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Nike

 僕は待っていた。この上なく待っていた。今日届く予定なんだ。でも時間帯はわからない。確かなのは今日届くということだけだ。今日は出かける予定もない。だから家でそれが届くのをじっと待つことにしたんだ。

 しばらくソファでじっとしていた。車のエンジン音が聞こえるたびにソワソワした。ダメだ、じっと待つことなんてできない。何か目標に向かって行動する必要がある。家でできることは何だ?僕には一つしか思いつかなかった。料理だ。冷蔵庫に入ってる材料で、作るべき料理すなわち目標を決め、それを目指して行動しよう。

 まずパスタを作ることにする。玉葱をみじん切りにして、フライパンで炒める。色がつき始めた頃にトマト缶を開ける。赤くどろっとしたトマトたちはプチプチ音を立てる。弱火にして蓋を閉める。そろそろ鍋の湯が沸いてきたので、そこにスパゲティをひと掴み入れる。5分ほど茹でて、さきほどのフライパンの中にスパゲティたちを投入して、トマトソースたちと混ぜ合わせる。さっと絡めたら皿に盛って、上から粉チーズとパセリをふりかける。飲み物はリンゴジュースをチョイス。トマトソースのパスタとリンゴジュースを机に置いて、その見た目と匂いを嗅ぐと空腹感が僕を襲う。パスタをフォークで巻いて口に頬張る。

 やはり料理はいい。作ってる間も食べてる間も待っている物のことを忘れることができる。食べてから1時間ほどすると、また僕は料理を始める。小麦粉と卵を使ってクッキーを作る。混ぜていろんな形に型取り、オーブンで焼く。待ってる間にコーヒーを淹れる。豆から挽いてペーパードリップをする。ポタポタと茶色い雫がカップに注がれていく。

 クッキーとコーヒーを食べた後は、リンゴとバナナとオレンジを切って皿に盛って簡単なフルーツ盛り合わせを作る。それを半分食べ終えた頃には、もう腹がパンパンで動けなかった。

 時計を見ると14:47分だった。48分になった瞬間、インターホンが鳴り響く。待ちに待った瞬間だ。膨れ上がった腹を抱えて配達員さんから荷物を受け取る。中には楽しみにしていた物がきちんと入ってある。それを取り出して、履いてみる。僕の足にピッタリと馴染んだ。

 僕はそのまま家を飛び出し、軽く走ってみる。分厚いソールが僕の走りをアシストする。いや、アシストなんてものではなく、僕にもっと走れと命令する。どんどん走るスピードは速くなる。走ってる途中で僕は気持ち悪くなり、家のトイレにそのまま飛び込んだ。

 吐き終わりフラフラとトイレを出ると、赤いチェックマークがこちらを睨んでいた。そう、僕はNIKEの新作スニーカーを買ったのだ!誰よりも早く!ガッツポーズをすると、また気持ち悪くなり、トイレに戻って行った。

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