見出し画像

時代のニーズとともに急成長するリテールメディア。その理由とは?そして今後の展開に期待

ここ数年、北米や欧米を中心に勢いを増している「リテールメディア」。
日本でも2021年にファミリーマートが伊藤忠商事と店頭を活用したメディア事業の新会社を設立したり、2022年にセブン-イレブン・ジャパンが「リテールメディア推進部」を新設し、広告事業の企画開発を推進していくことを発表するなど、徐々に広がりつつあります。

リテールメディアとは、小売企業の持つ店舗やWebサイトから取得したデータをもとに、ターゲットに合わせた広告配信を行う媒体のこと。小売企業、メーカー・ブランド、消費者それぞれにメリットがあると考えられています。

急成長を遂げている背景にはどのようなニーズがあるのか?そして、今後のリテールメディア施策はどうなるのか?海外の動向からご紹介したいと思います。

2026年には1,000億ドル規模に到達する見通し

ニューヨークを拠点に置く調査会社eMarketerによると、USにおけるリテールメディア広告費は2022年に前年比31.4%増の約413億ドルに達し、2023年には500億ドルを超え、全てのデジタル広告費の20%の割合を占めると予測しています。さらにBCGがGoogleと共同で実施した調査でも、USのリテールメディア市場は2022〜2026年の5年間で年25%成長し、2026年には1,000億ドル規模に到達するという見通しが書かれています。

さらに、直近の状況として、2022年3Q ※1の各社決算報告を見てみると、Amazon は広告収入が95億ドルと前年比25%の成長率で拡大。
Walmartは具体的な金額は公開されていないものの、グローバル広告事業の収入はWalmart Connectの40%増とFlipkart Adsの好調が牽引したことで、2Qから30%以上の成長率を遂げたと報告されています。1Qから2Qも30%近くの成長を遂げており、同社の広告事業が順調に拡大していることがうかがえます。
さらに、Targetはリテールメディア「Roundel」をはじめとする広告ビジネスの成長が前年比9.5%増を牽引したと説明されています。

 ※1 「2022年3Q」…Amazonは2022年7月〜9月の期間、WalmartとTargetは2022年8月〜10月の期間 

小売業界のみならず、CPG(消費財)企業や消費者ニーズの変化が、リテールメディアを後押し

リテールメディアが拡大している背景には、どのようなニーズや市場環境の変化があるのでしょうか?

イギリスの大手小売企業Tescoの子会社であり、顧客データ分析のリーディングカンパニーとして小売企業やブランドを支援するdunnhumby は、リテールメディアに関する業界の現状レポートを発信しており、リテールメディアの躍進を理解する上で押さえておきたい内容を4つの視点から取り上げ解説しています。

詳しく知りたい方はぜひWebサイトからダウンロードしていただきたいのですが、ここでは4つの視点を簡単にご紹介させていただきます。

1. 小売業界ではコロナ禍で食料品市場が成長した反面、マイナス要因について触れています。例えば、衛生管理や感染防止のための防護具の費用が増加したり、ECが加速したことでピッキングや配送コストが増加したりと、粗利が非常に小さい小売業界にとってはパンデミック関連コストの影響で損失が拡大するという複雑な結果が生じていることを指摘。その中で、リテールメディアはパーソナライゼーションによる販売促進を支援するだけではなく、売上と顧客満足度の向上に貢献できるという点でも魅力的な提案に見え始めていると説明しています。

2. CPG(消費財)業界ではコロナ以前の2018年から総売上高の成長率が低下していることを指摘し、マーケティング予算が近年で最低レベルになっていることから、次年度の予算を過去の実績ではなくゼロから策定し直す「ゼロベース予算(ZBB)」のような慣行が定着し始めているといいます。さらに、CPG企業は一部を除いて消費者と直接的な接点がなく、パートナーである小売企業から顧客の行動データが共有されないこともあるため、「多くのCPG企業が、買い物客が本当に求めているものを正確に把握できていない」ことを問題点に挙げ、これらのすべてが「新型コロナウイルス関連の理由を超えて、リテールメディアがCPG企業にとって非常に魅力的な選択肢になった理由を説明する一助になる」と述べています。

3. さらに、広告環境の変化について、GoogleのサードパーティCookie規制に伴い、「約99%のChromeユーザーに対してオーディエンスターゲティングができなくなることが広告主にとって大きな意味を持つ」と指摘。
不愉快/不適切なコンテンツを含むWebサイトでの広告配信を回避する「ブランドセーフティ」の観点からもリテールメディアは信頼を得ていることを解説しています。

4. そして最後に「Covid-19の短期・長期的な影響」により、消費者の購買習慣に大きな変化があったことについて触れていました。

McKinsey & Companyが2021年に公開した記事でも、パンデミック以降のCPG企業の課題や広告環境の変化に関連した内容が述べられています。例えば、消費者の3分の1以上が利用するブランドや小売企業を切り替え続けているという状況に対して、CPG企業の3分の2がデータドリブンマーケティングを最優先課題に置いていると紹介した上で、「消費者に適切なメッセージを、適切なタイミングで、適切な場所で、常に提供し続ける必要がある」と解説。しかし、CPG企業は膨大な量の詳細な消費者データを持っているにもかかわらず、実用的に活用されていないことや、消費者と直接やり取りしないためサードパーティデータ ※2に依存していたことを指摘します。そして、今後訪れるクッキーレスの未来に向けて、ファーストパーティデータ ※3やゼロパーティデータ ※4を収集するのが難しいCPG企業は「AmazonのAWS、TargetのRoundel、Walmart Connectなどのリテールメディアなど、すでに大量の消費者データとターゲティングに使用できる豊富な顧客セグメントを保有しているパートナーと連携する可能性がある」と述べられています。

 ※2 「サードパーティデータ」…顧客と直接的な関係を持たない第三者により収集された顧客情報等のデータ
 ※3 「ファーストパーティデータ」…企業が自社で収集した顧客情報等のデータ
 ※4 「ゼロパーティデータ」…顧客が意図的に企業へ共有する、自分に関する個人情報

大手小売企業で次々と立ち上げられるリテールメディアネットワーク

こうした市場環境の変化を受けて、大手小売企業を中心に様々な小売企業がリテールメディアネットワークを立ち上げて順調に拡大しています。

Targetは2016年から運営していたメディアを2019年にリテールメディアネットワーク「Roundel」としてリニューアル。1億人以上の会員ユーザーを抱えるプラットフォームとしてターゲティング広告や検索広告、ディスプレイ広告、ソーシャルメディアのソリューションなどを展開し、ブランドのパーソナライズされたマーケティング施策を支援しています。
ソーセージの製造・販売を手がけるJohnsonvilleでは、Targetで商品を購入した顧客への販売を全国キャンペーンを通じて強化すべく、Roundelのファーストパーティデータとディスプレイ広告を活用して、ライト層や購買履歴のある人々など各ターゲットに対してJohnsonvilleの「Made in the USA」キャンペーンと連動し明確なメッセージを届けるとともに、Targetの10%オフクーポンを実施することで、ロイヤルカスタマーを獲得。
さらに販売結果として店舗での売上が7.9%、オンラインの売上が4.4%増加し、メディアへの支出が店舗やオンラインの売上に結び付いたそうです。
このように、ブランドはRoundelを利用することで、適切な顧客層へのアプローチによる購買頻度の増加、店舗およびオンラインの売上を含む正確なROASの把握、顧客インサイトを活用した今後のキャンペーン活性化などが可能になります。

2021年にTescoがdunnhumbyと立ち上げた「Tesco Media and Insight Platform」は、2,000万人以上のTesco Clubcard会員と約700万人のアプリユーザーを抱えるリテールメディアプラットフォーム。One to Oneのパーソナライゼーションから広範なマスリーチキャンペーンまで、あらゆるニーズに合わせたターゲティング広告の活用、ブランドや顧客に合わせたインサイトの共有などを通じて、ブランドが顧客により良い買い物体験を提供することを支援しています。
ノルウェーの小売協同組合Coop Norgeは同プラットフォームを活用して顧客データとインサイトを深く理解し、パーソナライズされたデジタルクーポンを配布することで店舗の売上向上や顧客ロイヤルティ向上につながったそうです。
2022年にはITVXやPinterestなどのメディアとパートナーシップを結び、ブランドはこれらのチャネルを活用することでさらに顧客理解が進み、よりパーソナライズされた体験を提供できるようになると発表しています。

Krogerが子会社のデータサイエンス企業84.51°と立ち上げたリテールメディアプラットフォーム「Kroger Precision Marketing(KPM)」は、Krogerが持つ膨大なファーストパーティデータを活用し、広告主が希望する顧客層へ正確にターゲティングするためのメニューを提供しています。
84.51°のWebサイトでは実際に行ったデータ活用の事例として、「75ドル以上の買い物で10ドル割引」というKrogerのデジタルクーポン施策について紹介しています。このプロモーションは小売企業から新規顧客獲得と売上増加を期待されていましたが、想定していた成果が出なかったため、84.51°が詳しい効果検証を実施。その結果、新規顧客獲得ではなく、過去4週間Krogerで買い物をしなかった顧客の再来訪に貢献していたことがわかりました。さらに売上原価率がプラスであることを発見しデジタル・プロモーションを実施した店舗では、顧客の総支出額がより高いことがこのテストで確認できたそうです。この取り組みを拡大すると3,600万ドルの増収が見込めることから、Krogerは再度プロモーションを実施することを促されたといいます。

このように、小売企業が持っているファーストパーティデータや購買データを活用し、購買意欲の高い顧客に対してパーソナライズされた体験を提供することで購入や満足度の向上につなげられる点が、リテールメディアが支持されている大きな要因だと考えることができるでしょう。実際にCriteoが2022年に250人のブランドマーケターと250人のメディア企業の意思決定者に実施したリテールメディアに関する調査では、マーケターの回答者のうち78%がリテールメディアへの支出を増やしたいと答え、半数以上が「ウォールドガーデン(Facebook、Amazon、Appleなど)」のキャンペーンよりも実際の購入に結び付き、売上拡大や顧客層の特定につながったと評価しています。

リテールメディアとソーシャルコマースの可能性

こうしたリテールメディアの強みを生かすことで、さらなる発展の兆しも見えてきています。その一つが、近年成長が目覚ましいソーシャルコマースとの組み合わせです。

WalmartはZ世代とミレニアル世代の消費者、およびソーシャルメディアのユーザーの約3分の2によって、全eコマースの中でソーシャルコマースの占める割合が2025年までに17%に成長すると予測しています。そして、Walmart Connectは広告主のターゲット顧客にリーチするための多様なエコシステム構築し、広告主にとって最適なソリューションを提供するため、2022年にWalmart ConnectのイノベーションパートナーとしてTikTokやSnapchat、Firework、TalkShopLive、Rokuとソーシャルやエンターテインメント、Tコマース、ライブストリーミングを活用した広告ソリューションのテストを実施することを発表しました。

例えば、TikTokはWalmart Connectのターゲティングと測定を活用し、 TikTok 上でインフィード広告を配信する機会を提供したり、Fireworkではショッピング可能なライブストリームを実現させるなど、ソーシャル、エンターテインメント、Tコマース、ライブストリーミングを使った「テストと学習」の機会を提供しているようです。

さらに2022 年 10 月 18 日Walmartは「Walmart Creator」というクリエイターのための新しいプラットフォームを発表しました。登録したクリエイターは、数万点の商品にアクセスすることができ、紹介した売上に対して上限なく収益を得る機会が与えられます。Walmartはこの分野へ進出することで「買い物客がインスピレーションから購入までの距離を縮めることができるようにする」ことを目指しており、同社CMOのウィリアム・ホワイト氏は「お客様のお気に入りのクリエイター(インフルエンサー)とWalmartブランド、そしてお客様がWalmartで好きになるその他のブランドを直接結びつけることで、顧客のインスピレーションを高めることにつながるでしょう」と述べています。

McKinsey & Companyのレポートによると、SNSなどのソーシャルメディア上で商品・サービスの認知〜購買までをワンストップで可能にするソーシャルコマースは中国で流行し、USでも2021年に約370億ドルの商品・サービスがソーシャルコマース上で購入されるなど、大きな注目を集めている分野です。

近年の象徴的な動きとしては、2020年5月にMeta(当時はFacebook)が小売企業や小規模事業者がFacebookとInstagram上で簡単にECストアを開設できる「Facebook Shops」機能をスタートさせ、翌月には日本でも同機能がリリースされました。
その後、ライブ配信に商品タグを付けて配信中にユーザーがリアルタイムに商品を購入できるライブショッピング機能などが追加されましたが、2年後の2022年にはFacebookのライブ動画における商品のタグ付けなどの機能を終了することを発表。消費者ニーズが高まっているショート形式動画に対応すべく「リール機能」に注力する方針を示したようです。ちなみにInstagramのライブショッピングでは引き続き商品のタグ付け機能が使えますが、2022年にリール動画を簡単に始められるテンプレート機能を追加したり、顧客にアクションを促すインタラクティブなスタンプ機能の追加、リール動画を宣伝できるようにするなど、Instagramもリール動画の機能拡大に注力しています。
さらに同年、Instagramの一部のビジネスアカウントに対して、チャット機能を使って顧客から支払いを受け付ける機能も導入しており(日本未導入)、このように、SNS上で認知から購入までのユーザー体験をシームレスに実現できるようになったことは、今後ソーシャルコマースの発展をさらに後押しすると考えることもできそうです。

McKinsey & Companyはアメリカ人がこれまで以上にSNSプラットフォームに費やす時間が増え、特に若い世代の間でソーシャルコマースに対するニーズが高まっていることも指摘。「ソーシャルコマースはカスタマージャーニーに革命をもたらし、ブランドはその変化に合わせてeコマースを適応させる必要がある」と述べられています。

既に一部の小売企業で取り組みが開始されているリテールメディアとソーシャルコマース。今後、どのようなシナジーを生み出すのか、今後も小売企業の動向に注目したいと思います。

次回は、リテールメディアの成長を広告主視点から捉えるとともに、この領域にチャレンジしている海外のスタートアップ企業を紹介したいと思います。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!