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海外動向から探る、電子レシート普及の可能性

DXやサステナビリティの観点から、レシートのペーパーレス化を実現する「電子レシート」に注目が集まっています。

国内では経済産業省が「IoT等を活用したサプライチェーンのスマート化」の取り組みの一つとして、電子レシートの活用について積極的に推進し、仕様の標準化や実証実験が進んでいます。

今回は、電子レシートが浸透した社会をよりイメージするために、日本よりも電子レシートの普及が進んでいるアメリカの動向を見てみましょう。

環境団体をはじめ、電子レシート推進に積極的なアメリカ

アメリカではAppleがいち早く電子レシートに着手し、顧客にメールで電子レシートを発行する仕組みが定着しています。日本でもAppleユーザーであれば電子レシートを受け取ることに馴染んでいる人も多いかもしれません。

アメリカを代表する環境団体Green Americaは2017年以来、「Skip the Slip」という大々的なキャンペーンを通じて、大手企業に紙のレシート使用を減らし、デジタル化やリサイクル可能な紙の採用などを推進しています。同団体の2018年のレポートによると、従来の紙のレシートから脱却したリーダーとしてAppleやBest Buy、Lidl Groceryなどを挙げ、逆に遅れを取っている企業としてWalmartやTargetを名指しするなど、積極的な姿勢を見せています。

2019年にGreen Americaがアメリカの一般消費者1,011人に実施した調査では、調査対象者10人のうち約9人(89%)が電子レシートのオプションを望み、特に25〜34歳の42%、35〜44歳の55%がすでに電子レシートを使用しているようです。すでに一定の消費者ニーズがあるだけでなく、今後ミレニアル世代〜Z世代を中心にニーズが高まる可能性も十分に考えられます。

そのような状況の中、大手ドラッグストア・コンビニチェーンのCVS/pharmacyはフェノール系化合物を含まない、環境にやさしいリサイクル可能な紙(フェノールフリー)を導入し、さらにデジタルレシートを選択できるようにしました。同社のCSR Report 2019では、この取り組みを通じて紙のレシート使用を20%削減し、4,800万ヤードものレシート用紙を節約できたと報告されています。これは地球一周分を超える長さですから、大企業とはいえ1企業の取り組みでこれだけの効果を生み出せることは、企業にとっても社会にとっても大きなインパクトがあると考えられます。なお、CVSは2020年に約10,000店舗でフェノールフリー紙への切り替えデジタルレシートプログラムの強化を発表しています。

ちなみにGreen Americaから対応遅れを指摘されたTargetも2021年のCorporate Responsibility Reportにて、フェノールフリーのレシートペーパーに移行することを発表しています。

アメリカでは小売企業の電子レシート化を支援する企業も出てきています。例えば、電子レシートソリューションを提供するTransactionTreeと決済システムベンダーのHypercomは2010年の段階で、Hypercom社の決済端末を使用する事業者に紙のレシートを電子メールのレシートに移行する機能を提供開始し、コスト削減と環境負荷低減に貢献してきました。TransactionTreeはその後も2020年に小売向けのeコマースプラットフォームやPOSシステムなどを展開するflooidとパートナーシップを結ぶなど、電子レシートの普及を積極的に推進しています。

電子レシート関連のスタートアップが続々と登場

ここで電子レシートに関するスタートアップの動きを見てみましょう。

小売業のマーケティング支援などを行うアメリカのflexEngageは、パーソナライズ可能な電子レシートソリューションを提供。レシート上にクリックできるプロモーションやキャンペーン情報を掲載するほか、商品レビューやフィードバック、SNSシェア等の促進、関連商品のレコメンドなどを実現し、もちろん全てのトラフィックは保存されます。

このように、デジタル媒体の特性を生かすことで、レシートを単なる領収書としてだけでなく、ユーザー体験の向上やマーケティングにも役立てることができるのです。businesswireの情報によると、flexEngageの電子レシートソリューションは世界的なアパレル小売業者のSNIPESなどが活用し、SNIPESでは店舗からオンラインへのROIリターンが4倍、平均注文額が45%増加したと報じられています。さらに同社は大手家具POSプロバイダーのSTORISとパートナーシップを結んだことで、STORISの顧客である450を超える小売業者がサービスを活用できるようになりました。

さらに2022年1月12日、米国最大のスーパーマーケット協同組合であるWakefern Food Corpに同社の電子レシートソリューションが採用されたことを発表しています。

アメリカ以外の動向についてもいくつか紹介します。

アプリを通じたレシートの電子化とマーケティング活用を展開しているのは、2015年創業のインドのBilleasy。同社のサービスを導入することで顧客は携帯電話から直接電子レシートを入手でき、アプリを持っていない顧客でもSMSリンクを介して電子レシートを受け取ることができます。アプリ上で経費を一括管理できる機能や、店舗から限定オファーが届くロイヤルティプログラムなど、ユーザー利便性の高さが特徴と言えるでしょう。

スウェーデンのextendaretailは、小売向けにクラウドプラットフォームや倉庫管理システムバックオフィスソリューションなどを提供する企業。POSソフトウェアの機能の一つとして、サードパーティベンダーの電子レシート機能を簡単に実装できるようにしています。同社は2018年にVisma Groupと合併する形でSTG Partnersに買収されるなど、市場で着実に存在感を高めています。

2020年に創業したばかりのアイルランドのGreen Tillは、電子レシートを一括管理できる消費者向けアプリを基本無料で提供。小売業者には通常のレシートデータをQRコードに変換するデバイスを提供し、顧客はスマートフォンでQRコードをスキャンするか、NFCにタップすることでレシートを電子で受け取ることができるのです。

さらに、アプリにレシートをアップロードするたびに買い物に使えるGreen Coinがもらえたり、お店から限定オファーや割引クーポンをもらえたりと、利用を促進するための機能も充実。返品交換のリマインダー機能など、紙のレシートにはない顧客体験の向上にも寄与しています。

アメリカでは本格的な普及に向けた課題も

このように、電子レシートは環境負荷への低減だけでなく、マーケティングの高度化によるサービス品質・利便性の向上などの効果が期待されています。一方でプライバシー保護の観点からの懸念点や、電子レシートを送信するために必要な電力がCO2排出量を増やすという主張もあります。

かねてからプラスチックストローの廃止など環境負荷の低減に注力してきたカリフォルニア州でも2019年、紙のレシートを2022年までに廃止する法案「AB161」が提案されましたが、米国森林・製紙協会の反対を受けるなどして、審議未了のまま廃案となりました。Los Angeles Timesの報道によると、この法案は消費者からの要求がない限り紙のレシート提供を禁止することや、違反回数に応じて罰金が課されることなどを要求していましたが、プライバシーに関する懸念が引き起こされ、最終的には取り下げられたようです。

Los Angeles Timesは消費者が紙のレシートに対する不満をSNSに投稿していることにも言及しており、やはり消費者の電子レシートに対するニーズは一定あるように思えます。とはいえ、本格的な普及に向けては、電子レシート化のメリットやリスクについて慎重に検証や対策を行いながら進めていく必要があるのかもしれません。


なお、東芝テックでも電子レシートシステム「スマートレシート®︎」を提供し、全国の店舗で導入いただいております。キャンペーン応募やクーポンの他、所得控除に使えるセルフメディケーション税制への対応など便利な機能を拡充しています。

東芝テックCVCとしても、電子レシートの普及に向けて一緒に取り組んでいただける仲間を探していきたいと思いますので、興味のある方はぜひお気軽にお声がけください。



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