共同配送の狙いと実態、成果とは?
2020年から22年にかけて、コンビニ大手3チェーンの共同配送の実証実験が進められているようです。企業の垣根を超えたプロジェクトの背景には、どのような狙いがあるのでしょうか?
今回はその共同配送の取り組みについて「月刊コンビニ」編集部さんにレポート頂きました。
コンビニ大手3チェーンが物流共同化の実証実験に着手
「競争すべきは商品とサービス、協調すべきは物流」。
ドライバー不足やそれに伴うコスト高の解消、SDGs推進による環境への配慮など、物流に関して協調して解決していく機運が高まっています。
セブン-イレブン(セブン)、ファミリーマート(ファミマ)、ローソンの3チェーンは、物流における社会課題解決に向けて共同配送の実証実験を行っています。
その第1弾が、2020年8月の東京都内湾岸エリアで実施された、各チェーン店舗への共同配送、第2弾が、今回紹介する22年2月の北海道における、センター間の共同配送と店舗への共同配送です。ここでは第2弾の北海道の実証実験を中心に紹介します。
人口減少と高齢化が進む中、地方では買物困難者が増加、一方で数多くのコンビニが、スーパーマーケットが撤退した過疎地などで社会インフラとして機能しています。
ところが、そのコンビニ自体も店舗が維持・継続できずに、営業が困難になっているケースが増えています。それを解決するために、客数アップが厳しければ、物流を含めた全体コストの削減に着手し、店舗の維持・継続を考えていくべきでしょう。
そこで始まったのが大手コンビニチェーンによる共同物流です。差別化すべきは商品とサービスであり、物流は協調してコストを下げることにより、地域社会に必要とされる店舗に商品の供給を続けていくのです。
そもそも、この実証実験は、経済産業省の連携のもと、内閣府が実施する戦略的イノベーション創造プログラムの課題「スマート物流サービス」の一環として行われています。全体の運用については、研究代表機関である公益財団法人流通経済研究所が担当しています。
実証実験の内容を説明します。本年2月21日からの1 週間、セブン、ファミマ、ローソンが北海道の札幌と函館エリアで実施しています。その中身は、第一に、コンビニの配送センター間の物流の効率化と、第二に、遠隔地店舗(買物困難地域)への配送の共同化の二つになります(図表①)。
第一の配送センター間の物流について、実証実験は次のようなフレームになります。
コンビニの物流では、多くの在庫を持つ基幹センターと遠隔地にあるサテライトセンター間で、商品の横持ち配送が行われているところがあります。実証実験では、自社のセンター間でしか実施してこなかった横持ち配送を、別々のチェーンを横断する形で実現しています。
セブン、ファミマ、ローソンの3チェーンの基幹物流センターが札幌市近郊にあり、函館市にはサテライトセンターがあります。実証実験では、セブンとファミマ、セブンとローソンの二つの組み合わせにより、札幌市近郊の基幹センターから函館市のサテライトセンターまでの横持ち配送の共同化を実施しました(図表➁)。
物流コストの削減と同時に、SDGsの観点からトラックから出る温室効果ガスの排出量の削減にも着目しました。
この横持ち配送の共同化をさらに詳しく見ていきましょう。
基幹物流センターとは一般的に、在庫を持つDC(ディストリビューション・センター)、サテライトセンターとは、店舗配送のための仕分けをするTC(トランスファー・センター)を意味します。各チェーンは、エリアによっては、この基幹物流センターから毎日、あるいは週に何日かは遠隔地のサテライトセンターに商品を運んでいます。実証実験において、3チェーンはミルクラン方式(巡回集荷)を採用しています(図表➂)。
最初に、ファミマのトラックが札幌市近郊のセブンの基幹物流センターから荷物を積んで出発、次に同じ札幌市近郊にある自社の基幹物流センターで積み荷を行い、函館のサテライトセンターに向かいます。函館に到着したトラックはまず、後から積んだ(手前にある)ファミマの荷物を同社のサテライトセンターに積み下ろしをして、次にセブンのサテライトセンター向かう流れになります。
札幌から函館までは高速道路を使用し、片道310kmの距離を2社分の荷物を積んで効率化を図りました。今回の実証実験は、各チェーンの物流の時間帯に沿う形で実施したため、3チェーンの荷物を同時間帯で配送するのが難しく、2チェーンの共同物流の実証になっています。温度帯は常温のみとして、飲料、菓子、雑貨を中心に配送しています。
実証実験を運用した流通経済研究所の主席研究員(農業・地域振興担当)折笠俊輔氏は、筆者の取材に次のように話しています。
「これからトラックドライバーの数は確実に減少していきます。物流に関わる人材不足を互いに補うことを考える必要があります。SDGsにより環境負荷を減らすにも、1社だけでは限界があります。実際に3社とも、業界全体で取り組んでいく姿勢はお持ちだと思います」
折笠氏の話によると、もともと幹線を走るトラックの多くは積載率の最適化が図られていますが、平常時であれば積載率が高くて安定していたとしても、仮に発注量が増えてオーバーフローしたときには増便の必要が生じます。そのとき、2台目のトラックの積載率が低下したり、あるいは発注量が少ない場合は、通常の10t車を使わずに4t車で幹線道路を走らせたりするケースがあるため、トラックの車格を大きくして、共同化を図ることができれば、コストを下げられるといいます。
「センター間の物流に関して課題を挙げれば、各チェーンの時間帯をどう合わせていくのか。深夜寄りとか夕方寄りとか、各チェーンによって物流の時間帯が異なります。ただし、本当に必要になったときは、この部分のコンセンサスは得られるのではないかと思います」(折笠氏)
実証実験の第二が「遠隔地(過疎地域等)における店舗への商品配送の共同化」になります。物流効率があまり良くない函館エリアの遠隔地において、ローソンとセブンの組み合わせにより店舗配送を実施しています(図表④)。
函館から南西エリアのセブン2店舗、ローソン5店舗の計7店舗で共同配送を実施しました(ファミマは函館市の中心地に出店していますが、過疎地に出店していないため、店舗への商品配送には参加していません)。
各店舗への共同配送で課題として挙げられたのが、チェーンによって納品資材が異なることです。例えば、カゴ台車のまま、トラックに積み込むのか、あるいはカゴ台車を使用せず、直に荷物を積み込むのか、といった違いを解消していくことで、さらなる効率化が期待できるといいます。
もう一つの課題は、荷ほどきをドライバーが担うのか、店舗側の仕事なのか。共同化するときに、こうしたオペレーションの違いを解消していくことが課題となります。
このように、幹線道路の物流を共同化により効率化し、さらに、その先の遠隔地へ出店する各チェーンの店舗への配送も共同化して共存共栄が図れれば、店舗の周辺に住む顧客の日常生活が豊かに維持できるようになります。
話は前後しますが、今回の北海道の実験は第2弾であり、その第1弾は20年8月1日から7日までの1週間、東京都内の湾岸エリアで前述の3チェーンによる共同配送の実証実験を実施しています(図表➄)。
各チェーンの近接した店舗、合計40店舗を対象に、同じトラックで商品配送を実施し、共同化による物流効率化の効果を検証するというものでした。
東京・江東区の佐川急便の倉庫にある一つのゾーンを一時的に借りて共同物流センターを設置しています。
各チェーンのセンターから、あらかじめ店別に仕分けされたカゴ台車を、店舗にではなく、共同物流センターに商品を移送。センターでは、各チェーンのカゴ台車をいったん受けて、カゴ台車がそろった段階で1台のトラックに載せて、同じ配送ルート上にある各チェーンの店舗へ配送するという流れです。チェーンの店舗を横断的にルート設定することで、配送効率を高めていく狙いがありました。
しかし、こうした都市部よりも、店舗が分散されている過疎地の方が、積載率の向上や、輸送距離のフードマイレージ、ドライバーの労働時間など全ての数字をトータルすると、都市部よりも高い効果が得られるといいます。
流通経済研究所では、今回の北海道における実証実験の結果も踏まえて、22 年 10 月から社会実装を目指していくとしています。将来的には、前述の戦略的イノベーション創造プログラムの中で、コンビニだけではなく、スーパーマーケットやドラッグストア、メーカー、卸売業も含めて、物流に関するデータをやりとりできる物流データ連携基盤の構築を進めていくことを目標にしています。
こうした物流データをサプライチェーンの中で共有できれば、将来的にはコンビニとスーパーマーケットが同じトラックで物流を共同化したり、今回のように競合チェーンが共同化したりすることが可能になります。
「リテール業界がデータを交換するときに使う“データ交換所”のような機能をつくっておいて、お互いに許諾さえ取れば、そのデータを交換しながら物流を共同化するような流れにしたい。最終的に、そのような機能を構築するために実証実験を進めているのです」(折笠氏)
商品をA地点からB地点に運ぶところに優劣はありません。競合するコンビニ同士でも、コンビニとドラッグストアでも、同じトラックに混載することに不都合な理由は見つかりません。人々の暮らしを守るために、競合や業態の垣根を超えて、知恵を絞る時代が来ているのです。
(文:「月刊コンビニ」編集部)
今回の共同配送は、過疎地域の人々の生活インフラ維持、人手不足解消、環境負荷低減など、今後避けて通ることのできない社会課題の解決に貢献する取り組みであり、SDGsの観点からも社会的ニーズは非常に高いと考えられます。オペレーションや資材の統一など、これからクリアしなければならない課題はまだあるようですが、実現すれば競合の垣根を超えた“共創”の画期的な事例となるはずです。
コンビニ以外の業態も含めた物流データ連携基盤の構築を目指しているとのことなので、スーパーマーケットやドラッグストアといった小売業はもちろん、データ基盤構築や配送ルート効率化などを担うIT企業も含め、より良い未来に向けた“共創”の輪がどんどん広がっていくことに期待したいです。