って化粧を整え、ポーチを置いて出る。ポーチを置いて? なぜ? 
もしかしたら、何かきっかけが欲しかったのかも知れない。過去の自分と決別するおまじないだったのかも知れない。そこまで行かなくても、気分を切り替える。切り替えて、彼氏と連絡をとって、新しい始まりを始めたい。
そんな気分だったのかもしれない。
彼氏の名前は原田らしい。琴音は、殊更に明

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アイスネルワイゼン三木三奈10

アイスネルワイゼン三木三奈10

第10場面 深夜バス

琴音は駅に着くと、ドラッグストアで妊娠検査薬を買って、捨てて、バスに乗り込んで、座席が違うと追い立てられて、母親に電話する。
 誕生日プレゼントにカシミヤのマフラーを送ったと言うと、もう買ったと言われる。家賃のことをまた言われる。自分は今の仕事を辞めて事務員になると言う。加藤ができるなら自分もできる、と言う。母親に嗜められたらしく、琴音は激昂して、お母さんは私に何もくれなか

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アイスネルワイゼン三木三奈9

アイスネルワイゼン三木三奈9

第9場面 駅のロータリー

家を出る時、琴音は優に小学校時代の鬼ごっこの話をする。優は「今だって走れる」と励ます。
駅に向かう車の中で、音楽の話になる。普段は音楽を聞かないという琴音に、「ディズニーの曲は元気がでて明るくなる」と勧める。
家族ができたら、一緒にディズニーランドに行こうと誘う。
優は琴音を勇気づけようとする。走ろうと思えば走れる。明るい未来だって描ける。それを伝えようとする。
ロータ

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