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将棋AIで知られるHEROZに6期ぶりの最高益予想をもたらす3つの要素とは?

今やAIは様々な業種・目的で活用されるようになり、日常生活でもいろんなサービスを通じて身近な存在になりつつあります。しかし、ほんの10年ちょっと前はまだ世間一般に浸透しておらず、可能性は未知数だったところもあると思います。そのような中で、「将棋AIが現役棋プロ棋士に勝利した」というニュースが話題になったのを覚えている人もいるのではないでしょうか?

その将棋AIの開発からスタートし、近年は生成AIを活用したサービスを展開するなど、あらゆる産業でAIを活用した革新にチャレンジしているHEROZについて、最新の決算情報から読み解けることを決算が読めるようになるノートさんに解説していただきました。

今回は、2024年9月13日に発表されたHEROZ株式会社(以下、HEROZ)の2025年4月期1Qについて、解説・深堀していきたいと思います。

■HEROZとは?

HEROZは、最先端のAI技術を駆使して未来を創り出す日本の革新的な企業です。2009年の設立以来、HEROZは「驚きを心に」をコンセプトに、AI技術を用いた様々なサービスを提供してきました。

HEROZが特に注目を浴びたのは、2013年に同社のエンジニアが開発した将棋AIが現役のプロ棋士に勝利したことです。この歴史的な勝利は、AIの可能性を大いに示し、将棋界だけでなく多くの産業界からも高い評価を受けました。

HEROZは、将棋AIの開発を通じて蓄積した深層学習を含む機械学習によるAI関連の手法を、固有のコア技術としています。

現在は、将棋に限らず様々な課題を解決するAIを各産業に提供し、構想策定から実行、運用までを一貫して支援しています。

同社は「人間とAIが共に新しい価値を創り出し、AIX(AIトランスフォーメーション、以下「AIX」)の力で産業を変革し、世界を驚かせる。それがHEROZの目指すAI革命であり、未来を創っていく」という志を掲げています。

(出典: 「2025年4月期 第1四半期 決算説明資料」P39より)

また、近年M&Aも活発に行い、2024年4月期(以下、「前期」)ではエーアイスクエア社とティファナ・ドットコム社をグループ会社化し、2025年4月期(以下、「今期」)ではVOIQ社が新規グループ会社となりました。

それにより、一層のグループシナジーを作り出して、セールス・コールセンター領域でのAIXや、グループ全体の営業力強化を推進していく方針です。

(出典: 「2025年4月期 第1四半期 決算説明資料」P42より)

特にBtoBにおいて、カスタマイズされた個別のAIソリューションからパッケージ化されたAI SaaSの両輪で、企業のAIXの支援を進めています。

さて、今回の決算発表内容を見ていきましょう。

■HEROZの2025年4月期1Q(2024年03月〜2024年05月)

(出典: 「2025年4月期 第1四半期 決算説明資料」P8より)

2025年4月期1Qは、売上高14.0億円(YoY+25.5%)営業利益0.7億円(YoY+1.4%)経常利益0.6億円(YoY-7.4%)でした。また業績予想に対する進捗率はそれぞれ23.4%、14.9%、12.5%となりました。

(出典: 「2025年4月期 第1四半期 決算説明資料」P7より)

また、SaaS型プロダクトを中心としたビジネスモデルへの転換を行ってきました。

AI SaaSのKPIを見ますと、ARR(Annual Recurring Revenue:年間経常収益)36.6億円リカーリング売上比率66.4%AI Security リカーリング解約率0.8%です。

この後で詳しく見ていきますが、主なSaaSのKPIは順調に推移していることから、今期2Q以降の四半期業績は今期1Qを上回る四半期業績になることが予想されます。

それではSaaS型プロダクトのKPIを中心に詳細を見ていきます。

■SaaS型プロダクトのグループシナジーでARRが成長

(出典: 「2025年4月期 第1四半期 決算説明資料」P11より)

上図のように、SaaSビジネスの成長性や収益性を把握するために欠かせない重要な指標であるARRが、2024年4月期3Qより大きく成長していることがわかります。

今期1QのARRは36.6億円(YoY+26.1%)となり、36億円を突破しました。SaaSの上場企業として中堅レベルに入ってくる規模感です。

さらに、ティファナ・ドットコム社の「AIさくらさん」が、今期決算から反映されることになり、今期1Qの決算は前期4Qと比べても、ARRが一段と成長しています。

参考:AIさくらさんが、スマートキャンプ株式会社が主催する「BOXIL SaaS AWARD Autumn 2024」のチャットボット部門で「Good Service」、 「サービスの安定性No.1」、「機能満足度No.1」、 「お役立ち度No.1」、「使いやすさNo.1」に選出
※ 「お役立ち度No.1」以外の4つは連続選出

■リカーリング売上比率が増加傾向

(出典: 「2025年4月期 第1四半期 決算説明資料」P12より)

リカーリング⁽*⁾売上比率は66.4%となりました。

全体の売上に占めるリカーリング売上比率も、安定的に3分の2以上を占めるようになっており、ストック型ビジネスの拡大を進めています。

 ※リカーリングとは、継続収益(リカーリングレベニュー)を得ることを目的としたビジネスモデルを指します。

(出典: 「2025年4月期 第1四半期 決算説明資料」P13より)

また、2024年5月には生成AIを活用したエンタープライズ向けAIアシスタントSaaS「HEROZ ASK」とSaaS API連携開発サービス 「JOINT」が正式リリースされ、これら新規SaaSが引き合い・顧客数を増やしているほか、既存のSaaSなどについてもオーガニックで成長を続けており、今後もリカーリング売上の増加が期待できるでしょう。

また、生成AIの進展により、自動化されるタスク領域が大幅に拡大され、単なる生産性向上を支援するAIツールにはとどまらない価値提供を「HEROZ ASK」を皮切りに進めています。

これらの新規SaaSは、積み上げ型の収益モデルとなることから、売上高は着実に増加していく一方で、投資が先行します。

その為、利益面に関して当面は赤字となりますが、継続的な安定したリカーリング売上を積み上げることで損益分岐点を超えていけば、黒字化が見えてくるでしょう。

■解約率1%を下回り推移

(出典: 「2025年4月期 第1四半期 決算説明資料」P21より)

解約率の低さもHEROZの強みとなっています。バリオセキュア社と共同で事業展開しているAI Security事業における解約率は、当四半期は0.8%と引き続き低い水準で推移しています。

さらに、サイバー攻撃の増加に伴い、そのような脅威に対応するマルウェア対策関連の売上が好調に推移しています。サイバー攻撃が急増していることを考えると、引き続き需要は根強くあるでしょう。

またバリオセキュア社は、HEROZの売上高の半分以上を占めているグループ会社です。同社はHEROZの安定的な収益基盤に寄与しており、投資フェーズであるSaaS型プロダクトへの投資を支えています。

■まとめ

ここまでHEROZの事業内容や、2025年4月期Q1の業績、今期6期ぶりの過去最高経常利益を見込んでいる要因について、各種KPIを基に見てきました。

要点をまとめると以下になります。

  • SaaS型プロダクトのグループシナジーによるARRの成長

  • リカーリング売上比率が増加傾向、オーガニックのリカーリング売上が純増していることに加え、新SaaS型プロダクト「HEROZ ASK」と「JOINT」が本格的なリカーリング売上の増加に貢献する見込み

  • AI Security事業の解約率が1%を下回り推移している

HEROZは、まだAIが世間に浸透していない2013年に将棋AIで世間を驚かせ注目を浴びた企業です。AI SaaSの拡大戦略により、名実ともにAIのリーディングカンパニーとなれるのか。今後の動向に、引き続き注目していきたいと思います。

(文:「決算が読めるようになるノート」)

6期ぶりに過去最高経常利益が期待されるHEROZの成長要因について詳しく解説していただきました。同社は将棋AIで培ったコア技術を武器に、コールセンターの業務効率化やセキュリティシステム、駅や商業施設向けDXソリューションなど、様々な特長を持つ企業を積極的にグループ化することで、あらゆる産業のニーズやビジネス課題に対応していることがうかがえます。

また、各種SaaSビジネスが順調に推移し、AI Security事業の解約率は1%以下を維持していることから、顧客満足度の高いサービスを提供できていると言えるのではないでしょうか。コア技術の優位性だけではなく、AIを企業の課題解決や変革にどう活用するのか?というサービス設計、それを実現するためのM&A戦略の掛け合わせが、HEROZならではの強みを生み出しているように感じます。生成AI系スタートアップも含めてAI領域のプレイヤーが増える中、同社がどのように成長していくのかも含めて注目していきたいと思います。