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年末年始のなれそめ対策

12月30日から1月2日まで、夫の実家に行くことになった。
三泊四日なんて、私が実家に帰るときですらほぼしたことないのに。

自分の実家だったら幼馴染を飲みに誘おうか、地元のリサイクルショップを覗こうかと簡単に計画が立てられるけれど、詳しくない土地ではそうもいかない。
実家と違って、一日中ごろごろしているわけにもいかないだろうし。
のんびり積読や積noteを読みたかったけれど、そうもいかなそう。

そちらの実家では、年末年始はどう過ごしているの?

夫の弟たちと夕飯を食べていたある晩、そう聞いてみた。

別に大したことはしないよ。おせちも作らなくなったし。
Switch持って行って、みんなでやろうや。
ちょっと足を延ばして温泉行くのもありかもね。

ああよかった、そんならちょっと気楽だわ。
そう思った矢先、義弟(三男)が言った。

ただじーちゃんばーちゃんは、るる姉に会うのをめちゃ楽しみにしてた。

ひー!
私も義祖父母の方々とゆっくりお会いできるのは楽しみですけれども……!
じーちゃんばーちゃんと私が三日間盛り上がれそうな共通の話題って、なんなの……?

三日三晩語れるネタとしては私はインド映画の『RRR』をめちゃくちゃに推したいのだけれど、じーちゃんばーちゃんはおそらくご覧になってはいないだろう。
ほぼ初対面でいきなり「ナートゥをご存じか?」ってキメ顔で聞いてくる嫁。
シンプルに怖すぎる。

あるいは、12月31日の夕方に「及川光博 年忘れスペシャルライヴ2022『ゆくミッチーくるミッチー』が開演しましたよ!来年は一緒に行きましょうね!!」と鼻息荒く迫ってくる嫁。
来年以降は年末スケジュールにぜひとも組み込みたいと思っているのだが、結婚元年の今年はまださすがにおとなしくしておいた方がよさそうだ。

ここは慎重に、話題は夫一択に絞ろう。

ここ最近、夫の弟たちと飲みに行ったり、私の趣味つながりの年上の友だちと飲む場に夫を誘ったり、私の友人を家に呼んだりと、夫婦で人に会う機会が増えてきた。
そんなとき必ずといっていいほど聞かれるのが、我々のなれそめの話だ。
そりゃ新婚に聞く話題としては究極の鉄板ネタだろうとは思うものの、私個人としては、まだ語るには照れがある。

ところが夫は違った。
私の知人からふと水を向けられた夫は、真顔のまま「妻とはサークルで出会いまして~」と始めた。

つ!?!? ま!?!?!?

突然の「妻」呼びに驚いて目をひん剝いている私とは対照的に、私たちの出会いから結婚までの流れをよどみなく語る夫。
す、すげえ。

そんな数日前を思い出して、でもスラスラ答えちゃうと私たちのなれそめなんて1分で終わるんだよな、と思う。
私の場合は、三日間もたせなくてはならないのだ。
いや、なれそめだけで三日間語ったらそれはもはやアラビアンナイトか。
とはいえ、ある程度の時間をかけて、あまり照れずに、エンターテインメントとして提供できるくらいには仕上げておきたい。

義実家への予行演習のつもりで私はこれから、夫とのなれそめを書いていこうと思う。
惚気話が苦手な方は、このへんでUターンすることをおすすめする。

***

夫との出会いは、大学2年生の4月、スペイン語サークルの新入生歓迎会の飲み会だった。
第一印象は、「ウーロン茶の武士」。
みんながお酒を飲んではしゃいでいても彼はかたくなにウーロン茶を貫いていて、古武士のような姿勢のよさと併せて妙な存在感を放っていた。

「大学生になったら全然友だちができなくって」

隣に座ってサークルに興味を持ったきっかけを聞いたら、そう静かに返ってきた。
「友だちができない」って、そんな堂々と口にして恥ずかしくないのかしら。
彼のあまりにも丸腰な言葉に意表を突かれ、つい身を乗り出してしまった。
さらに聞けば私と同じ、一浪だという。
それならもう二十歳じゃない。
お酒は飲まないのかと尋ねると彼は、「お酒の味、おいしいと思ったことないんですよね」と眉根を寄せた。

ずいぶんと浮世離れした美青年だこと。

それが、彼に抱いた最初の感想だった。

あれ?この人、私にホの字なのでは?(古い)

そう思うようになったのは、文化祭の準備をしていたときのこと。
その秋、学校祭でスペインのすごろく「OCA(スペイン語で"がちょう")」を体験してもらう休憩所を催すことになった。
私がスペインで買ったOCAを何枚かプリントして、来た人に遊んでもらおうという試みである。
OCAをコピーして、ルールを日本語に訳し、駒を作り、さいころを用意して、室内をスペインっぽく飾り付ける。
弱小サークルだから、このくらいの準備がちょうどいい。

普段から部室に溜まっているメンバーで手分けして準備を進めていたある日のこと。
私がOCAをカラーコピーしに学内のコピー機に行こうとしたら、彼が「危ないから一緒にいくよ」と言った。

学生会館の5階から2階に降りてコピーするだけなんだけど……?
私、エレベーターでゾンビに襲われたりするのかな?
コピー機に挟まれてファンタジーに飛ばされたりするのかな?

「危ないってなによ」と笑って断ったつもりだったが、彼はそのままついてきた。
結局ゾンビに噛まれることなくコピー機のもとへ着き、挟まれることなくコピーを終えて、「全然危なくなんてないじゃない」と苦笑しながら部室に戻った。

その後OCA用にサイコロキャラメルを買いにスーパーへ、チラシ用の紙を買いに学内の生協へと買い物に出るごとに、彼は従者のようにぴったりとついてきた。
私の荷物を持って笑顔で後ろをついてくる様子はまるで自分専属のピクミンみたいで、内心満更でもなかった。

いかん、私も彼のことが好きかもしれない。

そう気づいて焦ったのは、文化祭まであと一週間というときのこと。
部室のテーブルに置いておいたサイコロキャラメルを勧めたら、「あんまり食べると他の人に悪いかなぁと思って食べないように気をつけてるんだけど、おいしいよねこれ」と彼は少し恥ずかしそうに手のひらを差し出した。

か、かわいいなおい!!

その遠慮がちな笑みは、相当な破壊力だった。
日ごろサラダチキンとプロテインばかり摂取しているキン肉マンのくせに、キャラメルに頬を染めていやがる。
そんなに好きならどんどん食べていいのに、遠慮していやがる。
ふふふ。
それをきっかけに、私は彼の一挙一動に小さなキュンを見い出すようになっていった。

一緒に電車の座席に並んで座っているとき、丁寧に足を閉じているところ。
他大学の学校祭でおこなわれていた、ミスターコンテストの課題のプロポーズを本当に誰かにプロポーズしているのだと早合点して「あんなふうにスマートにプロポーズなんてできる気がしない!」とおろおろしていたところ。
一口分箸で掬ったラーメンに、あらゆる角度から念入りに息を吹きかけるところ。
なんだかいい匂いするねと声を掛けたら、「汗っかきだから、腕にいい匂いのするクリームを塗っているんだ」と自身の屈強な腕を撫でていたところ。
なぜ腕!普通匂いが気になるといえば、脇あたりが妥当じゃなかろうか。

ともあれこうして彼は、「私にだけ過剰に親切なピクミン」から「ちょっとズレてるキン肉マン」へとめきめき変貌を遂げた。

私のタイプって、本の趣味が合って、お酒やおいしいものが好きな人だと思っていたんだけど。

「はじめて会ったときから、ずっと好きでした」
文化祭の直後に彼の告白を快諾して付き合いだしてから、時折そう首をひねった。
彼は仕事に必要な本以外は読まないし、食の好みも淡泊。
私と違ってお酒は嗜まず、爽健美茶を好んでいる。
どちらかというと人といるのが好きな私とは異なり、「あなたさえいればそれでいい」とかぎりなくミニマムな人間関係を謳歌している。

私たちは、似ているところを探す方が難しい。
でもそのおかげか、これまで一緒にいた七年間は一人でいたときよりもずっと彩り豊かな日々だったような気がする。

そんな日々の細かいことは、ぜひ新刊エッセイ『「お邪魔します」が「ただいま」になった日』を読んでいただけたら。
そうまとめて、すっと義祖父母に本を手渡す……ひひ、完璧ななれそめじゃないか。
残りの二日間は『おじゃただ』を読んでもらえば、三日間は余裕でクリアできるだろう。

ひょっとしたら義祖父母は『RRR』をご覧になっていて、一緒にナートゥを踊り狂うなんてこともあるかもしれない。
あるいは二人はすでにミッチーのベイベー&男子で、ミッチートークで熱く盛り上がるなんてこともあるかもしれない。
それが一番、望ましいんだけれど。
ともあれ今年の年末年始、準備は万端だ。

ていうかみんな、義実家ではどんなふうに過ごしているんだろう。
やっぱり、ヨイトマケパワーで乗り切るしかないのかしら。
来年以降の指針として教えてもらえたら、とても嬉しい。

***

そんなわけで、年末年始のつるる書店の発送について。
年末年始は、12月27日までにご注文いただいた分は28日発送それ以降にご注文いただいた分は1月4日発送とさせてください。

たぶん28日、29日は荷造りでバタバタしそうだし、1月3日は荷ほどきでぐったりしていそうな予感がするためです。
今年最後の、あるいは新年一発目のお買い物にいかがでしょうかっ!(宣伝)

ちなみに発送時につけている一筆箋は、仁尾智さん(短歌)小泉さよさん(イラスト)の『三十一筆箋 −猫−』です。
短歌面と一筆箋面がセットになっているので、なんとなくお客さんの雰囲気に合わせて短歌やイラストを選んで送ったりしています。

短歌一筆箋の一例

特に猫好きから大好評なこちら。
販売店は下記のサイトからご確認いただけます。


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