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「アパレル×シェアオフィス」「本屋×カフェ」掛け合わせで実現する新たな価値とは ~店舗の異業種・新業態(前編)

ここ数年、世の中の状況が目まぐるしく変化する中で、街中のお店にも様々な変化が生まれているように感じます。単純に閉店/新規開店したというだけでなく、今までなかったような新しい形のお店を目にすることもあります。その中でも今回は業態転換や既存店舗とは異なる形の店舗を展開している事例に着目し、小売業DXの有識者・郡司昇氏にも意見を伺ってみました。


コロナ禍で事業を取り巻く環境が大きく変化する中、小売業界では消費者ニーズへの対応や売上向上、収益最適化などを目的として店舗戦略の見直しや新しい施策にチャレンジするケースが出てきています。

ザイマックス不動産総合研究所が公開している「コロナ禍における店舗戦略に関する実態調査2021」では、新型コロナウイルス感染症拡大により事業者を取り巻く環境が大きく変化する中、出店・改装・退店といった店舗戦略方針に関するアンケートを実施。その中で新規出店に関する質問項目の「出店意欲の程度」では「優良物件に絞って出店」と答えた飲食業の割合が80%という結果に。この背景には、コロナ禍でネットスーパー、Eコマース、テイクアウト、デリバリーといったラストワンマイルにおける販売チャネルが多様化し、「不採算店舗の整理・統合を行った事業者がテイクアウト・デリバリー専門店など新タイプの店舗を開発している」といった要因があると書かれています。さらに、「重視する出店立地」について、消費者の生活圏に近い「住宅地」が2021年の回答で増加していることを注視しており、今まで重視されていなかった立地も優良物件と考えられるようになりつつあるようです。

また、新型コロナウイルスに起因して主力事業で実施した施策として娯楽業、サービス業、飲食業では80%前後の割合で「賃料減額の申し入れ」を実施しており、特に飲食業においては「退店・中途解約の申し入れ」だけでなく、「既存店舗の業態転換」も実施しているなど、消費者行動の変化が店舗戦略にも影響を与えていることを示しています。

さらに事業戦略の方針について、「デジタル化、IT化を推進し、業務生産性を向上」という項目が「あてはまる、ある程度あてはまる」と回答した割合は約80%に達しており、多くの企業が店舗戦略におけるDX推進の必要性を感じていることが分かりました。

ーーそのような中、デジタル活用で店舗の省スペース化が進んだり、実店舗に生じた余剰スペースを有効活用している事例は何かありますか?

郡司氏:最近閉店してしまいましたが、洋服の青山が水道橋の店舗内にシェアオフィス(「BeSmart」)をオープンしましたよね。あれはECサイトにある商品をサイネージやタブレット端末で商品を取り寄せられる「デジタル・ラボ」というサービスを導入した結果、店舗の展示スペースが縮小できたので、そのスペースでシェアオフィス事業にチャレンジした事例だと思います。もちろん、洋服の青山のターゲットはビジネスパーソンなので、シナジー効果も見込んだ事業展開ですよね。
様々な新事業が成功するかどうかはともかく、既存店のサイズを必要最小限に圧縮することで、少ない人数で店舗を運営できるようになる点や、店舗在庫を減らして資産の回転率を高められる点でもメリットがあるのではないかと思います。

―――確かにデジタル活用で業務生産性を向上している良い事例ですね。青山商事の2022年3月期決算説明会資料を見ると、店舗や駐車場などの資産を他社との協業で有効活用するケースが紹介されており、今後も売場効率化を進めることで創出した空きスペースの有効活用を検討していくと書かれています。「デジタル・ラボ」というサービスを大型・中型店舗に導入し、余剰スペースを活用してシェアオフィス事業にも参入したということですね。このように、市場環境の変化に応じて積極的に新しいチャレンジに取り組むことは、今後の成長の鍵になるように感じます。

店舗のシェアオフィス活用以外にも「アパレル×カフェ」「本屋×カフェ」といった店舗も見られますが、これらはどういった店舗戦略が考えられるのでしょうか?

郡司氏:そうですね、アパレル店舗にカフェを併設するケースは、服を買いに来たお客さんにカフェでひと休みしてもらうことで、コーヒーの香りと一緒にお店で過ごした記憶を結びつけてもらうという狙いがあると聞いたことがあります。

本屋とカフェを組み合わせるケースは、家賃が高い都心だと本の売上だけで商売を成り立たせるのはハードルが高いのですが、商業施設であれば、本屋が上階層フロアにあることでお客さんを呼び込めたり、さらにカフェを併設することでお客さんの滞在時間を伸ばせたりといったメリットが得られるわけです。なので、ロードサイドで本屋単体を経営していくのはなかなか難しいですが、商業施設全体で見た時に他の業態と組み合わせることで、場の価値を高めている可能性がありますよね。

ーーなるほど、ちなみに以前、私たちがnoteのコンテスト企画で「#買うときのこだわり」という作品を募集した際は、本屋に価値を感じている人が多くいたので、本屋をうまく有効活用できる可能性があるというお話は嬉しいですね。一方、スーパーでもイートインスペースを拡大する動きがあったと思いますが、コロナ禍で縮小してしまった印象です。

郡司氏:そうですね。一時期、食料品スーパーとレストランを融合した「グローサラント」にチャレンジする動きが国内でも活発になっていましたが、コロナ禍で停滞してしまいましたよね。

ーー今後、世の中の状況に合わせてまた盛り上がりを見せるのか、引き続き注目したいですね。ちなみにスーパーではなくドラッグストアでの飲食スペースやカフェ展開はいかがでしょうか?

郡司氏:個人的にはドラッグストアやスーパーのような最寄り品小売業にカフェを併設するというのはあまり相性が良くないように思います。やはり、目的来店性が強いのでコーヒーの香りと買い物体験が結びつくような相乗効果はあまり期待できないのではないでしょうか。世の中で流行っているし、難易度が低いから……と安易な発想ではなかなか成功には至りません。

例えば郊外であれば、同じ業態で角度をずらして最寄り品ではない小売業を組み合わせるということで「ドラッグストア×家電」という組み合わせは有効かもしれないです。ドラッグストアは回転率が低い商品が多い代わりに、1店舗あたりのスタッフをスーパーよりも少人数で運営できます。そのような特徴に合わせて、一部のスペースに家電商品のデモを置くなどの活用はアリかもしれません。

ただ現実的には、人口減少が進む地方ではドラッグストアがスーパーの役割を果たすケースが増えているので、日常の買い物に事足りる程度の食料品をできるだけSKUを絞り込んでローコストで展開する形が、まずは加速していくのかなと思います。

ーーまずは生活者のニーズに寄り添った視点で考えてみるのが大切だということですね。今回は異業種の施設を併設するような「異業種展開」を中心にお伺いしましたが、既存店舗とは異なる「新業態」にチャレンジしているケースもあると思いますので、後編ではその話を詳しくお聞きしたいと思います。

(後編に続く)


【プロフィール】
郡司 昇(ぐんじ のぼる)
店舗のICT活用研究所 代表

ドラッグストア大手ココカラファインでEC事業会社社長として事業黒字化の後、全社マーケティング戦略を策定。マーケティングとECの責任者兼任。現職は小売業のデジタルトランスフォーメーションにおける小売業、ベンダー、顧客の三方良しを支援するコンサルタント。著書に『小売業の本質: 小売業5.0

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